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深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症に対するDOACの選び方をまとめてみた 2020.10.4

肺血栓塞栓症(PTE)の塞栓源は約90%が下肢や骨盤内の深部静脈で形成された血栓(DVT)です。そのため、PTEとDVTを一連の病態として包括し、「静脈血栓塞栓症(VTE)」と呼びます。

PTEとDVTの治療のうち、抗凝固療法に限ると内容が重複するところは多く、日本循環器学会の『血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)』(以後、「PT/DVT-GL2017」と記載)でも以下のように記載しています。

急性PTEとその塞栓源となるDVTは,1つの疾患が異なる形で現れたものであり,両疾患の治療法は基本的には同じである.  (PT/DVT-GL2017, p22)

従来、VTEに対する抗凝固療法は主にヘパリンとワーファリンが使用されていましたが、2014年から順次エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバンがVTE治療薬としてわが国でも承認されました。

そして、その使いやすさからDOAC (Direct oral anticoagulant)は今やVTEに対する抗凝固療法の主流となっています。そこで、今回は『VTEに対するDOACの選び方』についてまとめます。


VTEに使えるDOACは3つ

2020年現在、日本では心房細動に対してはダビガトラン、エドキサバン、リバロキサバン、アピキサバンの4つのDOACが使用できますが、ダビガトランはVTEの保険適応がないため、VTEにはエドキサバン、リバロキサバン、アピキサバンの3つのDOACが使用できます。

まず各DOACの添付文書から、VTEに対する用法用量をみていきましょう。

・エドキサバン(リクシアナ®)
静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制
通常、成人には、エドキサバンとして以下の用量を1日1回経口投与する。
体重60kg以下:30mg  
体重60kg超 :60mg  なお、腎機能、併用薬に応じて1日1回30mgに減量する。
・リバロキサバン(イグザレルト®) 
深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制

通常,成人には深部静脈血栓症又は肺血栓塞栓症発症後の初期3週間はリバーロキサバンとして15mgを1日2回食後に経口投与し,その後は15mgを1日1 回食後に経口投与する.
・アピキサバン(エリキュース®)  
静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制

通常、成人にはアピキサバンとして1回10mgを1日2回、7日間経口投与した後、1回5mgを1日2回経口投与する。

添付文書では、エドキサバンは心房細動に対する用法用量と、VTEに対する用法用量が同じです。しかし、リバロキサバンは3週間、アピキサバンは7日間、心房細動に用いる用量の倍量をVTEに投与できます

しっかりと抗凝固を効かせたいときはこの2種類(リバロキサバン、アピキサバン)が良い選択肢となりますね。


心房細動と禁忌が異なる点に注意

DOACの禁忌事項に腎機能障害があるのですが、薬剤によっては心房細動とVTEで禁忌の基準となるクレアチニンクリアランス(CCr)が異なるので注意が必要です。

各DOACの添付文書から禁忌項目を抜粋します。

・エドキサバン(リクシアナ®)
〈非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制
1 .腎不全(クレアチニンクリアランス15mL/min未満)のある患者[使用経験がない。また、ベネフィットを上回る出血のリスクが生じるおそれがある。]
・リバロキサバン(イグザレルト®)
[非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制]
腎不全(クレアチニンクリアランス15mL/min未満)の患者[使用経験がない.]
[深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症の治療及び再発抑制]
重度の腎障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)のある患者[使用経験がない.]
・アピキサバン(エリキュース®)の禁忌  
〈非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制〉
腎不全(クレアチニンクリアランス(CLcr)15mL/min未満) の患者[使用経験がない。]
〈静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制〉
重度の腎障害(CLcr 30mL/min未満)の患者[使用経験が少ない。]

エドキサバンの禁忌は心房細動と同じく、CCr 15未満を禁忌としていますが、リバロキサバンとアピキサバンは心房細動ではCCr 15をカットオフとしていますが、VTEではCCr 30をカットオフにしています

CCr 15〜30の腎機能障害があるVTE患者さんには、エドキサバンが唯一使用できるDOACとなります。ただし、エドキサバンの添付文書には以下の記載があり、CCr15〜30の場合は用量を30mgへ減量するよう記載されています。

クレアチニンクリアランスが15mL/min以上30mL/min未満の患者では、本剤の血中濃度が上昇することが示唆されており、これらの患者における有効性及び安全性は確立していないので、本剤投与の適否を慎重に判断すること。投与する場合は、30mgを1日1回経口投与すること


まとめ

各DOACの添付文書から、VTEに対する各DOACの違いを述べてきました。現時点で各DOACどうしの効果や安全性を比較検討した大規模研究はありませんので、各薬剤の特徴を鑑みて、治療薬を選択する必要があります。

個人的には、腎機能障害がなく、しっかり抗凝固療法を行いたい患者さんには倍量投与が可能なリバロキサバン、アピキサバンを、CCr 30に近い腎機能障害がある患者さんにはエドキサバン30mgを使うのが妥当なのではないかと思います。

もちろんDOACが使えない患者さんや点滴で抗凝固療法を行うべき患者さんには、従来とおりのヘパリン、ワーファリンも良い治療薬です。状況に応じて各薬剤を使い分けていきましょう。


以上、VTEに対するDOACの使い方についてまとめました。このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。

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