見出し画像

Takaryu - Resources 全曲解説

2018年6月22日 www.takaryu.netにて掲載したTakaryuによる1st Full Album "Resources" の全曲解説です。

アルバム「Resources」について

このアルバムを制作するにあたって、ひとつあったのは前作の「MANUAL」の曲ってちょっとカワイイ部分があったんですよ。ピンポンパンポンいっているような感じで。当時は敢えてそうしていた部分もあったんですけど、次はそういうのはもういいかなっていう。何となくですけど、「次はカッコよくて、オシャレ。それでいてポップ」っていうのを目指していました。

各曲解説

1. A Place Called…


元々レトロゲームが好きで、この曲の冒頭にコインを入れる音を入れたんです。あれはアーケード・ゲームをイメージしました。あとこの曲のシンセは、メガドライブとかで使われていた「FM音源」っていう音を使っているんです。
当時のゲームのドット絵だったり、初期プレステの荒いポリゴンが好きなんです。なぜなのかわからないんですけど、敢えてしょぼいもの、敢えてアナログなものに惹かれてしまうんですよね。より身近に感じるというか。


2. Left-Field(ft.綿めぐみ)


この曲は2017年の6月ぐらいに出来た曲です。僕の勝手な持論なんですけど、重いキックと爽やかな声は合うと思っているんです。対比的にというか。
この曲は、わりと最近の海外のポップス的な曲の展開なんです。サビではあまり歌わないところが。そういうのがただ単にやりたかっただけなんですけど。
あとストリングスを使ったハウスの曲が前から作りたかったんです。
ストリングスを使ったハウス・ミュージックって、良曲が多くて。Leon VynhallとかPepe Bradock、Andresだったり。後半の3連符のラップみたいなパートは今のトレンドにもろ影響受けてます。

あと歌詞についてなんですけど、僕的に歌詞っていうのはあくまで曲の一部として聴いてもらいたいなあっていうのがあるんです。今、目の前にある「世界」とか「日常」をどうかしたいとも思わないし、どうしようもできないと思っていて。
ただ、この曲の歌詞で言うと「今は何処にある」っていうのがキーワードになっていて。
たとえば字面だけ見ると2018年って、すごく最先端な時代って感じがするかもしれないですけど、実際はローファイなものやアナログなものが流行っていたりする。
あと音楽というジャンルに限った話をすると、2015年辺りには、フューチャー・ベースとかフューチャー・ハウスとか「未来」って付くようなジャンルが出てきたんですけど、そこから先、今はローファイ・ヒップホップとかロウ・ハウスとかアナログっぽいものが流行りだしている。
たとえば「○○が今っぽい」とかよく言われるんだけど、その「今っぽさ」って何なの?っていう疑問ですね。「今」ってあるのだろうか?、「今を代表する音楽」っていうのがないんじゃないか?っていうのを思って、「今は何処にある」つていう歌詞を書きました。
とにかく「今」をテーマにしてます。


3. Null(version)


曲自体はBPM100のダウンテンポな曲です。
BonoboのSurfaceって曲があるんですけど、それに影響を受けて作った曲で。わりとアンビエント的な空間が広がっている中に強いビートが鳴って、ボーカルが入るっていうことをやりたかったんですけど、結果的に出来上がったのはSurfaceとは全く違うものになりました。これはかなり難産でしたね。
デモ自体は去年の夏頃からあったんですけど、これをどうやってフル尺の曲にすればいいのかなってずっと考えていて。特に展開でいろいろと悩んだんですけど、あるときにSuchmosのSTAY TUNEがサビ始まりだってことに気づいて、この曲もサビ始まりだったら成立するって思ったんです。そこからやっとひとつの形に出来ました。
で、元々この曲は自分で歌うつもりはなかったんですけど、制作の締め切り的に他のボーカリストにお願いするのはキツいってことになって、最終的に自分で歌うことにしました。自分で歌って、それを自分でエディットするっていうのは初めての経験でしたけど、めちゃくちゃ大変でしたね。ずーっと自分の声を聴くっていうのは地獄です!でも最近のトラックメイカー/プロデューサーは自分で歌っている曲とかがあるから、それが勇気にもなりました。

歌詞についてなんですが、去年っていろんなYouTuberが炎上した年なんですね。 色んなことで問題になって、一時彼らも謹慎するんですけど一ヶ月ぐらいで戻ってくるんです。
そうすると自分の信じていたイメージがガラッと変わってしまうんですよ。
炎上している瞬間はみんなして彼らを叩くんですけど、いざ戻ってくると「おかえり!」って温かく迎えるっていう、一体何が本当なんだろうって。
「昨日とは違う境界線で 変わってしまった意図」っていうのは、そういうことを考えた歌詞です。ある一面だけを見て善悪を判断したり、叩くのは良くないっていう。本当に会ってみないと分からないかもしれないぞ、という。
「もう一層見直すかのように あなたを知れたならば」っていう歌詞もそういうことですね。


4. Refusal


これは去年の7月ぐらいに出来た曲です。声を「タタタタッ」って連打するみたいなことをやってみたかったっていう曲です。
自分の場合、特にインストの曲って、わりと早く出来るんですけど、この曲はほぼショッピング・モールやカフェで作りました。ショッピング・モールのカフェでパソコン持っていって作業してましたね。
アルバムの他の曲も結構そういった外で作ったりしました。このアルバムの3分の1はカフェで出来ています(笑)。


5. F.w.p(ft.EVO+)


まずタイトルは、First World Problemの略で、直訳すると「第一世界の問題」なんですけど。

先進国の人たちが抱えるフラストレーション、例えばネット回線が遅くなったり、ネット注文した商品が届かなかったり、アフリカなどの問題に比べれば本当に取るに足らないことですけど、僕らみたいな人たちにとってはどうしようもない問題ですよね。そういった「現代の悩み」をテーマにした曲です。

今、いろんな形のストリーミングサービスが世の中に溢れていますけど、それって既に本棚がたくさんある状態だと思っていて。そうやって、ひたすらコンテンツが溢れている状態になると、逆に見たり、聴いたりする気にならないっていう。コンテンツを楽しむことが仕事みたいな。
スマホとかをぼーっと見ていても、たくさんの情報があるんだけど、薄ぼんやりとした情報しか結局頭に残ってないなと思っていて。最終的に「自分は何がしたかったんだろう」って思いながら一日が過ぎていく。
しかも、そういうひとつひとつの情報にタグ付けをしたり、例えば「これは点数が良いから美味しいお店」「これは点数が悪いからダメ映画」みたいな峻別をしていくわけなんですけど、凄くそれは浅はかだなと思いまして。
こういった色々な悩みは、First World Problemだなって思ったんです。 歌詞のアイデアは華氏451度という小説を参考にしたりして、仮タイトルも”451”だったんですが、 それだとあからさま過ぎるだろうと思って、F.w.p.にしました。

曲自体は去年の四月にはありまして、 曲調はUKガラージですね。最初は普通のテンポだけど、サビで2倍になるっていう、それがやりたかったんですね。リズムはJacques Greeneの影響受けてます。
あと本当はこの曲、6分ぐらいの長さがあった曲なんです。
でも次のトラックのResourceが先に出来ていて、これも6分ぐらいある曲だったから、削ろうと思って縮めました。歌をEVO+さんにお願いしたのは、初めて声を聴いたときから、僕がやりたいUKガラージとかハウス系の曲に合うなと思ったからです。ちょっとR&Bっぽい感じとかが合うと思ったし、元々EVO+さん自体の前のアルバムでも、いくつかそういう曲があったので。


6. Resource(ft.Annabel)


この曲はアルバムの核となる曲ですね。去年の二月くらいにできた曲です。
imoutoidっていうトラックメイカーがいて、今は亡くなってしまったんですけど、その人の楽曲が好きなんです。僕がやりたい音楽性にも近かったし。彼の楽曲をUKガラージっぽく解釈しようと思って作ったのが、このResourceです。imoutoidって人はベースラインがテクニカルで面白かったり、コードの展開も多くて。僕も同じようなことをしたくてこの曲を作ったんですけど、そのままやってしまうとパクリになってしまうので、だからサウンド面で自分の好きな音や技を取り入れてやってみました。
あと元々アニソンが好きなので、これは僕なりのアニソンです。アニメのオープニングを想定して1コーラス1分30秒くらいで終わるようになっています。本当は89秒以内に1コーラスが終わってないといけないみたいですけど。
曲自体はあっさりできたんです。ただ歌詞に3ヶ月かかりました(笑)。僕って、曲は2~3週間で出来るんですけど、とにかく歌詞が出来るのが遅くて。だから本来であればもっと早くこのアルバムも出すことができたんですけど、歌詞のせいでこんなに遅くなってしまいました(笑)。

その歌詞ですが、承認欲求について書いたものです。
歌詞がこうなったきっかけがありまして、昔、僕はSNSやブログなんかで「中学生なのに、こんな音楽知ってるんだぜ!」って思われたいんだろうなってことを書いていて、まあ今でもそういうことをたまにやってしまうんですけど、昔はもっと酷かった。知っているからって何だよみたいな、ことを考えてしまって。そこから何か生まれるのかみたいな。
もうひとつは、自分みたいなトラックメイカーはいくらでもいるし、どんどん新しい曲が生まれてくる。そんな中で、本当に自分が音楽をやる意味ってあるのかな?っていう疑問があって。
話を大きくすれば”自分はどこに在るのか”みたいなことですよね。 そういったことをテーマに、色々な文献、映画の”ファイトクラブ”や小説の”ハーモニー”などを参考にしたりして歌詞を作りました。

ただ歌詞をいろいろと書き続けていく中で、「あれ、歌詞の世界がネットから広がってないな」と思ったんです。僕は歌詞で情景描写をするのが好きなので、一番最後に「閉じたデバイス ケーブル繋ぎ 瑠璃に染まるカーテンを背にしている」って歌詞を加えました。瑠璃に染まるカーテンっていうのは夜明け直前のことで、これを加えることでようやく現実の情景を描くことができたと思いました。

歌ってもらったAnnabelさんは、中学生の時に観ていたアニメの主題歌で知りました。本当に歌がいいなと思っていたんです。多分、アーティストの人っていろいろな妄想すると思うんです。たとえばアルバムを作るとしたら、この人をフューチャリングしたいとかって。僕がそのときにしていたうちのひとりがAnnabelさんなので、ひとつ大きな夢が叶いましたね。


7. Relationships/Reprise


Relationships/Repriseは、もともと別々の曲だったんですけど、ひとつにしてみました。
今流行のローファイな感じにしてみて、一度カセットMTR買ってそれに録音したりして作りました。RepriseはResourceのピアノの伴奏だけを取り出したものです。2つ並べた理由っていうのは、海外のラッパーの真似です(笑)。


8. Rain


Rainは去年の1月ぐらいに作ったやつで、トラップの曲が作りたいなと思って始めたものです。ちょっとジャジーで暗い感じですね。タイトル自体は、「serial experiments lain」っていう2000年代にあった難解なアニメから取っていて。海外のファンも多いアニメなんですけど、そのサウンドがその世界観に近いかなと思ってつけました。


9. Cave(ft.宮原永海)


この曲は一昨年の冬ぐらいに出来た曲です。単純に歌ものフューチャー・ベースを作りたいって思って、作った曲です。本来、フューチャー・ベースってもっと明るい曲が多いんですけど、これは暗いです(笑)。それはどうしようもない自分のクセみたいなものだと思います。
この曲の歌詞は、響き重視ですね。何かを伝えたいっていうより、音重視というか。
アルバムの中でも作りきれたっていう満足度が高い曲かもしれないです。曲としても歌詞としてもシンプルだし。でもシンプルが一番難しいんですよね(笑)。何を選び抜くかみたいな。
宮原永海さんにお願いしたのは、R&BとかHip Hop寄りの人なんですけど、あまり声が重くなく、どこか爽やかで透明感があるんです。その要素がこの曲に必要だったので、良かったです。


10. Static Thought(ft.綿めぐみ)


一昨年の12月ぐらいに16小節ぐらいのデモはあったんですけど、なかなか形にならなかったんです。で、ある日、ローファイ・ハウスの要素を取り入れようと思って取りかかり、前半のパートはそれっぽくなっているんです。長尺のハウスの曲をアルバムに入れたいっていうのはずっと思っていて、それをこれでやろうと。
歌詞とメロディは、もう、エモいですよね。ただ歌詞は難産でした。
この歌詞を書いた頃って、目の前の状況が変わらなかったり、妙に感傷的になることが多くて、その思いをそのまま書いた感じですね。
Burialじゃないですけど、歌詞はマクドナルドで書きました。
マクドナルドの2階席で書いていたんですけど、そこから見えるいろんな人を思いながら、ちゃんとした高校生じゃない自分をどこかで憂いているというか。
いわゆる「青春」をおくりたかったんだけど、それができなかった自分に対して憂いている気持ちというか。
とにかく歌詞が重く自分が入っているんで、これを他の人に歌わせるのは申し訳ないなと思っていたんですけど、この重い感じを、いい意味で軽くしてくれるんじゃないかと思って、綿さんに頼みました。でも、こういう歌詞ってどこかで共感してくれる人もいると思っていて。


11. Suburbia


インストでHip Hopっぽい曲です。去年の9月くらいにできた曲です。
僕が住んでいる場所って、都会でもなければ田舎でもない、郊外なんですね。ひたすら続く住宅街とかさっきのRufusalみたいに巨大なショッピング・モールとか、そういう郊外の景色が僕は好きで、それをイメージして出来た曲です。この頃に、映画の「アメリカン・ビューティー」を観たんですけど、その影響もあります。あれは郊外の幸せな家庭で起こる、いざこざがテーマになっているんですけど、その感じもテイストのひとつになっています。


12. Reminisce Over You(ft.宮原永海)


これは、いわゆる歌ものHip Hopみたいな感じです。タイトルもまぁそういうことですよね。
これは一昨年の11月ぐらいに作った曲です。
これを作っていたときって、よくAnderson.Paakとか、Robert Glasperを聴いていたので、その影響があるのかもしれません。後半のエレピソロはRamsey Lewisを意識しました(笑)。
歌詞はノスタルジーについて書いたものです。ある日、「なぜ電柱とか信号とか、日本のどこにでもある普通の景気に我々はノスタルジーを感じるのか?」っていうネットの考察を読んで。そこに書かれていることに歌詞は影響されていますね。
“電線の影は既視感なぞるように”
“響くチャイムが追憶を深く深くする”とか。
目の前にある景色は、まぎれもなく「今」なんだけど、どこか「昔」のような感覚になることがあるんです。新海誠監督のアニメって、その典型だと思うんですけど。その逆もあって、60、70年代の映画に出てくる町並みが、すごく「今」な感覚になることもあるんですね。例えば北野武監督の映画であったり、海外だとミケランジェロアントニオーニ監督だったり。
Static Thoughtの歌詞では「町から出たい」って言っていたんですけど、でもその目の前にある町には思い入れがあって、惹かれてしまう。そんな思いや現象について、自分なりに考察している曲です。でも答えは出ないんですけどね。だから「この事象をどう取り込むかずっと 悩んでいる」って書いて終わらせました(笑)。


13. Lost the Manual


これは2015年のCOUNTDOWN JAPANに出る前ぐらいに作った曲です。
前作の「MANUAL」は、僕の「取扱説明書」みたいなものだったんです。こんな曲を作る人です、みたいな。でもある日、そんな「取扱説明書」なんてものは無くせ!と思って、作った曲です。
昔、ある知り合いの人に「自分のスタイルを持った方がいい」って言われたことがあるんですよ。
当時は、ハウス、ドラムンベース、エレクトロニカとか、自分の音楽の中にいろんな要素がごっちゃまぜになっていた時期だから、「自分のスタイルってなんだろうな?」って悩んでいたんです。
でも一通り考えた結果、僕はひとつのジャンルにとどまることは無理だろうなって思って、だからスタイルなんてものは、分からん!無くせ!っていう思いが、タイトルには入っていますね。
ただこの曲はゴリゴリのディープ・ハウスなんですけど(笑)。

でも僕が純粋に好きな音だったり技を増やして取り入れて行けば、自ずと自分の世界観が出るのかなと。”これが俺のサウンドだ!”みたいなのじゃなく、”この感じ本当たまらんわ〜”みたいな(笑)
今回のアルバムではそういうシグネチャーサウンドみたいなものを色々見つけてうまく楽曲に活かせたかなと思います。
多分知り合いの人はそういうことを言いたかったんだと思うんですけど(笑)。

個人的にもお気に入りの曲です。Reminisce Over Youが少しドラマチックだったから、ハジけた感じで終わらそうと思ったんで最後はこの曲になりました。終わりよければ全て良しじゃないですけど。この曲でアルバムを終わらせて、凄く良かったなと思いますね。


※2018年3月某日に行われたインタヴューを元に構成


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?