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【読書レポ】遠野遥『破局』を読んで

今回の芥川賞受賞作の一つ、遠野遥『破局』を読み終えた。主人公である大学生の陽介は高校ラグビー部のOBとして指導にあたりながら公務員試験に臨む。政治家志望の恋人・麻衣子との連絡が少なくなる中、芸人の友人に誘われたライブ会場で灯と知り合い…

極めて正直で律儀に原則を守ろうとする側面と、同時に己の欲望に忠実な側面は謂わゆる真面目系クズといったところとも言えるけれど、ラグビー鍛え上げられた肉体と、公務員試験に見事合格する様や、笑いを誘うほどの欲望への正直さの描写は凡庸な言い方に落としてしまうには不適当。

それでも、「すべき」思考と、男の欲望に従ってただ忠実に物事に当たる淡々とした姿勢は、実際にそこまでストイックでなくともやけに胸の下の方がムズムズするような共感があり、本人としては真面目にやっているつもりが、いつの間にか軋轢をよび崩れていく。この流れの生なしさと、物語としての展開のスピードが両立にとてつもなく引き込まれる。

特に陽介す心中を描写するところ。「〜だ/〜しない/〜が好きだ。なぜなら〜だ。」という理詰の主張。

セックスをするのが好きだ。なぜなら、セックスをすると気持ちが良いからだ。

という、あまりにあっけらかんとしていて吹き出してしまいそうになるが、絶対に大真面目に言っているとわかってしまう。陽介の特質を象徴している。

改めて自問することなんてそうそうないが、恐らくそりゃそうだというような事を、律儀に独白しながら行動原理を示す。敢えてストレートに言葉にされると、正しさや、相手のために生きるつもりが破局へ向かう生々しさとなって、他人との距離感とか境界線の見えない領域で苦悶する時の自分へ這い寄って来る。

次作も本当に読みたい。

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