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あいみょんな訳

音楽評論家の故・中山康樹さんが著書『超ビートルズ入門』に書いていた、「ビートルズを聴くということ」を思い出した。当時、「これを待っていた!」とばかりに納得した内容で、

まずはビートルズを、音楽を聴くということからはじめたいと思います。(略)(音楽は)自分にとって必要だから聴き、不要だから聴かないのだと思います。(略)ビートルズをはじめて聴いたとき、ぼくはその2分間のなかでなにが起こっているのか、さっぱりわかりませんでした。ただなにかがものすごい勢いで駆け抜けている、そう感じただけです。しかしそれはくり返し聴かずにはおれない「なにか」でした。そしてある日、ついにぼくはその「なにか」をキャッチし、こう実感しました。「ビートルズはぼくのためにうたっている」まさしく、ぼくにはビートルズが「必要」だったのです。そこには「好き・きらい」といった感情もなく、いやそういった嗜好だけではすまない、すまされないなにか切迫したものがありました。(略)問題はビートルズが表現しているものに気づくか否か。気づいた人は、必ず、まちがいなく、絶対にビートルズの全アルバムが聴きたくなります。

超ビートルズ入門:中山 康樹著(音楽之友社)出版年月2002.6.1
中山 康樹(なかやま やすき、1952年5月8日 - 2015年1月28日)は、日本の音楽評論家。『スイングジャーナル』編集長を経て音楽評論家に転身。元々ジャズの評論家であったが、ロックにも造詣が深く、ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ボブ・ディランなどに関する著書を出している。

かつては(今でも?)世界中にビートルズが必要な人々で溢れていたのだろう。対象はビートルズに限らないけれど、それが若い時代の欲求だとは思う。だから、自分にまだ音楽が必要だったこと、必要だと迫ってくる音楽に出会えたことに驚いた。「ブルーハーツ」や「ピロウズ」以来の忘れかけていた衝撃が「あいみょん」だった。

あいみょんは新しい言葉の発明家ではないし、歌詞を“書いている”感じもあまりしない。彼女の作詞はジグソーパズルのようで、収まるべき場所にピッタリとハマる一つだけのピースを摑まえているように映る。それは、熱帯のジャングルで幻の蝶を取るような、砂浜で針を探すような途方もない行為。吹き出したまっくろくろすけの中から、これ以外にない一つを摑まえる両手を彼女は持っている。そう、『裸の心』以外にはありえないのだ。

あいみょんはラブソングに定評があるという。
思うに純愛とは、「浮気相手の旦那を殺したダンプの運転手」のようなもの。『貴方解剖純愛歌 ~死ね~』は、あいみょんの放った裸のラブソングであり、全てのあいみょん作品の原点でもある。また、『ふたりの世界』の「いつになったら私のことを嫌いになってくれるかな」の歌詞は深く、ラブソングに定評があることがよく分かる。


僭越ながら特に必要な曲をご紹介させていただきます。


貴方解剖純愛歌 ~死ね~
この歌をずっと歌えるあいみょんであってほしい。

○○ちゃん
悩みは恵まれた環境にいてもそれぞれにある。

どうせ死ぬなら
二度寝で死ぬ意味を考える。

君はロックを聴かない
「けれども」
井上陽水に「氷の世界」、吉田拓郎に「落陽」があるように、あいみょんには「君はロックを聴かない」があります。
アルバムの流れで聴くと魅力倍増!

ふたりの世界
「いつになったら私のことを嫌いになってくれるかな」
ラブソングに定評がある。

漂白
シンガーとしての力。PEARLのSHO-TA(田村直美)をチョット思い出す。

ら、のはなし
少年の声。曲の世界観で歌い方を変える。

プレゼント
やりたいことをやろう。

ひかりもの
文句のない名曲。

黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を
傑作アルバムの口火を切る。

ハルノヒ
「こちら」

裸の心
この曲であいみょんの凄さを知りました。
「裸の心」以外にあり得ない。

空の青さを知る人よ
この切迫感!
安全地帯の『…ふたり…』と繋がっている。


完成された曲。変化する曲。らしくない曲調。生み出されたことを感じる。

ポプリの葉
“ドルチェ&ガッバーナ”ではないんです。

3636
「女の子は大変だ」って結構斬新。

ハート
「さよならは嫌 わがままかしら?」これは必殺のフレーズ。これだけで「私」が見える。

愛を知るまでは
リリースのタイミングに意味あり。“うっせいわ”で終わってはいけない。



あいみょんの歌を聴いていると、「たぶん彼女のキャリアのすべてを網羅することは自分の残り時間的には叶わないんだろうなぁ」なんていう焦りを感じてみたりする。こんな経験は今までになかったことだ…


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