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『おまえのせいで、うつになったんじゃ、ボケ!』第42話:産業医との接し方

3月9日午後6時55分
△△医院診察室


 
産業医「ごめんね、すっかりお待たせしちゃって」

ボク「こちらこそ、遅い時間にすみません」

産業医「会社から、事前に資料をもらったんだけど、これが、説明なくって。なので、見ながら聞かせてもらっていいかな?」

ボク「もちろんです(なんだよ、本人の承諾もなく、人事担当のヤツ勝手に!)」

………………………………

ボク「……なので、うつ病になってしまったのに、この短期間で復帰してきちんとやっていけるか、不安なんです」

産業医「うーん、いままでの話を聞くと、そもそもあなたはうつ病に“なってしまった”じゃなくて、うつ病に“させられた”じゃないかなぁ」

ボク「え?」

産業医「“なってしまった”という負い目は特に感じずに、“させられた”という気持ちで、仕事再開してみたら?」

ボク「……」

産業医「あと、働き始めた週末にいきなり連休が来るから、連休終わったあとから、復帰してはどう?」

ボク「し、しかし、一日でも早く復帰したいんですが……」

産業医「だけど、連休前に復帰して調子悪くなったら、その後、病院やってないよね?」

ボク「た、確かにそうですが……」

産業医「うつ病の場合は、復職後に調子を崩すケースが多くて。特にIT業界はね」

ボク「そ、そうなんですか?」

産業医「調子を崩さないようにすることも大切。でも、崩す可能性が高いなら、崩したら崩したで、一刻も早く病院に行って元に戻すことも大事じゃない?」

ボク「……」

産業医「ボクはアドバイスをするけど、決めるのはあなただからね。今日、結論出す必要なんてないんだから、ゆっくり考えて」

ボク「は、はぁ」
 


いつもの病院で主治医から診断書をもらい、復職の許可が出ました。

ただし、主治医は、ボクの職場環境や業態等について詳しくないこともあり、産業医とも相談して、最終的な復職の日取りを確定することになりました。


さっそく、会社の人事担当に連絡を取ります。

そこで、産業医に会う趣旨と面談の場所と日程調整をしてもらいました。

ボクは産業医に会うまで、「どうせ会社から雇われた融通の利かないヤツ」と見下していました。

さらに、「形式的な一度限りの面談」と考えていたのですが、この産業医とは、この日以降も会うことになり、長いお付き合いになるとは、この時は思ってもいませんでした。


初めての挨拶を早々に終えて、いきなり直球をぶつけました。

あの、産業医は、主治医とどう違うんでしょうか?

「まぁ、あなたの会社とは長い付き合いなので、その観点でもアドバイスできるお医者さん、かな」

“その観点”というのがどういうことか、その時は分かりませんでした。

先生は、持っていたボールペンを机に置くと、

「産業医なんて、満足なお金をもらっているわけじゃないから、ボランティアや趣味のような感じでね。だから感じたこと、言いたいことはズバッと伝えちゃうんだよ」

と笑って言いました。

(あぁ、失敗した……)

こちらが、そう思った瞬間、

「でね、どういうつもりで来たか分からないけど。実は、ほとんど、あなたの会社から事前に話を聞かされてなくて、まぁ、あるのは……この資料ぐらいなんだよね」

先生がそう言って、机の上にあった何枚かの資料を持ち上げてボクに見せます。


それは、診断書と、ボクと人事担当とがメールでやりとりしていたコピーでした。

会社は、本人の許可なく、こういう情報提供していいのかよ

ボクがイラッとしたのを察したのか、

「まぁ、あなたの会社らしいよね」

手に取っていた資料を机に裏返して、今度は、真っ白なボクのカルテを開きます。
 
そして、ボクはうつ病になる前のことから話し始めました。

先生は、本当にこちらの会社の事情に詳しく、

「その威圧するお客さんにも困ったけど、でも、あなたの会社、そこと取引しないという選択肢は、ないだろうなぁ」

と、サラリと話しました。

上司との関係のこと、仕事中に倒れたこと、治療をしていた時のこと、全て話しました。

それぞれについて、先生の返答を聞くと、ボクの通っている会社のことを非常に熟知していることが分かります。

先ほど、先生が話していた“その観点でもアドバイスできる”というのがどういうことか、よく分かりました。


ずっと笑顔で聞いていた先生ですが、途中で一回だけ、表情が堅くなった瞬間がありました。

「その主治医の先生、もしかしたら、あなたの復職についてまだ早いとか言ってなかった?」

「あ、言ってました」

「でも、復職を許可したんだよね?」

「は、はい」

「……」

「?」


二人の沈黙がしばらく続いた後、

≪ブブーブブーブブーブブー≫

ボクのスマホのアラームが鳴りました。夜の薬を飲む時間です。

「お、結構時間が経っちゃったね、疲れたでしょう?あ、じゃあ、最後に、何か質問ありますか?」

「そうだ、今日のお代はいくらですか?」

「はは、あなたからはもらいませんよ。では、何かあったらここに連絡してね」

そう言って、ボクに名刺を渡すと、病院の出口まで一緒に付き添ってくれました。
 
(お代は誰からもらうんだろう)

と思いつつ、帰りの電車に乗りました。

 
星も見えない天気があまり良くない日でしたが、ボクの心の気分は晴れた気がしました。

そして、この時、復職する日取りは、もうボクの中では決まっていました。









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