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全裸の思い出 〜職人の旅日記〜

2010年8月、大学生最後の夏休みに思い出を作ろうと、バイクで一人北海道へ行った時のこと。

人生で5本の指に入る恥ずかしいことが起こった。



ぼくは屈斜路湖の湖畔にある無料温泉に浸かっていた。
もちろん、全裸。

壁らしいものもなく、目の前に湖面が広がる開放的な温泉である。

他に入浴客はおらず、貸し切り状態で旅の疲れを癒やしていた。

「はぁ〜、やっぱり風呂はいいなぁ〜」

と、一息ついた頃、湖で遊んでいたと思しき水着姿の若いカップルがこちらに近づいてきた。

無料温泉だから入浴シーンを見られることは想定していたが、同年代のカップルに見られるのはさすがに恥ずかしかった。

「さっさと通り過ぎてくれ!」と心の中で祈る僕に最悪の事態が訪れた。

なんと、若いカップルは水着を着たままで温泉に入ってきたのだ。


ソワソワする僕。

「湯船にタオルをつけてはいけない」という浴場でのマナーを律儀に守っていた僕は、カップルが近くに来ても隠すべき所を隠していなかったのだ。

動揺を悟られるとさらに恥ずかしくなるので、タオルは頭に乗せたままで平静を装った。
あえて正面を向き、あぐらをかいたまま風呂に入り続ける。


すると、またもや水着を来た数人が訪れる。

こんどは家族連れのようだ。
例のごとく、水着のまま温泉に浸かった。


そして温泉はさらに賑わいを増す。

どうやら、この無料温泉は屈斜路湖で水遊びをした人達の憩いの場となっているようだ。

せめてお湯が濁っていればよかったものの、温泉は無色透明。

自分以外の全員が水着を着用しているなか、一人だけ陰部にワカメを泳がせていた。


変な意地から、タオルで陰部を隠すタイミングまで失ってしまった。

状況的には、家族連れやカップルで賑わう市民プールに、一人だけ全裸で入っているようなもの。


なんだか自分が野蛮人になった気がする。

決して間違った行いをしていた訳ではないが、少数派の恐ろしさを知った21歳の夏だった。


実のところ、その数時間前、地元のバイク乗りの方にこんなことを聞いていた。

「たしかに無料温泉はあるけど、、、
あそこ、恥ずかしいよ?」

はじめての北海道バイク旅で舞い上がっていた僕は、「旅先で恥ずかしさなんて気にしないっす!」
などと言っていたのだ。


あの頃ボクは若かった。



完。

みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。