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詩、短歌、短編小説などの創作物

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#短編小説

腐れ縁だから

腐れ縁だから

ドスッ

「っす」
挨拶らしき吐息と同時に真由の右膝蹴りが冬馬の尾てい骨にヒットする。

「……」
ってぇ、という言葉をなんとか呑み込み、なるべくバレないように尻をさする。いやかなり痛い。これを小学生の頃から毎朝食らっている。そのうち骨折してしまうんじゃないだろうか。なんていうんだっけそういう蓄積していくやつ、そう疲労骨折。

「授業なくてラッキーだよね」
今日は年度始めの体力テストデーだ。保育園

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春の恋バナ祭り💠アンタレス

春の恋バナ祭り💠アンタレス

テルテルてる子さんの企画「春の恋バナ祭り」に参加させて頂きます💕

「これ、あげる」

差し出されたレンの手には、銀の鎖にブルーっぽい手作りレジン的な何かがぶら下がっていた。

「え、ありがと」

何で、とも何これ、とも訊かずとりあえず受け取っておいた。

ヒカリは高校3年生。受験も気になるが恋も気になる。隣のクラスのケイ君を、密かにカッコいいと思っている。
レンは後ろの席の男子だが、去年別れた

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ムーンリバー🌕チキンレース

ムーンリバー🌕チキンレース

今夜、三百年に一度のチキンレースが開催される。
村はずれの崖に向かって二台の車が突っ込むのだ。
三百年に一度の狼月、狼の刻にのみ、崖の正面に浮かぶ満月が海面に映し出す光の道《ムーンリバー》は《月世界》へと繋がり、レースの勝者のみが海上を走り抜けてそこへ導かれるという。《月世界》に辿り着いた者は、すべての願いが叶えられ、幸せになると言い伝えられている。
《ムーンリバー》を渡れるのは、先に崖から飛び出

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【短編】海の上の図書館

【短編】海の上の図書館

 海の上の図書館は、かつてこの世界を支配したヒトが創ったもので、あらゆる言語のあらゆる知恵が集められている。多くの為政者や一般市民が叡智を求めてこの図書館に引き寄せられ、周辺は遠くからもやって来る船で賑わっていた。

 それらのヒトがどこへいってしまったのか、司書のウミネコは知らない。今ここにいるのは彼ひとりだ。館長もいなければ訪れるヒトもない。時折渡り鳥たちが羽を休めに寄るくらいだ。
 この図書

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【短編】ふぉれすとどわあふ(pao星)

#ふぉれすとどわあふ

ヒヨリン ヒヨリン ……

人を小馬鹿にしたような音をずっとたてているコーヒーメーカーを、腰に手をあてたミユが冷えた半眼で見つめている。

辺境の星paoで小さな雑貨屋「ふぉれすとどわあふ」を営んでいるミユのもとに、地球から一台のコーヒーマシンが届いたのは、pao時間で1週間前のことだ。コーヒーが飲みたい、どうしても飲みたいという常連のピヨ助のたっての願いで発注したもの

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