照魔機関 第1話 ■■の巫女
あらすじ
怪異による人的被害の対策を行う秘匿された捜査機関(照魔機関)に所属する捜査官——日暮逢と神無四辻。逢は原因不明の記憶障害を抱えているものの体に染みついた分析技術を駆使して、四辻は機関が収集した怪異の記録を元に推理を組み立て怪奇現象に挑む。
派遣先で二人を待ち受けていたのは呪いを恐れて錯乱する村人、建物を泥で満たす怪異、行方不明者の遺体が天井からぶら下がる現象。断ち切れない因習、渦巻く怨念、怪異の正体を暴いた時、見えてくるものは果たして、悪鬼か人の子か。
そして捜査を進めるうちに、逢は四辻との関係を思い出す。二人の間には怪異と組織に翻弄されても切れない絆があった。
本編
当機関が有する■■■■についての記録
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【■■■■ ■■】
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気が付けば、どこか知らない暗い場所にいた。
どうしてここに来たのか、何をしていたのかもわからないまま、両手を伸ばして闇の中を泳ぐように歩いていた。
目が慣れてくると、ここが古い日本家屋だとわかった。
遠くの方から微かに音が聞こえてくる。
ブチッ ガリガリ ぐちゃ ぐちゃ
噛み千切り、噛み砕いて咀嚼するような音。
びしゃびしゃ ずるずる
液体を滴らせて啜るような音。
吐き戻すような呻き声と、苦しそうに咽る音が聞こえた時、自分の頬が濡れているのに気付いた。袖で涙を拭うと、蝋燭の明かりが漏れる襖が見えた。
襖の柄に見覚えがあった——桑の葉にとまる、羽を広げた蚕蛾の画。
思い出した。ここは桑原のお屋敷だ。
「珠月様、この襖を開ける事をお許しください」
襖を開け放つと生臭い鉄の匂いが鼻を刺した。その途端、景色はめまぐるしく移り変わる——飢えた琥珀の目、研究室、警報、注射器——記憶の渦に巻き込まれて思考の処理が追いつかない。
気を失いそうな程の激しい頭痛を感じた。それでも思い出すのを諦めたくなかった。
あの研究が、珠月様を救う唯一の方法だったはずなんだ!
「かえして」
プツッと音を立てるように、目の前が暗くなった。
10月14日 照魔機関 特設寮
酷い頭痛の中で彼女は目を覚ました。
「気分はどう?」
聞き覚えがある声がした。そちらに目を向ければ、ソファの上に見覚えのある青年が座っていた。中性的な顔立ちに、琥珀色の目、光に当たると緑がかって見える灰色の髪という、どこか現実離れした妖しく美しい彼の名前を、彼女は知っているはずだった。
「大丈夫? 自分の名前、思い出せるかな」
「えっと……」
「君は日暮逢。照魔機関に所属する捜査官で、僕——神無四辻——の相棒だよ。それとも、巫女と言った方がいいのかな。ほら、君のノートにそう書いてある。君の字でね」
手渡されたノートを読み返した逢は、失っていた記憶を一部取り戻した。
照魔機関——超常現象や、怪異と呼ばれる異次元の存在による人的被害の対策を行う、秘匿された捜査機関。怪異とは、一般的に神や霊、妖怪などと呼ばれる存在の総称であるため、不確定な要素が多い。そのため機関が取り扱う事件は、怪奇現象や不能犯として報告されることがほとんどで、事件ではなく——事象や現象——と呼ばれるケースが散見される。
何故そこに自分が籍を置いているのかは思い出せないが、目の前の青年とバディを組んでいたことは、今はっきりと思い出した。
「すみません、四辻さん。朝からご迷惑をおかけしました」
直近の記憶がない。とにかく状況を把握する為に逢は辺りを見回して、ふと鏡を覗き込んだ。栗毛色の髪に、榛色の目の若い女性が逢を見つめ返してきた。鏡の中の自分は仕事用のシャツを着ていて、ベッドに座っている。
(上着は着てないけど、新しいシャツみたい。昨日着替えずに寝ちゃった訳じゃなさそう)
頼み綱のノートは昨日の日付で止まっている。
(朝起きてからの記録がない、書き忘れた?)
部屋の中にはコーヒーの香りが漂っている。四辻は二人分のコーヒーを用意しているようだった。
逢は困惑した表情を浮かべ、四辻に尋ねた。
「あたし達、何をしていたんでしたっけ……」
「良いコーヒー豆が手に入ったから、一緒に飲まないか僕が誘ったんだ」
「……思い出しました。前にあたしの部屋で作戦会議した時、四辻さんミルをあたしの部屋に置き忘れたんですよ。だから取りに行こうとして、それで……えっと」
「なかなか戻って来ないから、様子を見に来たら倒れている君を見つけた。だからベッドに寝かせて、起きるまで様子を見ながらコーヒーを淹れていたんだ。……飲めそう?」
「……いただきます」
逢が起き上がり、自分の隣に移動してくるのを見た四辻は、コーヒーを注ぐとテーブルの上に置いた。
「頭痛はもう大丈夫?」
「はい、もう平気です。ありがとうございます、■■様」
四辻はコーヒーカップに伸ばした手を止めた。
逢は揺れる琥珀色の目を見て、首を傾げた。
「あれ? 今あたし何て……。すみません。さっきお屋敷にいた頃の夢を見たせいで、混乱してしまって——」
『お屋敷にいた頃の夢』自分がなぜそう口にしたのか、逢には分からなかった。しかし、夢の内容を伝えようとして口を開いた瞬間、頭の中で何かがゴトリと動いたような気がした。途端に酷い頭痛に襲われ、逢は頭を押さえて蹲った。
四辻はマグカップを机の上に置くと、逢の肩に手を置いて、支えるようにして様子を窺った。ほどなくして顔を上げた逢は、不思議そうな顔をして四辻の顔を見つめた。
「おはようございます?」
「……おはよう、逢さん。昔の記憶を夢に見たって聞いたけど、もしかして何か思い出せたのかな」
「あたしが?」
思い出そうとした逢は、頭痛を感じてこめかみを押さえた。
その様子を見て、四辻は目を伏せた。
「……変な事を聞いてごめんね、忘れていいよ。それより、どうしよう。コーヒーはやめて、ハーブティーを淹れ直そうか。カモミールとか、レモンバームには、リラックス効果があるらしいよ。少しはその頭痛にも効くかもしれないね」
「コーヒー? あ、四辻さんコーヒー淹れてくださったんですね。いただきます」
「逢さん、また記憶が——」
四辻は何かを言おうと口を開いたが、思い直したのか「熱いから気を付けてね」とカップを逢に手渡した。
カップを口に運び、逢は顔を綻ばせた。
「美味しいです。頭の中がスッキリしてきました」
「気に入ってもらえてよかった。小規模な農園で作ってるらしくて、あまり流通してないんだって」
「えぇっそんな希少なコーヒー、貰っちゃってよかったんですか!?」
「だって、独り占めするのも気が引けるし。話したら、興味を持ってくれたから」
逢は四辻の横顔を見つめた。彼は嬉しそうに笑っているが、どうして今自分が彼とコーヒーを飲んでいるのか、逢は思い出せなくなっていた。
「すみません、四辻さん。あたし、また記憶が飛んだみたいで……」
きっかけは何だったのか、逢は自分の過去を思い出せなくなった。それどころか、現在の記憶も満足に構築できないようになっていた。検査の結果、彼女が所属する機関は、記憶障害の原因は不明であり治療困難と説明した。
「記憶が飛ぶ前のあたしが、コーヒーを強請ったんじゃないかと不安になりました。四辻さんにご迷惑をかけてないといいんですが……」
「大丈夫だよ、誘ったのは僕だったから。だからそんな、この世の終わりみたいな顔しなくても……」
四辻は苦笑した。
「本当に気にしなくていいんだよ。困った時に助け合ってこそのバディじゃないか」
その言葉通り、逢が記憶を失くして心細い時、傍にはいつも四辻がいた。いつから一緒にいるのか、どうして自分を気遣ってくれるのかも、逢には思い出せない。しかし逢は、四辻を信頼していた。故に、彼に負い目を感じていた。
ドアがノックされ、施設係が顔を出した。
「失礼します。巫女様——」
部屋の中に四辻の姿を見つけた彼女は、その場で深く頭を下げた。
「ご一緒でしたか」
「おはよう。何かあったかな?」
四辻が聞くと、施設係は頭を下げたまま報告をした。
「二十分後、お迎えのヘリコプターが到着します」
「もうそんな時間か。教えてくれてありがとう。悪いけど、後でここの片づけを頼んでもいいかな」
施設係は少しだけ顔を上げて机の上のコーヒーセットを見ると、
「承知いたしました」
そう言って部屋を出て行った。
「何かありましたっけ?」
「早朝、K支部への派遣が決まったんだよ。出発まで暇だから、君をコーヒーに誘ったんだ」
二人は顔を見合わせた後、名残惜しそうにマグカップを空にした。
「美味しかったです」
「よかった。仕事が片付いたらまた淹れるよ」
四辻はマグカップを置いて立ち上がった。
「また後でね」
ドアに向かって歩き始めた四辻の後ろ姿に、逢は何かを思い出しそうな気がした。
遠い昔、どこかわからない屋敷の奥、その襖の向こうで、彼女は彼を見た。逃げ出したいほど恐ろしいような、胸が張り裂けそうなほど悲しいような、忘れてはいけない光景——自分自身の運命を決めた瞬間だったはずだ。
「逢さん?」
四辻に呼びかけられ、逢は我に返った。気付けばまた頭痛が戻っていた。
痛みに気を取られた一瞬で、何か大事なものを忘れたような気がしたが、何を思い出そうとしたのかも、わからなくなっていた。
「本当に大丈夫?」
「はい、平気です。いつものことなので」
逢は微笑んで、不安げな顔をする四辻を送り出した。しかし部屋に誰もいなくなると、両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
「どうして……」
忘れてしまった何かを思い出そうとすると、いつも酷い頭痛が走る。その後は直前の記憶が欠落していたり、過去の物と思われる記憶が混同したりする。
なぜこうなったのかは、やはり思い出せない。だけど一つ確かなのは、この痛みの中に、忘れてしまった大切な何かが隠されているということだった。
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【■■■■ 事象】
■■■が初めて■■を確認した時、■■■は、守り神の■護が及ばぬ■■顕現し、■■を食らっ■■■。
その■■たるや■■■く、中■■■は朝に■■、■に■■百の■■■■を飲■■していた■■■される。
10月14日 照魔機関 特設寮 屋上
屋上に飛来したヘリコプターの中から、おかっぱの少年が付き人を従えて降りてきた。十歳になったばかりだが、従者に気遣いを見せるなど、大人以上に落ち付いた雰囲気を纏っている。しかし、四辻と逢の姿を見つけると、満面の笑みを浮かべて走り出した。
「よつじ~! あい~!」
四辻は片膝をついて両手を広げると、突進してくる少年を受け入れた。
「おや、鏡様が任務に同行してくださるのですか?」
「本当は一緒に行きたいんだけど、皆に反対された」
四辻がからかうと、鏡と呼ばれた少年は残念そうに首を振った。
すぐ後ろから付き人らしき女性が走ってきた。四辻にべったりくっついた鏡を見て苦笑すると、彼女は四辻と逢に一礼してから鏡を引き離した。
「鏡様、今日は覡のお仕事に来たのですよ。祭神様のお言葉を神無様と日暮様にお伝えくださいませ」
鏡は頷くと、軽く咳払いした。それを合図に、四辻と逢は跪いて頭を下げた。
「もう聞いたかもしれないけど、昨日K支部が管理・調査を続けている【みとし村】で異常現象が発生した。天井から行方不明者の遺体がぶら下がって、落ちたんだ。
担当捜査官は妖怪から名前をとって、この現象を【天井下り事象】と命名。原因は現在捜査中だけど、今朝祭神様が、私に神託を授けてくださいました——四辻と逢をK支部に向かわせるように——と。
例の計画を実行に移す日が近いのかもしれない。次の神託が下るまで、二人はK支部で待機するように」
「仰せのままに」
そう答える四辻の口角が上がったのを、逢は横目に見た。
「補足させていただくと、待機中に支部の捜査を手伝っていただいても構わないとのことです。しかし、本部委員会の許可なしに、みとし村に入る事は禁止だそうです。■■が村の神に見つかったら、何が起きるか分かりませんので……。ですので、お二人には、天井下り事象の捜査権は与えられておりません」
逢は首を傾げた。今、鏡の付き人の言葉に何か聞き取れない単語が混ざった気がしたが、逢を残して三人の会話は進んでいく。
「遠回しに、支部の雑務を手伝えと言われているようですね」
「職員の補充はどこも間に合っていないようです。当機関は性質上、大規模な募集をかけられませんので……」
四辻が苦笑すると、付き人は申し訳なさそうに肩を竦めた。
「苦労かけるね」
仕事を終えたと判断したのか、鏡はそう言って四辻と逢の手をギュッと握った。
「引き受けてくれてありがとう。でも二人にはまた不便な思いをさせてしまうかもしれない。祭神様は、滅多なことじゃ四辻の封印を解いてくれないから……」
「鏡様が気にする事じゃありませんよ」
四辻が微笑むと、鏡は悲しそうに下を向いた。
「四辻と逢が所属する未特定怪異特別対策課は、機関の中でも手におえない怪異に対抗する為に作られたんだってね。機関の最期の砦だから、皆は悪鬼羅刹を滅する願いを込めて、クワバラと呼ぶのだと先代様から聞きました。でも、私はね……二人に危ないことをしてほしくないよ」
「ありがとうございます、鏡様」
逢が両手で鏡の手を包み込むと、鏡は静かに頷いた。
「逢も四辻も、不死身じゃないんだから、無茶しちゃ駄目だよ。無事に帰ってきてね」
ほどなくして、照魔機関特設寮から、未特定怪異特別対策課(通称:クワバラ)の捜査官、神無四辻と日暮逢を乗せたヘリコプターがK支部に向かって出発した。今回の派遣では委員会により、みとし村内で発生中の天井下り事象を除く、K支部で発生した全ての怪奇現象に関する捜査権がクワバラに与えられた。
10月14日 ヘリコプター内
K支部へ向かうヘリコプターの中、逢は機内モードにしたタブレットである報告書を見て首を傾げた。
「四辻さん、みとし村ってどんな所ですか?」
「簡単に言うと、みとし村とその周辺は霊的なものが生まれやすく、溜まりやすい場所かな。さらに、ある事情から穢れが蓄積されているから、頻繁に調査が行われているんだよ」
穢れ——死や病を招く不浄な気。悪しき怪異によって媒介され、時に触れた者の正気を奪う。神として祀られる怪異を零落させ、妖怪変化に変質させるとも言われている。
「そんな場所にいる村の神様って、一体どんな慈悲深い怪異なんでしょうか」
逢がそう言うと、四辻は不思議そうに首を傾げた。
「さっきデータベースから、みとし村の資料をタブレットにダウンロードしてたよね。逢さんの権限で、報告書はどのくらい読める?」
逢はタブレットに表示されている記録を四辻に見せた。
【みとし村事象についての報告】
閲覧不可。情報部にフィルターの解除を申請してください。
「他の記録は閲覧できたんですが、一番重要な記録がこんな状態になってます。フィルターの下には膨大な量の報告書があるようなので、鏡様が仰っていた計画の詳細もこの中にあるかもしれません……」
「あー、なるほど……」四辻が苦笑すると、逢はまた首を傾げた。
「そういうことなら、まだこれ以上僕の口からは教えてあげられないかな。閲覧不可の資料は、情報部がフィルターを解除しない限り、内容を知っちゃいけないことになってるから」
「委員会があたし達の派遣を決定したのに、情報部は何で解除してくれないんでしょう?」
「それだけ閲覧が危険ということだよ。許可が下りるまでは情報が制限されるけど、不自由ないようにサポートするから安心して」
「安心して、って……あれ? 四辻さんはもしかして、全部の報告書を——」
「うん、閲覧できるよ。僕は委員会と交渉して、機関が保管する全ての記録に障害なくアクセスできるようにしてもらったんだ。ただし、対象は正式に登録された記録だけだから、捜査中のものは許可がないと閲覧できないけどね」
「あの石頭の委員会が交渉に応じたんですか……? 四辻さんだけ特別対応されてませんか!?」
四辻が意味深に微笑むのを見て、逢は口をへの字に曲げた。
「ずるいです! あたしもその権利欲しいです! 四辻さんのバディということで、一緒に観るのはオッケーだったりしませんか?」
「それはどうかな。記録にかけられたフィルターは安全装置みたいなものだからね」
逢がより不満そうな顔をすると、四辻は困ったように笑ってさらに弁解した。
「フィルターは封印と同じだよ。それを解くということは、封印された未知の怪異を解き放つことと同義と言っても過言じゃない。物によっては、その情報を目にしただけで取り憑かれた事例、気が触れた事例が確認されているんだ。だから決して僕は、君に意地悪がしたくて秘密にしてる訳じゃないんだよ」
「安全の為に、ですよね。でも悔しいですよ……」
「どうして?」
「だって、あたしだけフィルターに阻まれるってことは、あたしの捜査官としての力量が、四辻さんに追いついてないってことですよね。相棒として、肩を並べられないのは悔しいです」
「それは違うよ。君が思っているよりずっと、僕は君を頼りにしているよ。僕は怪異の分析、君は科学的な分析、それぞれの得意分野を担当すればいいだけだよ。だから、ね、自信を持って」
「でもあたしは……っ」
逢はまた頭痛を感じて額に手を当てた。忘れている何かを思い出そうとするたび、頭の中に文字が浮かび上がるような気がした。
それはまるで、フィルターがかけられた報告書を読んでいるかのような感覚だった。
————閲覧中のページは、フィルターにより保護されています————
【■■■■ 事象】
当機関が初めて■■を確認した時、■■■は、守り神の■護が及ばぬ■■顕現し、■■を食らっていた。
その■■たるや凄まじく、中世以前は朝に■■、■には三百の■■■■を飲■■していたと推測される。
■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
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(これ、何の報告書だっけ?)
日暮逢の捜査ノート
手掛かりを忘れないように、今回も捜査ノートを書くことにした。
任務
機関の大規模な計画(内容はフィルターに引っかかる為か、教えてもらえない)に備えてK支部で待機。その間K支部の応援もする。
懸念事項
① 本部の委員会はあたし達が村に入った時に、何らかの異変が起こるのではないかと予想しているため、村への立ち入りは禁止されている。みとし村で発生中の天井下り事象についても、あたしと四辻さんには捜査権が与えられていない。
② みとし村と計画の詳細が不明。四辻さんは全部読めるらしいけど、あたしはフィルターのせいでほとんど閲覧できない。もしかすると、事が起こるまで知る必要はないと上は考えているのかもしれない。
そこまでしないと防げない危険って何だろう。村には何が隠されているのかな……。とりあえず、あたしが閲覧した報告書のファイルはデスクトップのフォルダに移した。
日暮逢の捜査フォルダ
————閲覧中の資料はデータベースからダウンロードされた資料の為、8時間後に閲覧できなくなります。データベースで閲覧していただくか、再度ダウンロードをお願いします。————
【みとし村】
現在(20×6年)人口80人以下。過疎化が進んでおり、空き家が目立つ。
機関の職員は境界を超える前に、必ず祓いの儀式を済ませること。境界に置かれた神の目には特に注意すること。
また、みとし村とその周辺は霊が発生しやすく溜まりやすいうえ、穢れが多い。村民にはおみとしさまの加護があるが、捜査・調査に携わる職員は各自対策するように。
【みとし村事象の調査動機】
(1939年4月21日)
みとし村付近の町に駐在していた警官の元に、「変な人がいるから何とかしてほしい」と相談が寄せられた。警官が現場に駆け付けると、道の上に佇んでいる一人の女性を発見した。彼女はボロ布を身に纏い、櫛を通していない長い白髪を風に吹かせるままにして、辻の中央に立っていた。
その異様さに驚きつつ、さらに近づいてよく女性を観察した警官はその顔を見て顔を顰めた。
白髪から老婆かと思われたその女性は、二十代前半位の若い女性だった。皺ひとつない整った顔、しかし口の周りは赤茶色の泥のような物で汚れていた。警官の顔を見た女性の口角は引き攣るほど上がり、欠けて不揃いな前歯が剥き出しになった。
警官は警戒しつつ、女性に声をかけた。すると、女性は笑みを浮かべたまま歌い出した。
「かこめ かこめ おみとしさまはわらってみてる つじとさかいにめぇおいて わるいこいないかみはってる つぎにとじるのだぁれ」
わらべうたのような物を口にしながら、彼女は野次馬の顔を順に指差していった。歌の終わりに、その指を止めると、
「かーこんだ!」
そう叫んだ彼女は指差した人間に飛び掛かった。彼女を払い除けようとした腕に噛みつき、そのまま肉片を噛りとって飲み込んでしまった。そのあまりにも壮絶な光景を呆然と眺めてしまった警官は、周囲の悲鳴で我に返るとようやく女性を取り押さえた。
しばらくして、女性の家族を名乗る男女が警官の元を訪ねてきた。彼女は精神的な問題を抱えていて、自宅に閉じ込めていたのだが逃げてしまったのだと二人は説明した。警官が二人を女性に引き合わせると、女性はその場で舌を噛み切り、喉を掻き毟って亡くなった。
後日警官から上記の事象が報告され、当支部は調査を開始した。
当支部と警察機関の連携により、事件を起こす前から女性と親交があった町民を発見した。事件のことは知らなかったようで、詳細を説明すると、酷く狼狽した様子だった。彼女とは半年ほど会っていなかったようだが、とても精神に問題を抱えていたようには見えなかったと証言した。
さらに、今回の事件の他にも異常行動をとる人物がいたとの目撃情報を複数確認。町内や山中など、いずれも、みとし村を中心にして目撃されていた。
これらのことから、人間の精神に影響を及ぼす何かがみとし村にある可能性は高く、一連の現象を【みとし村事象】と命名。調査官の派遣を検討する。
(追記1970年)
1960年以降は異常行動をとる村人は確認されていないことから、原因の封じ込めに成功したと考える。
(追記1975年)
異常行動をとる村人が目撃された。囲は水面下で続いている。詳細は別紙【みとし村事象についての報告】を参照。
【みとし村事象についての報告】
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第2話
第3話 1/2
第3話 2/2
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第5話
第6話
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第8話
第9話 1/2
第9話 2/2
第10話
第11話
第12話
第13話
第14話(最終話)