碧空(へきくう)

 風を待って芝生に座る。眼下には遠浅の海。振り向いてパラシュートを確認する。問題ない。その両端から僕の両手に伸びる紐、これが今から僕を鳥にしてくれる。そう思って、もう何度も助走を試みているが、今日はついてない。走り出すたび風が止み、羽と期待はあえなくしぼむんだ。

 それでも僕は諦めない。そら来た、向かい風。すかさず手を広げる。太腿に力を入れて踏み出す。重たい。いいぞ、いい感じだ。飛び立つ寸前が一番重たいんだ。堪えろ、そして今だ!

 重力から自由になった。僕が蒸発して青空に溶けていく。パラグライダー万歳。頭の中でミル・マスカラスのテーマ『スカイ・ハイ』が流れ始めた。父親が好きだった曲だ。かっこいいけれどさすがに古い。乃木坂46の『空扉』に変えてみる。

♪ 青空に出口があるはずだ… どんな悩みでも抜け出せるように… ♪

 東京でのいろいろの出口を僕は沖縄の空に求めている。そして思う。沖縄の空にもいつか自由を。