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溶ける声【青葉市子】


《鮎川の音に耳を傾ける》2019


彼女を知ったのは〈Reborn-Art Festival 2019〉で時報を作品化したが、住民から聞き慣れた時報と違って違和感があるという声で未公開になったことから。
どんな衝撃的な(大体未公開になる作品は激しい表現が多かったりする)時報かと思って聞いてみたら声の輪郭が溶けていくような柔らかな歌声で夕暮れをしらせていて、全くもってわたしが想像していたようなセンセーショナルなものではなかった。住んでいる方の日常に合わなかっただけで、これ自体にはなんの問題もなかったと思う。

私の日常の時報がこれならいいのにと思った。

《鮎川の音に耳を傾ける》2019

彼女は時報だけでなく、作品も出品しており、鮎川というところの古民家に展示があった。住宅街の奥のような、どこかのお宅の裏に位置するような、そんな奥まったところだったと思う。ひっそりと存在していた。

文章と絵、貝殻や鯨の骨などを使用したインスタレーションで、古民家のあちこちに配置されていた。なんとなく美術館で見るような全てのものや位置に意味がある、的な感じではなく、心地よく置かれているような印象がある。
また文章は日記のような内容で、絵は稚拙だが可愛らしかった。
要素だけ取り出すと可愛らしいインスタレーションになるのだが、不思議なことに物悲しい気持ちになったことを覚えている。
会場内に彼女の微かな歌声が入っていたせいか、はたまた鯨の骨というちょっと考えてしまう事物があったせいなのかはわからない。
信頼している誰かがいなくなってしまうような、懐かしい場所に帰れなくなってしまうような、そんな気持ちを抱いた。

《鮎川の音に耳を傾ける》2019

この芸術祭の後彼女のことをYouTubeで検索した。
どうも彼女は主に音楽のフィールドで活動しているらしい。
彼女の声に惹かれYouTubeを見漁った。一時は作業中のBGMのように聞いていた。輪郭が溶けるような滲むような、雨が似合う声だと思った。


《鮎川の音に耳を傾ける》2019


作家紹介
■青葉市子
1990年京都府生まれ、東京都在住。

※2019年に参加した芸術祭。本作のことが記載されています。

※YouTube公式チャンネル。Victor公式にもあるのでぜひ検索してみてください。


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