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バレエ感想「森山開次 新版・NINJA」


森山開次さんによる「新版・NINJA」を見てきました。NINJAの躍動感あふれる独創的な予告映像を見てからというものずっと楽しみにしており、実は今年一番楽しみにしていた舞台です😊
出演は森山開次さんだけでなく、青木 泉さん、浅沼 圭さん、佐藤洋介さん、根岸澄宜さん、府川萌南さん、美木マサオさん、水島晃太郎さん、南 帆乃佳さん、吉﨑裕哉です。

「NINJA」の良かった点

①森山開次さんは天才だと思った

まず初めに森山開次さんは天才だと思いました。
森山さんの舞台を見るのは2020年の「星の王子さま」以来で、その時も森山さんの存在感と、周りのダンサーを色々な面から輝かせる独創的な振り付けや演出に衝撃を受けました。今回のNINJAにおいても森山さんの際立った個性は健在で、常に観客を惹きつけ、飽きさせなかったのは流石でした。

②観客を引き込む演出が沢山あって面白かった

劇場内に入った瞬間、壁に沢山の手裏剣の飾りがあり、開演前から観客をNINJAの世界に引き込もうという工夫は素晴らしいと思いました。振り付けや衣装が面白かっただけでなく、床に映されるプロジェクションマッピングとNINJA達の動きがリンクしていたり、巻物を出したり、小道具を自由自在に扱うなど、謎めいたNINJAを演じられていてとても面白かったです。

小道具はかなり凝っていて例えば劇中で使われる座布団は片面はそれぞれのNINJA達とリンクした色なのに、もう片面は白黒で、全員が一斉に枕投げのように座布団を投げるシーンは色彩が目まぐるしく飛び交い、まるでNINJA達が俊敏に動いているようで見応えがありました。
蛇や蛙の舌を新体操のリボンで表現しているなど、工夫が随所に凝らされていて非常に興味深かったです。特に蛇は細長い人形をダンサー達で動かすのですが、この人形がとてもよく作られており、ダンサー達の動かし方も上手でリアルだなぁと感心しましたし、細かい部分まで工夫された舞台だなと思いました(つい先日新国立劇場バレエ団のデカいだけのペラッペラのプラスチック龍を見たばかりなので、それと比較すると雲泥の差でした)

③ダンサーがセリフを言うなど、発想が斬新

ダンサー達がセリフを発したり、太鼓やリコーダーなど楽器を演奏する部分もあり、色々な意味で規格外の舞台でとても楽しかったです。プロジェクションマッピング、楽器やセリフなど、ダンスという枠組みにとらわれない自由な演出は非常に斬新だと感じました。
それにしても森山さんのリコーダーの吹き方が小学生時代の同級生のイタズラそっくりで、本当に子供の心を今でも持ち続けた方なんだなぁと思いました😂(最後のカーテンコールでもリコーダーを吹く真似をしていたので、本人的にも楽しかったみたいです😂)

客層について(新規顧客層の開拓について)

新国立劇場での上演ということもあり、いつもの大劇場で見るような舞台や客層を想像していたのですが、今回の舞台は客層がだいぶ違いました。大きな違いとして、子供がめちゃくちゃ多かったこと、そして外国人率が高いなと感じたことで、新たな顧客層を生み出していると感じました。
NINJAは新国立劇場バレエ団が夏場に興行するような「子ども向け」と銘打った作品ではありませんでしたが、子どもが多く、要所要所で笑い声が響くなど幅広い層の観客が一体となって楽しめたのはとても嬉しかったです。出演者達も子どもを意識している部分もあったみたいで、途中で客席に虫を模した人形を飛ばすシーンなどは子どもに近づけてみたりなど、子どもの興味を惹く工夫を凝らしていたのが印象的でした

またいつもの大劇場の公演に比べ、外国人を見かける確率が高かった気がします。パッと見て外国人とわかる白人や黒人だけでもかなりの数を見かけたので、見た目で判断できない東アジア系の外国人も含めると外国人率はかなり高かったのではないかと思います。
これは非常に面白いことで、やはり「忍者」という題材は、日本のバレエやダンスに興味のある外国人に訴求するテーマだっただけでなく、日本文化に興味を持つ今後の顧客、すなわち新規顧客層になり得る外国人達を劇場に呼び寄せる良いテーマでもあったのではないかと思いました。

かなり正直な感想

この舞台は森山開次さんの発想力と観客を惹きつける力に感銘を受けただけでなく、子どもや外国人率の高さから分析するに、新たな顧客を劇場に呼び寄せる力のある舞台だと感じました。それだけのポテンシャルを秘めた可能性に溢れる作品だと感じたからこそ、今後この作品が上演され続けてほしいと思いますし、外交の場や海外でも日本発祥の作品として上演されてほしいと思いました。

例えば先日まで英国で天皇皇后両陛下が歓迎を受けられましたが、今後そのような国際交流や外交の場でこの作品が上演されたら、とても面白いだろうなと思います。忍者は誰もが知っており、この作品はダンス自体も分かりやすく、日本らしさのアピール要素も多く、品も良いからです。
だからこそ、今後この作品が海外への展開をするのではないかという可能性を感じたからこそ、気になった点がいくつかあります。あくまでも私の感想ですが、それだけのポテンシャルを秘めたこの舞台について正直な思いを3点記載します。

①あまりに子供っぽすぎる

正直ダンスの舞台を見たというよりも、デパートのヒーローショーを見た気分になりました。子どもの興味を削がないことを優先したのかもしれませんし、将来的に子ども向けの作品として上演していくなら今のままで良いと思います。
しかし森山開次さんは東京2020パラリンピック開会式演出・チーフ振付を務めるなど国際的に広く活躍される方であり、今回の「忍者」というテーマを選んだ時点でいつかこの作品を「日本を代表する日本らしい作品」として海外展開することを念頭に置いているのではないかと思いました。(私の考えすぎでしたらすみません)

バレエやダンスは言葉がないからこそ分かりにくいと言われますが、森山さんのNINJAはダンサーが言葉を発したり、漢字を舞台後ろに写すなど随所に工夫が凝らされていました。しかし全体的に「子ども向けだなぁ」という思いは拭えなかったです。
もし森山さんが「NINJA」という作品の海外展開を目指すのでしたら、少なくとも外交の場での上演を目指すのでしたら、もう少し大人向けの要素を取り入れないと厳しいと思います。なぜなら外交の場の主役は大人であり、そのような場では文化や教養の高さアピールが必須となるからです。何が言いたいかというと大人にも子どもにも分かりやすかったけれど、大人にとってはなんだか物足りないと感じたということです。
ま、海外展開や外交の場での上演はあくまでも私の考えですが、この作品がそういう場で上演される可能性を秘めていると感じたからこそ、もっと大人に訴求する内容にすればいいのにと思いました。あくまでも私の感想です!

②言葉遣いが幼稚

これも上記と被りますが、ナレーターや音楽の歌詞など、随所に出てくる日本語が非常に幼稚で、言葉を考えられた方はあまり本を読まれないか、子ども向けに意識しすぎて簡単な言葉しか使えなかったかのどちらかだろうなと思います。
上記で「子供っぽい内容」と書きましたが、ヒーローショーのようなド派手な忍者達のせいではなく、劇中に出てくる言葉遣いがガキ臭くて、それが原因で子供っぽさを感じたのだと思います。虫の名前や表現しようとしている物のセリフを発することは観客への分かりやすさには繋がりますが、歌詞もセリフも手垢のついた使い古された言葉で斬新さを感じられなかったです。

せっかく森山さんという最先端を表現できる存在がいるのに、セリフや音楽が森山さん実力に追いついておらず、なんだか洗練された大人が無理やり子供の役をやらされているような、チグハグな印象を抱きました。あくまでも私の感想ですが!

③各自のソロに一貫性が無く、長すぎて苦行

こんな長文読む人はいないと思うので正直に書きますが、マジで苦行でした。あくまでも私の感想ですが!
なぜ私はチケット代6,000円近く払ってよく分からんソロを延々と見なければいけないのかと思いました。全体を通しての一貫性もなく、なぜ大量のソロが必要なのか意味不明!
仕事終わりに行ったということもあり疲労と眠気がマックスで、それでも4年振りの森山さんの舞台ということで気力を振り絞って行きましたが、森山さんの踊りは素晴らしかったですが、その他のダンサーのソロは見るに耐えられませんでした。

中でも一番悪い冗談だと思ったのが猫ふんじゃったの音楽でバレリーナが踊るのですが、意味が分からないし、長いし、金曜の夜の疲れ切ったサラリーマンににとっては、お金を払ってふざけたものを見せられている苦行以外の何物でもなかったです。
唯一の例外はカエルのソロで、新体操のような動きとバレエの動きがミックスされていて面白かったです。衣装も手袋と靴下にカエルの手足のように見える工夫がされていて可愛かったです。カエルのソロはテンポがよく、あっという間に盛り上がって終わったので楽しく見ることができました。

ナメクジも上手だったけど、長かったです。そう、各自のソロが長すぎるのです。今回の出演者達は全員実力者ですが、あまりに各自のソロが長すぎて見ている方は退屈してしまいました。もし森山さん以外の各自のソロが半分の長さであれば場がダレることなく、観客も耐えられたのではないかと思います。

ハッキリ言って森山さんだから長尺のソロでもなんでも場を持たせられるのであって、他のダンサーにそこまでの力があるかどうかは未知数だと感じました。あくまでも私の考えですが、出演者に華を持たせたいという心意気は素晴らしいと思います。しかし長い時間観客を惹きつける力があるかどうかは人それぞれなので、どうか森山さんがフォローしてほしいです。

森山開次さんは幸せ者だなと思った点について

今回のメンバーについてはよく知らずに見たのですが、舞台を見ていて森山開次さんは幸せ者だなと感じました。なぜかというと今回の出演者をはじめ、森山開次さんの周りには森山さんの踊りや才能に惹かれ、尊敬するメンバーが集まっていると感じたからです。そしてこれはバレエ界では非常に稀なことだと思います。

バレエ自体世界的に見ても儲かる業界ではありませんが、日本バレエ界はその待遇の悪さから実力のあるダンサー達が集まるバレエ団はほぼ決まっています。もちろんそれらの人が集まってくるバレエ団の芸術監督は素晴らしいキャリアと知名度の持ち主です。しかし、それらのバレエ団に集まってくるダンサー達の全員が純粋にその芸術監督と仕事をしたいからという理由で集まってきているかというと、そう言う例は極小だと思います。表向きは「芸術監督に憧れていて〜」と仰る方は多いと思いますが、実際はトップに惹かれてきているよりも箱に惹かれてきている方がほとんどであり、それが日本バレエ界の現状だと思います。

その点、森山開次さんの周りに集まってくる人は純粋に森山さんの発想力や才能に惹かれ、本当に森山さんのことが好きで慕って集まってくる人が多いと舞台を見ながら感じました。森山開次さんは周りから愛されてとんでもなく幸せ者だなと思いました。

6/30公演追記

1階から鑑賞した時と2階から鑑賞した時の満足度が全然違って驚きました。
どちらから見てもソロは退屈でしたが、ハッキリ言って2階から見た方が床に投影されるプロジェクションマッピングとダンサーの動きがリンクしていて楽しいです。1階はS席、2階はA席ですが、これは正直1階最前列以外はS席と言っていいのか…。
1階をS席として販売する以上、1階から見ても2階から見ても、どちらから見ても楽しめて飽きない踊りを見せていただきたかったのが本音です。

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