ヨルのカナリア

アート好き/元ギャラリー勤務/点灯夫 🖋好きなアーティスト、展覧会、美術館・ギャラリー…

ヨルのカナリア

アート好き/元ギャラリー勤務/点灯夫 🖋好きなアーティスト、展覧会、美術館・ギャラリー、作品

最近の記事

郊外についての共有事項【都築崇広】

親が運転する車の中から見ていた風景の中で一番覚えているものは、電線と車窓で区切られた窓。 ぼーっと車に揺られながらその風景を見ていたことを覚えている。 彼のことは今年のVOCA展で見ていた。 木片を加工した板にチラシの森の部分を細切れにして貼り付けて、ある種風景画を構成していた。切れ切れになった木々は風に揺られているようでもある。 森の全容が細かくわかるわけでもないのに存在感あって、空白にも木が生えていることがわかる。描かれているのは結構な森なのでは?という想像が膨らむ。

    • 飲み込まないで、よく噛んで【山口晃】

      優しい色彩の厳しい眼光。 馬のようなバイクにまたがる腕のない女性は口に手綱を加えて弓を構えている。 ドラマティックな構図でどうしても彼女の眼差しに視点が留まる。 〈ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン〉 俳句。しかも字余り。 この会場で彼女の眼差しに出会う。 これは東京2020のパラリンピックの際にポスターとして起用されたものである。 このポスターを東京都現代美術館に展示されていた記憶がある。 なるほどそれで彼女の腕がないのか、とその時も思った。 この作品、実は色々

      • 恐ろしさとの対面【中之条ビエンナーレ2023】

        大学時代から隔年の夏休みの楽しみ、中之条ビエンナーレ。 割と険しい山道を学生の時分は騒ぎながら、トラックとすれ違うたびに死を覚悟していたが、一人旅にも山道の運転にも慣れた私は、坂で減速する馬力のない愛車号を励ませるくらい余裕が出てきた。 そんなところに自分の成長を感じてしまう。 今年の中之条ビエンナーレは不穏な作品が多く感じた。 スケジュールの都合上全会場は回りきれていないが、中之条の街中エリアと伊参地区の展示を見た感想として最初に不穏さが浮かんだ。 他の芸術祭よりも作家が

        • 空想の世界で古と今を思うこと【ポケモン化石博物館/群馬県立自然史博物館】@群馬県・富岡市

          実はポケモンはほぼ未履修。 いや、未履修ではないのだが、クリアは元より図鑑の完成とかはしたことがなく、可愛いポケモンを愛でた記憶のみがある。しかも身近な人が現在もこぞってポケモンマスターなので、私の経験はほぼ未履修と言っても過言ではない。 そんな私がポケモン化石博物館に行くのは結構想定外。 きっかけは今回の群馬旅行に同行した友人がポケモン好きだったからだ。 私は群馬県に短い期間だが住んでおり、土地勘はあるので、富岡市というこんなアクセスの悪いところにみんな来るのかという疑問

        郊外についての共有事項【都築崇広】

          休日はハイキング気分で【霧島アートの森】@鹿児島県・湧水町

          早朝5:30に待ち合わせして成田空港からLCCに乗り込み、鹿児島へ。 早朝どころかナイト・ドライブにテンションが高まって、飛行機では眠りに落ち、気づいたら南国の空気が流れる鹿児島空港に到着していた。 山々に囲まれた鹿児島。 関東平野の平坦さに見慣れていたから、凹凸がはっきりとした土地は私には物珍しい。 レンタカーで山を登った先にある霧島アートの森。 高原や山間の観光地にある美術館のような印象で、なんとなく行ったことあるようなロケーションでなんだか懐かしくなる。 ここで特筆

          休日はハイキング気分で【霧島アートの森】@鹿児島県・湧水町

          飛行機の終息地【山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム】@熊本県・錦町

          海軍のひみつの眠る山。 田舎には不似合いな直線道路の先にその博物館はある。 特に田畑の中は水路や土地の所有によって真っ直ぐになることはほとんどない。 この土地は山の斜面に開墾された棚田が多いため、その平地に直線で区切られた道路はとても目立つ。 田畑に囲まれたその直線道路は、かつて飛行機の滑走路だったらしい。 このひみつ基地というなんともロマンチックな愛称がつけられたこの博物館は、人吉海軍の遺構に建てられている。 海軍航空練習生が訓練を積み、また整備チームが空撃機や魚雷を製

          飛行機の終息地【山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム】@熊本県・錦町

          工事現場を滑走する【 SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD】

          初めて見たのはいつだったか。 震災後の石巻か、TOKYO2021か。 いずれにしろ、私の中で震災後のアートシーンに記憶されている。 どうやらSIDE COREがストリートアートを扱うキュレーションチーム。EVERYDAY HOLIDAY SQUADがスケートボードに乗って滑走しているチームらしい。 彼らは作業員姿で街中をスケートボードで滑走する。 見ていて清々しい気持ち、ちょっとヒヤリとする気持ちが同居する。 いけないことを見ているような心地になるのだ。 仕事に従事する服

          工事現場を滑走する【 SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD】

          はためくスカート【今井俊介】

          展示室に風が吹く。 鮮やかな色彩の風が吹いているよう。 なんとなく、夏の空気を思い描く。 これ以上ないビビットな、風。 今井俊介はデザイン的な起用が多いアーティストだ。 布や洋服、CDジャケットやドラマの壁掛け作品とかもやっていたような。 もしやっていなくても、やっている気がすると思わせるほど、デザイン的な暮らしや趣向に親和性が高い。 個性的と言われるブランドがしそうな色使いと、おしゃれと言われる人のバランス感覚がある。 知っている雰囲気だけど、見たことはない、というよう

          はためくスカート【今井俊介】

          スーパーで交わされる幾つもの物語【あまや座】

          田舎には映画館がない。 というか、いわゆるシネコン以外に選択肢がない。 たまに市民会館的なところで上映される昔の映画や話題作が上映されることもあるが、行けばいつでもいい作品が見られる、という場所ではない。 シネコンももちろん良い。 流行りの映画や話題の俳優目当てで行くことも私自身ある。 しかし、自分の好みにぴたりと一致する映画館に出会ったら、 そこ以外の選択肢はないのだ。 あまや座は田舎のちょっと寂しい雰囲気の商店街の中にある。 今は営業していないスーパーの敷地に建てられ

          スーパーで交わされる幾つもの物語【あまや座】

          [目の見えない白鳥さん、アートを見に行く]

          障害者、というイメージはどんなものだろうか。 なんとなく、いつも申し訳なさそうにしている、というのがイメージとしてないだろうか。 映画やドラマなどのイメージや、公共交通機関などで見かける方達は、健常者が「助けている」立場なので、必然的に弱い立場に立たざるを得ない。 白鳥さんは、そのイメージの障害者とは全く違う。 白鳥さんは全盲で光も見えない。 しかし、語弊を恐れず言うのならば白鳥さんは本当に「見えない」だけで健常者と変わりないのだ。 家事もするし、友達と美術館にも行く。

          [目の見えない白鳥さん、アートを見に行く]

          傘から考える生理【本間メイ】

          傘ってなんでずっとこの形なんだろう って思ったことはないだろうか? 遠くの恋人とも顔を見て話せるツールがあったり、情報をまとめてわかりやすく開示してくれるAIがいたり、こんなにも技術が発達しているのに、私はいつまで傘をさすんだろうか、と。 小学生の時に浮世絵で番傘をさして雨の中を進む男性を見て、シーラカンスが現代に生きる化石と紹介されたのと重ねた。形を変えずに今も存在しているものとして。 生理も傘とおんなじようなものではないか? 本作品を見て疑問を覚えた。 水戸芸術館の

          傘から考える生理【本間メイ】

          面白くて魅力的な展覧会の見つけ方

          美術館にはどういうときに行きますか? デートや友達とのお出かけ、癒しやインスピレーションを求めて、などさまざまな理由や目的を持って美術館に行く方が多いと思います。 ではその展覧会はどうやって選びますか? いわゆる推し(好きな作品や好きなアーティストの作品)が展示されているという場合にはもうお目当ては明白ですが、ちょっとふらっと美術館に行きたいかも、というときの私的な面白くて魅力的な展覧会の見つけ方をお伝えします。 ❶展覧会情報を得る そのときに見るのはTokyo Art

          面白くて魅力的な展覧会の見つけ方

          優しさの造形【AKI INOMATA】

          他者と共同で制作活動をするアーティストはたくさんいる。 ドキュメンタリー的な映像作品や、ワークショップで作品を制作し思いもよらなかった他者の動きを織り交ぜて造形に落とし込むなど。 動物の習性を取り入れて作品を制作するのが、AKI INOMATA。 彼女の作品は愛おしいで溢れている。 最近鑑賞したのはあいち2022で《彼女に布をわたしてみる》と《ミノガ絞り団扇・ヒモミノガ絞り団扇》。 ミノムシに小さな布片を渡して巣筒(いわゆるミノ)を作ってもらうという試みである。この作品は

          優しさの造形【AKI INOMATA】

          主人公の足?【嶋本麻利沙】

          島本理生の小説がバイブルだった。 小学6年生の時にリトルバイリトルを読んで、そこからずっと小説は彼女のものだと思っていた。 いつも新刊はかかさず読んでいた。 その中で『週末は彼女たちのもの』の表紙の写真になんとなく引っかかるものがあって、これは女性が撮ったものだろうな、と漠然と感じた。 なぜだかはわからないけれども。 数年後、彼女の名前を知る。 ポーラミュージアムアネックスで見た個展で、なんとなく、あの小説の表紙の雰囲気を思い出して、本の記載を確認すると個展の作家と同じ名前

          主人公の足?【嶋本麻利沙】

          溶ける声【青葉市子】

          彼女を知ったのは〈Reborn-Art Festival 2019〉で時報を作品化したが、住民から聞き慣れた時報と違って違和感があるという声で未公開になったことから。 どんな衝撃的な(大体未公開になる作品は激しい表現が多かったりする)時報かと思って聞いてみたら声の輪郭が溶けていくような柔らかな歌声で夕暮れをしらせていて、全くもってわたしが想像していたようなセンセーショナルなものではなかった。住んでいる方の日常に合わなかっただけで、これ自体にはなんの問題もなかったと思う。 私

          溶ける声【青葉市子】

          物理的なチェックの重なり【松岡柚歩】

          麻布のギャラリーの外からでも目立っていた彼女の作品。 ギャラリーのHP画像で見る限りにはテープ状のものが画面に貼ってありそれでチェックを構成しているのかと思っていた。 近寄ると違うことがわかる。 あ、絵の具で線を描いたんだ。 こんなに盛り上がるほど絵の具を盛って、表面がつるっとするように仕上げ、乾くのを待つのは結構難しい。 構成要素は線が中心なので描けそうと思いつつも、私にこの忍耐力はない。 さらに言うとこの色のチョイスもできない。華やかな色で構成され合う・合わないの次

          物理的なチェックの重なり【松岡柚歩】