見出し画像

心筋梗塞後の左室自由壁破裂についてまとめてみた 2020.11.11

左室自由壁破裂(LVFWR)は、もっとも危険な心筋梗塞の合併症の1つです。心筋梗塞に対する再灌流療法やベータ遮断薬など薬物治療の進歩により、心筋梗塞に合併する頻度は1%以下まで低下しましたが、発症してしまうと死亡率が約80%と致死的な合併症です。

そんな怖い合併症である心筋梗塞後の左室自由壁破裂について、日本循環器学会(JCS)、ヨーロッパ循環器学会(ESC)のガイドライン等をもとにまとめていきます


左室自由壁破裂の頻度

JCSが発表している『急性冠症候群診療ガイドライン 2018年改定版』(以後、ACS-GL2018と記載)では、LVFWRの頻度、好発時期は以下のように記載しています。

最近では貫壁性心筋梗塞の1%以下,発生時期はAMI後7日以内と報告

繰り返しになりますが再灌流療法は心破裂のリスク軽減に有用ですから、逆に発症から来院まで数日以上経過した症例(いわゆる「遅れ」)や、PCIで良好な再灌流が得られなかった症例は、急性期にLVFWRに注意しなければいけません


危険因子

それでは、どのような患者さんで自由壁破裂はおきやすいのでしょうか?
JCS、ESC(※1)それぞれのガイドラインをみていきましょう。

発生の危険因子として,高齢,女性,高血圧,閉塞した冠動脈への再灌流の遅れや初回AMIなどがあげられている.   ACS-GL2018, p68
Older age, lack of reperfusion, or late fibrinolysis appear to be associated with an increased incidence of cardiac rupture.  ESC-GL2017 Web Addenda, p5

両ガイドラインに共通している項目は、高齢、不十分な再灌流といったところでしょうか。

血圧が高い=左室内圧も高いということですので、LVFWRが起きやすいのは想像できますね。心原性ショックを合併するような梗塞領域が大きい症例よりも、高い血圧を出せる心機能が残っている小さい梗塞範囲の症例のほうが、LVFWRは注意しなければいけないということですね。


治療

上述のごとく救命困難な合併症なので、緊急手術が根本的治療であり、救命のための唯一の選択肢です。LVFWRが疑われたら、速やかに心臓外科医にコンサルト(心臓外科医が常駐している病院へ転院搬送)しましょう。


まとめ

・再灌流療法が遅れた高齢女性の心筋梗塞ではLVFWRに注意する

・LVFWRを疑ったら、速やかに心臓外科に紹介する


今回、LVFWRについて調べて感じたことは、 LVFWRに関するevidenceが少ないことです。ガイドラインでも詳しい記載はありませんでしたし、論文を調べてもLVFWRだけではなく、乳頭筋断裂や心室中隔穿孔と一緒にあわせて「心破裂 (Cardiac rupture)」とあつかっているものが多かったです。
LVFWRの合併頻度が少ないため、evidenceが作りにくいのでしょう。今後のさらなる研究が待たれます。


このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。
今後の励みになりますので、スキ、フォロー、サポートをよろしくお願いします。


注釈

※1:ESCが発表した『2017 ESC Guidelines for the management of acute myocardial infarction in patients presenting with ST-segment elevation』(ESC-GL2017)ではLVFWRについて、『Web Addenda』で記載しています。

ちなみに、ESC-GL2017ではm心破裂の合併頻度を以下のように記載しています。

Rupture of the LV free wall may occur in < 1% of patients during the first week following transmural infarction

JCSガイドラインの頻度と同じ文言ですので、JCS-GL2018はこの文章を引用したようです。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?