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短編小説

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無料でお読みいただける短編小説集です。ジャンルは雑多。気ままに書き殴ったものもあり。一人称も三人称もなんでもござれ。途中で急遽途切れるものもあり。少しでもお暇つぶしになりますよう… もっと読む
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記事一覧

お前は何でそこにいる?(注:中途半端SS)

未完の小説シリーズ1 *****  例えば、敵に向かって投げた、必殺技の爆域内。  例えば、全員が離脱しきった、崩壊予定の建物内。  例えば、落ちることが分かりきっていた、ミサイルの着弾点。  例えば、絶対に当たるはずの無い、誰もの死角。  例えば、自爆すると予測ができた、敵の首領の、足元に。  アレクシスは毎度、彼女を見ると、言わずにはいられない言葉がある。  だから。  だから。  いつも。  いつも。 「お前っ……何でっ、そこに居るっ……!?」 *****

短編小説 「ヨーグレイヒア」 1

 過ぎた世界の片隅で、ヨーグレイヒアは空を見つめていた。  母親はユグドラシル、父親はアクシャヤヴァタの細分化されたコミュニティの、固定化された住人だった。  祝福の日と呼ばれる全ステイトの集会で、天文学者と数学者である二人は運命的な出会いを果たしたようだ。ネットワーク・ステイト間のインヒビションを乗り越えて、心が結ばれた二人は互いの遺伝子を出し合った。  一年後の同じ祝福の日に、ユグドラシル側の受胎機関で、ヨーグレイヒアは命を授かった。掛け合わされた結果としての性別は女児

短編小説 「ヨーグレイヒア」 2

「我々はあなた、ヨーグレイヒアを歓迎します。少し、君のことを聞かせて欲しいな。そう、たとえば好きな食べ物や、どんなコミュニティに興味があるのかを」 「は……はい。わ、私の話でよければ、ぜひ」 「うん、緊張しているね。でも大丈夫。オゥシィァンに選ばれた子たちは毎年きみとおんなじさ。話しているうちに緊張もほぐれてくるよ。それに君にとって素晴らしい未来が待っている。興味があるコミュニティがあれば僕たちはそこに向かう手助けをしてあげられるし、ここに座って少しだけ僕らの質問に答えてくれ

短編小説 「ヨーグレイヒア」 3

 耳触りの良い調和音がする。ヨーグレイヒアが設定している着信音だ。世界に重ねて広がったオープンディスプレイの中で、彼からの返信が届いたことを知らせるアイコンが輝いた。広げてみれば彼女へ向けて丁寧な文字が並べてある。曰く、こんなところまで来てくれて本当に嬉しい、と。ただ今日は都合が悪くて、会うことは難しい、と。  自分の良くない方への変化を旧友に見られることを、ひどく恐れている人間のお手本のような文章だった。その場で瞬いた彼女は遠慮をしてあげる気が無くなった。力強く立った足で、

短編小説 「ヨーグレイヒア」 4

 ウーシャンはそれから何度も彼女にメールを送ろうとした。  寄付だとしてもこれだけのトークンを貰う謂れはない訳で、でも役立てて欲しいらしいし、自分に才能があると言われると、そうなのだろうか……そうなのだろうか? もう一度……もう一度……? と戸惑いが回って分からなくなる。  それに彼女は、自分にはこのトークンを生かす才能がない、という。  そうだろうな、とトークンの扱いに慣れている彼は素直に思う。  だって笑ってしまうくらい彼女は計算ができないのだ。  ヨーグレイヒアが彼に贈

999本の薔薇を貴女に(注:中途半端小説)

未完の小説シリーズ2 若〜い頃に書いた甘々系ファンタジー。 たまにはこういうのもいいかな? と投稿する。 カテゴリとしては「やり直し系」かな。 *****「999本のバラを貴女に」  それは、とても強い焦燥。  何故、貴方のような人がこの世に存在するのか────と。  その時、息を飲んだ私を…貴方は知る由もないでしょう。  思い返せば、初めての出会い。  そして、名を明かした時の、黒髪の白(フィオナ)!と嘲笑われた、最高に憎らしく、同じだけ愛おしい思い出。  隣国

不定期更新小説「パンイチ宰相」

降ってきた気まぐれ短編ラノベ( ゚∀゚) 多分、疲れてた。 あほなことしか書いてないよ〜 ***** 【第一話】 ***** 「この度は御国に多大なるご迷惑をお掛けしたこと、誠に申し訳ありませんでした。心よりお詫び申し上げると共に、貴女様を生涯に渡り、我が国で手厚く持て成させて頂きます事、ここに誓約させて頂きます。さて、こちらに揃えましたる我が国の精鋭は、貴女様から向かって右より、国王、国王補佐官、翼竜師団長、魔法士団長、外交大臣……いずれも由緒正しき貴族であり、若くして

不定期更新小説「パンイチ宰相」2

*** 第二話 ***  ところでどうして田舎の野良娘、エメルがこの国で歓待を受けることになったのか。簡単に言うとエメルは竜人国からの、要請でやってきた。この度の詫びとして、そちらの王族の、娘を一人だけ預かろう、と。  エメルの国と竜人族の国は、大きな山脈を挟んでお隣さんだ。そこを狡い人族がこっそりと、隧道開通を目指してコソコソやっていた。間違いなく条約違反であるが、いつになっても隧道(トンネル)が開通しないので、焦れたお偉いさんが爆発物を使わせた。  ちゅどーん、である。

不定期更新小説「パンイチ宰相」3

 パンイチの宰相さんは、家の中でもパンイチだった。  そしてパンツの柄は、縦縞が多いようだ。それも爽やかな水色系で、並べたらグラデーションで綺麗だろうなと思うほど。  バリエーションが豊富らしい。そこはこだわるタイプと見た。  好みはトランクス型。ブリーフ型やボクサー型のピッタリタイプではないらしい。  おかげでエメルは股間のもっこりに、気を取られることはないけれど、パンツの柄の色が毎日違うので、楽しみになってくるというか、気になる対象にはなってしまう。  どうしても。  た

ユートレアの凪間にて

 アーラレイトルは自分が元に戻った事に気が付いて、瞼を開き、家を出た。彼女が元に戻った時に、決まって向かう場所がある。古くからの友人達が同じように集う場所。暗くも明るくもない場所が、彼女の第二の家だった。  第十世界オーダには、それなりの住人が住んでいる。全員を把握する手間が面倒なので、誰も気にしないけど。第三世界で言われるような共通意識で繋がる世界だ。次は誰がどこへ降りていくのか、争わず相互扶助で選考される。  直前まで第三世界に降りていた(らしい)アーラであるので、そちら

斜陽の紅玉と

 紅い陽が斜めに差した聖堂の一室で、僕は同級生の吉瀬(きせ)の逞しい腕に抱かれながら、敢えて低く、くぐもる声で、愛おしそうに名を呼んだ。 「吉瀬……」 「もう黙れ、真朱(まそほ)」  乱れた制服と、解かれた臙脂(えんじ)のタイ、ベルトも申し訳程度にボトムの穴に通っただけで、いかにも直前の様相だ。  誰よりも信頼している相手だけれど、僕の心臓は不安で早鐘を打っていた。もうそこまで聞こえる複数の足音に、気付かないふりをして吉瀬の首に抱きついた。  ガチャリ、と回った後に、重々