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ピアノとレッスンと先生③b

 高校から大学に進学した一回生の前期は、家から通学していました。片道約3時間半、他人様からは”小旅行だねぇ”と驚かれる日々。
私の母校は、京都市内の御所のすぐ傍に校舎があるのですが、京都と奈良県との府境にも校舎があり、音楽学科はそちらで授業がありました。
当時、大学の付近はコンビニエンスストアすらない、田園風景が広がっている地域でした。

入学後のピアノのレッスンは、K先生。小柄な女性で、おそらく50代半ば?と思われるのですが、特に相性が良いとか悪いとかも思わず、淡々とレッスンを受けていました。
私以外に、フルートのYちゃん、クラリネットのⅠちゃんが同じくレッスンを受けており、フルートのYちゃんは、お父様が音楽の先生ということもあり、ピアノの先生とお知り合いのようでした。

ある日、Yちゃんが「夏休みに、K先生のご自宅にレッスンに行くのだけど、皆で来てと言われて」と言うので、3人で伺うことになりました。
ちなみに、Yちゃんは下宿生活、Ⅰちゃんは滋賀県在住、私は先に書いた様に片道3時間半生活。そして、先生のお宅は京都市内の北の外れ、比叡山を間近に見ながら、バスに揺られて行きました。当時そんなに京都市内の地理を把握できていなかった私は、大学周辺より更にのどかな田園風景を見ながら、一体どこへ行くんだ…と不安がよぎりました。

入学して4ヶ月程なので、私達3人もさほど関係性が深まっているわけでもなく、ましてや、ピアノの先生ともそんなにフレンドリーな関係でもない。そして、頼みのYちゃんも妙に緊張している。ぎこちないままお宅に伺って、順番にピアノを弾いた後は、先生がご飯を用意して下さり、粽やら色々と大皿が出てくる。先生は”沢山食べてね”と仰り、ぎこちない私達は遠慮しつつモグモグ、先生のお話に相槌を打ってはモグモグ、モグモグ…。

K先生のお嬢さんが、趣味でクラリネットを吹いているとのことで、部屋の隅に楽器がたててあり、先生はなぜか「楽器あるし吹いて」とⅠちゃんにリクエスト。さすがにⅠちゃんは「…人の楽器はちょっと…」とやんわりお断りをいれると、「そうよねぇ」と反応する先生。よく文末に(苦笑)と入力しますが、その苦笑いな空気を引きずりつつ先生宅を後にしました。

その後も、K先生との関係性が深まることもなくレッスンを受け、秋ごろのある日、試験曲を決めることになりました。先生からは「ラヴェルのソナチネ第一楽章にしたら。」と言われました。実は、ラヴェルのピアノ曲は、「水の戯れとかピアノ科の人がよく弾いていたなぁ」ぐらいの印象で、自分が弾くと思っていなかった作曲家。もしご興味ある方は”ラヴェルのソナチネ”を検索していただくとわかりますが、とても素敵な曲です!…ただし、お手本通り弾ければ、ですけどね。

ひとまず楽譜を購入した私は、楽譜を開けて”うーむ”と唸るしかなかった。発表会ではなく試験だから、点数は良くないといけないのだが、この曲で私は点数を貰えるのだろうか?という自分の技術力を思うと気力が萎えた。
神よ、なぜ、K先生は私にこれを与えたのだぁ…と思いながら、譜読みを始める。
一か月程経っても、お手本の音源をスローモーションで流しているようなよちよちしたソナチネに、私自身が既にイヤになっている。ラヴェルって他に私が弾けそうな曲なかったのかしら?いや、それより試験だしモーツアルトのソナタとかにしてくれないかな、と練習にも今一つ身が入らない。

試験の2か月程前のレッスン日に、意を決して、曲目をモーツアルトに変えてほしい、と先生にお願いしてみた。すると先生は「アナタね、モーツアルトはそんな簡単に弾ける曲ではないのよっ。」とムッとされて即却下。
入試はモーツァルトだったし、別のソナタでも良いではないか、それに私はフルート専攻だし、ピアノの成績で足を引っ張ることになるのもなぁ、などと思うのだが、反論する余地もなく、私はラヴェル続行となりました。

出来栄えに納得いかないまま試験日を迎え、ひとまず弾きました。何点だったかは記憶にないのですが、当たり障りのない点数だったように思います。
私の鍵盤生活の最高峰曲(苦笑)ラヴェルのソナチネは、今となっては引っ越しもあり、楽譜はどこに行ったのやら、です。
たまに聴くことがあっても、”良い曲だなぁ、ホントはねっ”と苦笑いしています。

…完…








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