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『おまえのせいで、うつになったんじゃ、ボケ!』第41話:病院で宗教の勧誘をされる

3月12日午後4時50分
調剤薬局待合室


 
???「……さん?」

ボク「?」

???「あ、あの……」

ボク「!」

???「確か、同じ病院に通っていますよね?

ボク「……いや、ちょっと分かりません(こわ、なにこの人……)」

???「以前、病院でパンフレット、落としましたよね?」

ボク「あ!(今日はメガネしてないから気が付かなかった)」

黒髪女性「あのときは、顔色も良くなくて心配でしたんですよ、もう、だいぶ良くなってます?」

ボク「ま、まぁ」

黒髪女性「ごめんなさい、急に。あ、あの、いまカウンセリング、受けてますか?」

ボク「いや、先生がまだ必要ないって」

黒髪女性「でも、いずれ、必要になりますよ」

ボク「そうなんですかね」

黒髪女性「良ければオススメのカウンセラー、教えましょうか?同じお金を払うなら、良い方がいいでしょ?」

ボク「まぁ、そうですけど」

黒髪女性「このあと、時間、10分ぐらいだったら大丈夫ですよね?」

ボク「いや、ちょっと……」

黒髪女性「少しだけでいいんです。紅茶でも飲みながら、ボクの分はもちろん自分で持ちますから」

ボク「? あの、どうしてそんなに良くしてくれるんですか?」

黒髪女性「はは、確かにボクって危ない感じ、しちゃいますよね」

ボク「いや、ごめんなさい。そういうつもりじゃなくって

黒髪女性「でも、こういう病気になった者同士じゃないと分からないこと、話せないこともあるのかなって」

???「アンタさ、そうやって変な勧誘してるんじゃろ?」

ボク・黒髪女性「「!」」

老人「気ぃつけた方がいいぞ」

黒髪女性「ジジィ! し、失礼なことを言うなよ!!」

薬剤師「……さぁーん、いらっしゃいませんかぁー!」

ボク「あ、じゃあ、呼ばれているんで、これで失礼します」


 
あのまま黒髪の女性についていったら、どうなっていたでしょう。いまでもゾッとします。

彼女は誘うときに、こちらが断ることができないよう“10分なら時間大丈夫?”と誘いに乗る前提での聞き方をしていました。

また、彼女は“コーヒー”ではなく“紅茶”を誘っています。

この調剤薬局の近くに喫茶店は複数ありましたが、“紅茶”というキーワードで行き着くお店は限定的で一店のみでした。

恐ろしいことに、この女性、ボクの名前もきちんと把握していました。

確かに、診察室から先生に呼ばれるときも、受付で会計をするときも、名前を呼ばれていました。

なので、待合室に長くいれば、それを知ることは容易にできたでしょう。

実際、後日、この女性と老人と同じ時間帯の診察を受けることがあり、そこで、それぞれの名前を知ることができました。(知ったからといって何も得することはありませんが。)


また、ボクは、次回の診察予約を受付でしていました。

その会話から、次の診察日時が女性にバレていたように思います。(ちなみに、この事件をきっかけに、インターネット予約に切替えました。)
 

結局、この老人に助けられました。その後、彼とは何度か会うことがありましたが、軽く会釈するぐらい。

心療内科に行くと分かるのですが、患者同士の会話はまずありません。

彼女が病院でボクに話しかけずに、調剤薬局で話しかけたのも、そういった雰囲気があったからだと思います。
 

ある日、彼が、珍しく話しかけてきました。

「こないだは、災難じゃったなぁ」

「あ、はぁ」

あのままだと、変な宗教の勧誘されるとこじゃったぞ

「え……。でも、どうしてそんなこと、知ってるんですか?」


考えたら、この老人もどういう人か分かりません。なんだか怪しい気がしてきました。


「そりゃあ、分かるじゃろ」

「いや、だからどうしてです?」

「わしも被害者じゃったからなぁ」

そのまま老人は、あたりを見渡して、

「ここに来るのは、そういう人ばかりじゃないからのぅ、一生懸命、治そうとしてるんじゃろうて」

しばらく沈黙して、袖をめくると、

「見てみぃ、ほっそいじゃろぉ?わしは、ガンでなぁ。心は治っても、体の方はもう治らんからのぅ

腕に力を入れて見せてくれましたが、どこが筋肉なのか分かりません。

「アンタ、体の方は大丈夫なんか?」

「まぁ……」

「そりゃいいな、じゃあ、アンタは心だけを治せばいいんじゃからな」


彼は名前を呼ばれると、笑ったまま、診察室に入っていきました。

診察室は防音設備なのに、その老人の声だけは、かすかに待合室にも聞こえてきます。
 

実は、彼と会ったのは、その日で最後でした。


時間帯が合わず、すれ違っているか、転院したのかもしれません。

ひょっとしたら、体の方の具合が悪くなったのかもしれませんし、もしかしたら……。
 
「アンタは心だけ治せばいいんじゃからな」
 
うつ病になってずっと気が張り詰めていたのですが、彼のその一言で、とても楽になりました。









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