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【詩】水の器

水は、器によってすっかり形を変える。

テーブルの上には小瓶があって、そこに水と切り花が入っている。
水は複雑なことを何も考えず、ただ小瓶の形になってそこに収まっている。

かと思うと、ホースから勢いよく水が飛び出している。
ホースを持つ人の手がシャワーヘッドを取り付けると、水は更に細くたくさんになって、庭の草木を潤す。

お風呂では蛇口から熱い水が流れ出ている。
激しい音をたてながら熱い水は湯船の形に変わる。

家の外では、小川の水がせせらぎとなっている。
風も吹いていないのに水は一定方向に進む。
水には還る先があるのかもしれない。

誰かが水を叱責した。
君には自分の意志はないのか!
自分をしっかり持ちなさい!
器によって形を変えるなんて情けないぞ!

水は、どこ吹く風。
いや、どこ流るる水。

かと思うと、急に空が暗くなり、雨が降り出す。
暴風の器に入って、わんわとそこらの建物に吹き付ける。
お風呂の熱い水よりずーっと激しい音だ。

翌朝になると、激しい雨も風も音もけろっと収まっている。
地面の水たまりが青空を写し出す。

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