見出し画像

心房細動に対するDOACの使い方についてまとめてみた 2020.10.1

心房細動に合併する脳梗塞(心原性脳塞栓症)の予防には、長年にわたってワーファリンが唯一の内服薬として使用されてきました。しかし、2011年にダビガトラン(プラザキサ®)が発売されたのを皮切りに、リバロキサバン(イグザレルト®)、アピキサバン(エリキュース®)、エドキサバン(リクシアナ®)の4つの直接経口抗凝固薬 (Direct oral anticoagulants:DOAC)が本邦でも使用できるようになり、今やDOACは抗凝固薬の主流となっています

そこで今回はそれぞれのDOACの心房細動に対する用法用量、特徴について日本循環器学会(JCS)が発表している『不整脈の薬物治療ガイドライン 2020年改定版』(以後、PCA-GL 2020)を参考にまとめていきます。


ワーファリン、DOACどちらを使う?

まず最初に心房細動に対する抗凝固薬の選び方をみていきましょう。抗凝固薬の選択については、PCA-GL2020の図12(p49)にまとめられています。

スクリーンショット 2020-09-25 18.58.24

まず最初に心房細動を「弁膜症性」or「非弁膜症性」にわけます

「弁膜症性」とは、リウマチ性僧帽弁疾患(おもに僧帽弁狭窄症)と機械弁置換術後のことで、上図の右の列「僧帽弁狭窄症、機械弁」にあたります。※1

「弁膜症性」心房細動の場合、DOACの有効性、安全性はいまだ証明されていないため、使用できる抗凝固薬はワーファリンのみです

中等度から重度の僧帽弁狭窄症を伴う心房細動の脳梗塞予防としてワルファリンを用いる (推奨度class Ⅰ)
機械弁置換術後の心房細動患者の脳梗塞予防にワルファリンを用いる  (推奨度class Ⅰ)


続いて「非弁膜症性」心房細動の場合、CHADS2スコアを計算して、スコアが1点以上の場合には「DOAC推奨 or ワーファリン考慮可」になります。

ここでのポイントは、DOACは「推奨」されていますが、ワーファリンは「考慮可」であり、DOACのほうが推奨度が高くなっています。この点について、PCA-GL2020, p52では以下のように記載されています。※2

DOACを使用可能な心房細動患者の脳梗塞予防を新規に開始する際には,ワルファリンよりもDOACを用いる  (推奨度class Ⅰ)

ワーファリンよりDOACをclass Ⅰで推奨していますので、CHADS2スコアが1点以上でDOACが使用可能な場合はDOACを選択します。

次にCHADS2スコアが0点だった場合、「その他のリスク」の有無を確認しましょう。上のフローチャートから「その他のリスク」を抜粋します。

スクリーンショット 2020-09-27 17.08.55

ざっと見てみると、年齢、血管疾患、左房径は脳塞栓症のリスクになるのがイメージできますが、低体重もリスクになるのは意外でした。

ちなみに各リスクがどれほど血栓塞栓症の発症に影響するか、表33(PCA-GL2020, p49)にまとめられていますので引用します。

スクリーンショット 2020-09-27 17.07.53

低体重だと、たしかに血栓塞栓症が増えています。Fushimi AF registryのデータでは体重50kg以下でHR 2.13。けっこうなインパクトですね。

そして、「その他のリスク」に該当した場合については、以下のように記載されています。

スコアに含まれない有力な因子に関しては,従来同様「その他のリスク」として,抗凝固療法を「考慮可」とするのが妥当と考えられた.  (PCA-GL2020, p45)

ここでは抗凝固療法を「推奨」ではなく、「考慮可」にしています

CHADS2スコア0点で「その他のリスク」に該当する場合、患者さんの背景や出血リスク等を加味した上で、抗凝固薬を使うか判断するということでしょう。


CHASDS2スコア

CHADS2スコアは、心房細動から心原性脳塞栓症を合併するリスクを層別化するスコアです。下表の5つの項目のうち、該当する項目を合算します(「S2」だけは該当したら2点加点しますので、0〜6点の7段階です)。

スクリーンショット 2020-09-25 23.11.18

そしてCHADS2スコア0 点を低リスク、1 点を中等度リスク、2 点以上 を高リスクと判定します。図11 (PCA-GL2020, p47)は、CHADS2スコア各点数での脳梗塞発症率がグラフ化されています。

スクリーンショット 2020-09-26 20.38.04

右の図が日本人のデータです。脳梗塞発症率がCHADS2スコア5点で、4点より低くなっていますが、おおむね点数が増えるほど脳梗塞発症率が高くなっています。

PCA-GL2020では、心房細動患者における心原性塞栓症のリスク評価にCHADS2スコアを用いることをclass Ⅰで推奨しています。


DOACの使い分け

それでは本題に入りましょう。心房細動の患者さんに対するDOACをどのように使い分ければよいのでしょうか?

それぞれのDOAC間でいまだ優劣をつけたエビデンスはありませんので、どのDOACを使うべきといった絶対的な正解はありません。それぞれのDOACの特徴を理解し、患者さんにあったものを選んでいくのが良いでしょう。

ここからは私なりのDOACの選び方について述べます。

まず私が最初に考えることは、「禁忌に該当しないか?」です。特に腎機能には注意する必要があります。

スクリーンショット 2020-09-25 18.57.59

4つのDOACすべてでCCr 15未満は禁忌になりますが、ダビガトランのみCCr 30未満で禁忌になります。そのため、CCr 15〜30ではリバロキサバン、アピキサバン、エドキサバンのどれかを選択することになります※3

DOACは長期にわたって内服する薬なので、導入時にCCrが30以上でも長期使用しているとCCrが30を切ってくることがあります。導入時にCCrやeGFRが30近くまで低下している患者さんにはダビガトラン以外の3つを選択するほうが安全でしょう。

他にも各DOACの禁忌項目で大きな違いがあるのが併用薬です。特に抗真菌薬のイトラコナゾール(イトリゾール®)が問題になります。

ダビガトランは「イトラコナゾール(経口剤)を投与中の患者」は禁忌、リバロキサナバンは「アゾール系抗真菌剤(イトラコナゾール,ボリコナゾー ル,ミコナゾール,ケトコナゾール)の経口又は注射剤を投与中の患者」が禁忌になっています。

アピキサバン、エドキサバンではイトラコナゾール併用は禁忌ではなく、「併用注意」になっていますので、少し扱いが異なります。

イトラコナゾールを服用している患者さんはそれほど多くないですが、DOACを導入する際には、抗真菌薬を服用していないかはチェックしておいたほうが良いでしょう。

またイグザレルトは「中等度以上の肝障害(Child-Pugh分類B又はCに相当)」も禁忌になっていますので注意が必要です。


DOACの減量基準を確認!

私は禁忌の次に、その患者さんが出血リスクが高いか、つまり「あえて減量基準を満たす薬を選ぶべきか」を考えます

高齢、腎機能障害、転倒リスクが高いなど、通常量のDOACを使うことが危ない患者さんには、あえて減量基準を満たすDOACを選択するようにしています。※4

各DOACの減量基準を見ていきましょう。ガイドラインの表37(PCA-GL2020, p53)にまとめられています。

スクリーンショット 2020-09-25 18.58.07

各薬剤ごとに減量基準が微妙に異なります。正直なところ、私は未だ全部は覚えていません・・・。そこで私は、自分がよく使うDOAC2種類(1日1回内服と1日2回内服のもの)だけに絞って減量基準を暗記しました。

減量基準のポイントは、4つの薬剤すべてに腎機能障害が組み込まれており、アピキサバンだけ「血清Cr 1.5以上」、それ以外の3つは「クレアチニンクリアランス(CCr)  50未満」をカットオフにしています。

アピキサバンとエドキサバンは体重60kg以下を減量基準としていますので、小柄な患者さんで減量しやすいです。

またダビガトランとアピキサバンは年齢を減量基準に入れていますので、高齢者で減量しやすいです。

そして、PCA-GL2020, p52では出血リスクが高い患者さんへのDOACの選択について以下のように記載されています。

出血リスクの高い患者に対しては大規模臨床試験において大出血発生率が低い DOAC(アピキサバン,ダビガトラン 110 mg,1 日 2 回,エドキサバン)を用いる  (推奨度class Ⅱa)

ここで注意していただきたいのは、減量項目を満たすDOACを検討はするものの、減量基準を満たさない場合は不用意に減量せず通常用量を使うことが重要だということです。不用意なDOAC減量は脳塞栓症を十分に予防できないリスクがあることは留意しておく必要があります。


内服回数は1日1回か1日2回か?

最後に私が注意しているのは内服回数です。

ダビガトランとアピキサバンは1日2回内服ですが、リバロキサバンとエドキサバンは1日1回内服です。多くの患者さんは1日1回のほうが内服コンプライアンスが良いので、この点は大きな違いになります。


ダビガトランには拮抗薬がある!

ダビガトランはDOACで唯一、拮抗薬(イダルシズマブ:ブリズバインド®)があります。頭蓋内出血、消化管出血など重篤な出血を合併したときに拮抗薬を使えるというのは大きなメリットです。


まとめ

以上、各DOACの特徴を述べてきました。最後に非弁膜症性心房細動でDOACの禁忌がない症例での、私の使い分けをまとめます。

・若くて腎機能も良好、出血リスクが低い→多忙で内服コンプライアンスが悪そう→1日1回でよい「リバロキサバン」か「エドキサバン」を選択。

・体格が小柄で出血リスクが高い→減量基準に体重がある「アピキサバン」か「エドキサバン」を選択。

・転倒しやすい、下血や喀血など重篤な出血の既往があるなど出血リスクが高い人は「ダビガトラン」を選択。

心房細動

以上、心房細動に対するDOACの使い方についてまとめました。このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。

今後の励みになりますので、スキ、フォロー、サポートをよろしくお願いします。


注釈

※1:機械弁と異なり、生体弁による弁置換術後や僧帽弁形成術後、非リウマチ性の僧帽弁閉鎖不全症については「非弁膜症性」として扱うとガイドラインに記載されています。(PCA-GL, p44)

※2:PCA-GL2020, p51ではワーファリンと比べたDOACのメリット、デメリットについて以下のように記載しています。

ワルファリンと比較したDOACのメリットは,固定用量での投与が可能であり,用量調整のための定期的な採血も不要,頭蓋内出血発生率がかなり低い,食事の影響がほとんどない,他の薬剤との相互作用が少ない,効果がすみや かに現れ,半減期が短いため術前へパリンへの置換が不要ないしは短時間で済むことなどがあげられる.一方,デメリットとして,高度腎機能低下例では投与できない,半減期が短く服用忘れによる効果低下が速い,重大な出血の際の対策が十分確立されていない,患者の費用負担増加の可能性などがあげられてきた.このうち,重大な出血の際の対策については,近年中和薬が開発され,対策が確立されつつある

※3:維持透析患者さんには4つのDOACはもちろんのこと、ワーファリンも原則禁忌としています。

※4:出血リスクを評価するには、HAS-BLEDスコアが有用です。3点以上を「高リスク」と判定します。

スクリーンショット 2020-09-26 23.04.38


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?