【短編】ふぉれすとどわあふ(pao星)
ヒヨリン ヒヨリン ……
人を小馬鹿にしたような音をずっとたてているコーヒーメーカーを、腰に手をあてたミユが冷えた半眼で見つめている。
辺境の星paoで小さな雑貨屋「ふぉれすとどわあふ」を営んでいるミユのもとに、地球から一台のコーヒーマシンが届いたのは、pao時間で1週間前のことだ。コーヒーが飲みたい、どうしても飲みたいという常連のピヨ助のたっての願いで発注したものだ。
地球ではコーヒーの木が絶滅して100年が経つ。ミユがpaoに移住した時、既にコーヒーを飲む文化は人間界にもミユたちドワーフの世界にも残っていなかった。
paoに来てみると、コーヒーの木と非常によく似た植物があることがわかった。「ふぉれすとどわあふ」にやってくるpao人たちは、コーヒーという飲み物を知らなかったが、ミユからかつて地球にあったという芳しい飲み物の話を聞いて興味を持つ者も現れた。
中でも熱烈に飲みたがったのがピヨ助だ。
カララン……
ノスタルジックなベルの音とともに「ふぉれすとどわあふ」の扉が開き、いつものようにピヨ助が入って来た。
「どう?ミユちゃん、今日はうまくいった?」
pao人は意識体で肉体を持たないが、ミユの店にくる時は便宜上なんらかの姿を纏ってくる。
今日のピヨ助はカワウソっぽい姿をしていた。
ミユは半眼のまま答える。
「全然だめ。そもそもこのコーヒーマシンは骨董品だしまともに動く保証もなかったからね。それに似てるとはいえこっちのコーヒー豆はやっぱり地球のとは違うんだよ」
ピヨ助はカワウソの顔をクシャっと歪めて悲しみを表そうとした。
「そこをなんとか」
地球から取り寄せたコーヒーマシンは、まだコーヒーが飲めた時代の最終形態で、焙煎から抽出までこれ一台、ワンタッチでできるはずだった。
ところが、いざpao産のコーヒーもどき豆をセットしてスイッチを入れてみると、妙な音がするばかりでちっとも上手く動かないのだ。
「こういうときは……」
ミユは腕組みをして目を瞑り首を垂れた。
「こういうときは?」
ピヨ助がすがるようなカワウソの目でミユを凝視する。
「こういうときは……」
ミユは目を閉じたまま天を仰ぐ。
「こういうときは?」
ピヨ助もつられて天を仰ぐ。
「歌っちゃおう!」
ミユが目をぱっちり見開いてカワウソのピヨ助を見据えた。
ピヨ助はポカンとしていたが、やがてゆっくり笑顔になった。
「歌っちゃおう!」
ミユはドワーフの間で歌い継がれていたコーヒーの歌を、思い出しながら歌い始めた。
♪むかし〜ドワーフのぉ〜偉い坊さんがぁ〜
ピヨ助もpao星伝統の発声法で、ミユの声に合わせてコーラスをつける。
🎶〜🎶〜🎶〜
♪地獄のように〜黒く〜心〜ワクワク〜
🎶〜🎶〜🎶〜
♪歌えや〜踊れや〜
🎶〜🎶〜🎶〜
ミユの歌声とピヨ助のコーラスが絶妙にハモったとき、「ふぉれすとどわあふ」のすべての窓ガラスがビリビリと震え、壁に飾られたドライフラワーは生花になり、ご先祖さまの写真は若返った。
そしてコーヒーマシンは変な音を出すのを止めて、本来の唸り声をあげ始めた。
♪歌えや〜踊れや〜踊れや〜歌え〜
🎶〜🎶〜🎶〜
歌が最高潮に達したとき、「ふぉれすとどわあふ」は香ばしく芳醇な薫りに満たされていた。
こうして「ふぉれすとどわあふ」は珍しいコーヒーを提供する雑貨屋として、pao星中からお客さんが集まる人気店となった。
今日もミユが淹れる美味しいコーヒーを飲みに、パンダやキリンの姿を纏ってpao人たちがやって来る。
このお話は、三羽 烏さんの企画より、③宇宙にもある「ふぉれすとどわあふ」のテーマで書かせていただきました。(バランス栄養食品をどこかに入れたかったのに忘れました)
三羽さん、楽しい企画をありがとうございます。
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