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旬杯選者の一人、亀山こうきの特選6句の発表(亀山賞)

 『旬杯』お疲れ様でした。

 今回も俳句部門の選者として無記名の状態ですべての句を拝見させていただき、『上位6句+予選6句の計12句』を選句させていただきました。145人393句が集まった今回の俳句大会。個性的な句が多く選句をしていてとても楽しかったです。

 ずいぶんと長い間、選者を務めさせていただきましたみんなの俳句大会ですが、今大会をもって一旦お休みに入られるとのこと。長きにわたり運営に尽力された皆様。そして俳句という文芸に携わってくださった参加者の皆様。本当にありがとうございました。多くの人が俳句に興味を持ってくれたこと、一俳人としてとても嬉しく思います。

 そしてどうか、引き続き俳句のこと、よろしくお願いいたします。

・旬杯の亀山賞(特賞)


平凡に生き平凡に茄子を焼く

 良い句の条件の一つは暗唱のしやすさであると信じている。一度見たら忘れないような句というのはそれだけで名句であると思うのだ。その点この句は素晴らしい。平易な言葉しか使っていないのに一度見たら忘れられない強さがある。
 あとは完璧に私の趣向で恐縮なのだが、富安風生という俳人の『菜の花といふ平凡を愛しけり』という句が大好きだ。自句にも『ビール飲む平凡といふ愛しさの』がある。この自句は、先に挙げた風生の類句と評価され、発表した句会では見向きもされなかった。だが、私はこの自句を愛している。愛する先達の句を自分なりに分解して、自分らしく再構築できたこと。模倣と言われればそれまでだが、自分で自分の核をつかんで言葉にできた嬉しさは他者の下す評価より優先される。平凡上等。鮎太さんのこの句を見て私はシンパシーを感じてとても嬉しくなった。
 俳句の技巧としても句またがり、リフレインが巧く使われていてとても良い。素敵な句をありがとうございました。

・亀山賞次席(2位)


灼熱の砂上を歩むTバック

 Tバックという俗っぽく、どちらかと言えば詩性があまり感じられない言葉を、こうもまで俳句に昇華させた腕前には感嘆する。それ故の個性的な句となっていて、一読した段階で絶対に選に入れることを決心していた。
 私が句作の時に細心していることの一つに『その句が立体的』であるかどうかがある。楽しいことをただ楽しいと言っては薄っぺらい。楽しさの中に一粒の悲しさや虚しさ。シェフの腕の差が、ほんの少しのパセリの扱いかたによって決まるように、俳句にも奥行きが求められる。この句からは生命の逞しさと同時に、一瞬の美。後の老・病・死という人間の四苦がほのかに感じられる。佳句である。

・3位


夏の果ポポポポポポの蒸気船

 現代俳句の代表的なものの一つに坪内稔典の『たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ』があるが、この句はその句よりぽが多い(笑)
 夏の果と蒸気船の取り合わせも詩的である。そして中七に「ポ」だけをもってくる勇気と感性。見て楽しい。音にして愉快。こういった句作もありなんだと啓蒙された句です。楽しい句をありがとうございました。

・4位


蜩や先輩からのラストパス

 お手本のようにきっちりとした俳句。この句に己の心情を表す言葉は皆無である。しかし蜩という季語。先輩からのラストパスという言葉から、苦楽を共にしてきた日々。憧れや畏れ。そして次代を託されたこと。いろんな景色が詠み手に迫ってくる。

・5位


サンダルを脱いで少女は鳥になる

 なんで鳥になったのと考えずにはいられなかった。結論少女は自由になったのだと合点。あれこれと縛りが多い世の中。一時だけでも自由を感じて大いに生きていきたいものである。

・6位


ラマダンの残夜嘶く鶏の声

 夏の句か議論があるだろうが、私は異国情緒たっぷりの一句から夏を感じられた。なにより、17音で読み手を別の空間に飛ばしてしまう俳句の面白さ十二分である。

・その他最終候補6句の紹介

風鈴やたましひに沿ひ広がれり
佐竹紫円 さん

バイエルの指のもつれて薄暑かな
Sazanami さん

夏燕島の近代美術館
うつスピ さん

太陽にほえるか父のサングラス
袋小路 綴乃 さん

ビアガーデン昔少女の母三人
今西えま さん

才能を買ひに行きたし蝸牛
ヒスイ さん

・三賞及び選者賞のリンク

・投句一覧


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