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ドクター・ミュラー

自分が専門とする循環器内科領域で学んだ知識を、医療者向けにアウトプットしていきます。フォロー、サポートいただけると嬉しいです。

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最近の記事

心不全に対するSGLT2阻害薬の使い方についてまとめてみた 2023.12

SGLT2阻害薬は元々糖尿病治療薬として登場しましたが、最近では糖尿病の有無にかかわらず心不全患者の予後改善に効果があることが明らかになり、心不全治療薬としてのエビデンスが急速に確立しています。 心不全の治療において、循環器内科医の間では、心不全の予後を改善する「ファンタスティック4」と呼ばれる4種類の治療薬(ベータ遮断薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬:ARNI、ミネラルコルチコイド受容体遮断薬、SGLT2阻害薬)の導入が推奨されています。 そこで今回は、こ

    • 「手術を受けるんだけど、この薬飲んでて大丈夫?」 術前の循環器系薬剤の休薬についてまとめてみた 2023.11

      患者さんが手術を受ける際、医療従事者は患者さんがもともと内服している薬を継続するか休薬するかを判断する必要がしばしばあります。しかし、どの薬をいつ休薬すべきかについて網羅的に覚えることはかなり難しいです。 そこで今回は、心保護薬、降圧薬、血糖降下薬に焦点を当て、2022年に日本循環器学会がアップデートした「非心臓手術時の合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」をもとに、これらの薬の休薬について解説します。 抗血栓薬の休薬に関しては、以前にまとめた記事を参照してください

      • 【専門医向け】特発性冠動脈解離についてまとめてみた 2023.11

        近年、冠動脈イメージング技術の進歩に伴い、これまで明らかにできなかった急性冠症候群(ACS)の原因も同定することができるようになってきました。従来は不安定プラークの破綻がACSの主な原因とされていましたが、現在ではerosion(浸食)やcalcified nodule(石灰化結節)などの頻度が想定していたより多いことがわかり、それ以外の原因も特定できるようになりました。 このような状況の中で最近注目されているのが、特発性冠動脈解離(Spontaneous Coronary

        • 心筋梗塞の定義 (Universal Definition)について調べてみた 2023.10

          心筋梗塞は非医療の方でもほとんどの人が耳にしたことがある、広く知られた疾患です。この病気は冠動脈の閉塞に伴い心筋虚血が起こり、心筋が壊死するというもので、その学術的な定義は国際的に使われているUniversal definitionによって規定されています。 このUniversal definitionは、医学技術の進歩に伴い、何度も改訂が行われており、2023年現在の最新版である第4版は2019年に発表されました。第3版との違いに焦点を当てながら、第4版のUniversa

        心不全に対するSGLT2阻害薬の使い方についてまとめてみた 2023.12

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        • 【医師向け】ACSに関するまとめ
          9本
        • 【医師向け】安定冠動脈疾患に関するまとめ
          2本
        • 【医師向け】心房細動に関するまとめ
          1本
        • 【医師向け】抗血小板薬に関するまとめ
          2本

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          「手術しても心臓は大丈夫!?」 非心臓手術の合併心疾患の評価と管理に関するガイドラインをまとめてみた 2023.9

          2022年、非心臓手術(つまり腹部手術や整形、脳外科手術など)における術前心機能評価に関するガイドラインが改訂されました。 手術を控える患者さんの心合併症リスクは、患者さんご自身やご家族、もちろん外科医にとっても治療成績に関わる重要な問題です。一方、実際どのような手術が行われるか手技の詳細を知らない循環器内科医にとっては、リスク評価をすること自体がなかなか難しいです。 そんな難問に対して、日本循環器学会が「術前心機能評価に関するガイドライン」で指針を示してくれていますので、

          「手術しても心臓は大丈夫!?」 非心臓手術の合併心疾患の評価と管理に関するガイドラインをまとめてみた 2023.9

          心室性期外収縮は治療が必要か? 2020.11.23

          心室性期外収縮(PVC)は健診でもよくみかけますし、モニター管理をしている入院患者さんでは日常茶飯事に遭遇する不整脈の一つです。 PVCはほとんどが無症状であり、一般的には治療を要しない良性の不整脈と考えられていますが、日本循環器学会が発表している不整脈薬物治療ガイドライン 2020年改定版 (以後、PCA-GL2020と記載)では、以下のようにリスク評価を推奨しています。 心室期外収縮が重篤な不整脈トリガーになる症例や,また心室期外収縮の多い症例では心機能が低下すること

          心室性期外収縮は治療が必要か? 2020.11.23

          虚血性心疾患患者における埋込型除細動器(ICD)の適応についてまとめてみた 2020.11.17

          不整脈は急性冠症候群(ACS)の患者さんによくみられる合併症の一つです。その中でも心室頻拍(VT)や心室細動(Vf)はACS発症後早期に生じることが多く、最悪の場合、突然死を起こすこともある重篤な合併症です。 従来、これらの致死性不整脈に対しては薬物治療が行われていましたが、薬剤以外の治療法として埋込型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)が登場し、その高い有用性は多数の研究で証明されています。 ICDは非常に良い

          虚血性心疾患患者における埋込型除細動器(ICD)の適応についてまとめてみた 2020.11.17

          心筋梗塞後の左室自由壁破裂についてまとめてみた 2020.11.11

          左室自由壁破裂(LVFWR)は、もっとも危険な心筋梗塞の合併症の1つです。心筋梗塞に対する再灌流療法やベータ遮断薬など薬物治療の進歩により、心筋梗塞に合併する頻度は1%以下まで低下しましたが、発症してしまうと死亡率が約80%と致死的な合併症です。 そんな怖い合併症である心筋梗塞後の左室自由壁破裂について、日本循環器学会(JCS)、ヨーロッパ循環器学会(ESC)のガイドライン等をもとにまとめていきます。 左室自由壁破裂の頻度JCSが発表している『急性冠症候群診療ガイドライン

          心筋梗塞後の左室自由壁破裂についてまとめてみた 2020.11.11

          急性心膜炎(Acute pericarditis)についてまとめてみた 2020.11.1

          胸痛といえば、急性冠症候群(ACS)や肺血栓塞栓症(PTE)が鑑別に浮かぶと思いますが、他にも鑑別として急性心膜炎(Acute pericarditis)があげられます。 急性心膜炎はそれほど頻度は多くない疾患ですが、日頃から胸痛の患者さんの診療をしていると、まさに忘れた頃にやってきます。 急性心膜炎の患者さんは胸痛を主訴に来院し、心電図でST変化がみられることから、急性冠症候群が疑われることが多く、冠動脈造影で狭窄がないことから急性心膜炎の診断にいたることもあります。

          急性心膜炎(Acute pericarditis)についてまとめてみた 2020.11.1

          PCSK9阻害薬についてまとめてみた 2020.10.22

          冠動脈疾患の二次予防には、LDLコレステロールの厳重な管理が重要であり、LDLコレステロールの管理目標は徐々に厳しくなってきています。European Society of Cardiology (ESC)のガイドラインでは、LDLコレステロールの管理目標を55mg/dl未満とかなり厳しい値に設定しています。 従来の管理目標値であれば、スタチン内服のみで達成できることが多かったのですが、日本動脈硬化学会ガイドラインの70mg/dlや、ESCの55mg/dlといった厳しい目標

          PCSK9阻害薬についてまとめてみた 2020.10.22

          急性冠症候群のLDLコレステロール管理についてまとめてみた

          天下○品のこってりラーメン、美味しいですよね。お酒を飲んだ後は、特に食べたくなっちゃいます。 脂肪分たっぷりの食事は美味しいのですが、脂肪のとりすぎは禁物です。特に急性冠症候群(ACS)を発症した患者さんにとって、LDLコレステロールは大敵です。 脂質異常症が長期間続くと、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を発症しやすくなることは言うまでもありませんが、二次予防においては厳密なLDLコレステロールの管理が求められます。 そこで、今回はACS患者さんのLDLコレステロー

          急性冠症候群のLDLコレステロール管理についてまとめてみた

          肺血栓塞栓症に対する血栓溶解療法についてまとめてみた 2020.10.11

          肺血栓塞栓症(PTE)は救急外来で遭遇する疾患の一つで、救急外来に従事する医師であれば初期対応をすることはよくあります。重症のPTEは死亡率が高く、日本循環器学会の『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)』(以後、「PT/DVT-GL2017」と記載)では、PTEの死亡率について以下のように記載されています。 発症時にショックを呈する重症例の死亡率は16〜25%,心肺蘇生を要した循環虚脱例では52〜65%に上ると報告 急

          肺血栓塞栓症に対する血栓溶解療法についてまとめてみた 2020.10.11

          左冠動脈主幹部病変の2ステント治療 j-Cypher、AOIレジストリー

          別のnoteで左冠動脈主幹部(LMT)病変に対するカテーテル治療(PCI)の治療成績についてまとめたのですが、ボリューム的に盛り込めなかった「LMT病変に対する2ステント治療の治療成績」に関する論文を紹介します。 ここで紹介するのは、日本の実臨床データである「j-Cypherレジストリー」と「AOIレジストリー」のLMT病変に対する2ステント治療に関する解析結果です。 第一世代ステントの治療成績 j−Cypherレジストリー2009年にToyofukuらが「j-Cyphe

          左冠動脈主幹部病変の2ステント治療 j-Cypher、AOIレジストリー

          深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症に対するDOACの選び方をまとめてみた 2020.10.4

          肺血栓塞栓症(PTE)の塞栓源は約90%が下肢や骨盤内の深部静脈で形成された血栓(DVT)です。そのため、PTEとDVTを一連の病態として包括し、「静脈血栓塞栓症(VTE)」と呼びます。 PTEとDVTの治療のうち、抗凝固療法に限ると内容が重複するところは多く、日本循環器学会の『血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)』(以後、「PT/DVT-GL2017」と記載)でも以下のように記載しています。 急性PTEとその塞栓源とな

          深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症に対するDOACの選び方をまとめてみた 2020.10.4

          心房細動に対するDOACの使い方についてまとめてみた 2020.10.1

          心房細動に合併する脳梗塞(心原性脳塞栓症)の予防には、長年にわたってワーファリンが唯一の内服薬として使用されてきました。しかし、2011年にダビガトラン(プラザキサ®)が発売されたのを皮切りに、リバロキサバン(イグザレルト®)、アピキサバン(エリキュース®)、エドキサバン(リクシアナ®)の4つの直接経口抗凝固薬 (Direct oral anticoagulants:DOAC)が本邦でも使用できるようになり、今やDOACは抗凝固薬の主流となっています。 そこで今回はそれぞれ

          心房細動に対するDOACの使い方についてまとめてみた 2020.10.1

          左冠動脈主幹部病変に対するPCIについてまとめてみた 2020.9.25

          このマガジンでは、循環器領域で皆さんの「こまった」の解決に役立つ(?)情報を、独断と偏見で勝手にまとめています。 冠動脈疾患の血行再建には、経皮的冠動脈形成術(PCI)と冠動脈バイパス術(CABG)がありますが、皆さんは「左冠動脈主幹部病変(LMT)への血行再建はどちらを選ぶ?」と質問されたら、CABGと答えるのではないでしょうか。 実際、私が国家試験を受けたときは「3枝疾患とLMT病変はCABG」と教わりました。 しかし、近年のカテーテル技術の進歩によって、カテーテル

          左冠動脈主幹部病変に対するPCIについてまとめてみた 2020.9.25