漁師さんに拾ってもらう
自転車が走行不能になった。
雨の中数キロ先にあるという自転車屋さんを目指して歩いている。
気づいたのは宗谷岬の手前だった。
「後輪がウネウネしてる!?」
ホイールがわん曲して、回転に合わせて波打っていた。
曲がった部分がブレーキに接触していたが、直せる自転車屋さんが見つからず仕方なくブレーキを外して走行していた。
車輪を支えるスポークが何本か折れていたのが原因だったようだ。
雨でクッチャロ湖のキャンプ場に連泊していたが、早く直したくて走り出す。
そしてこの日、パンクした前輪を直しても空気がどこかから漏れ出すという状態になりだした。
後輪もまともな状態ではないのでいち早く自転車屋さんに直してもらいたい。
ホームセンターのおじさん曰く。
「スポーク直せるのは、30キロくらい先の町かな、、、」
携帯用の小さい空気入れでシャコシャコと空気を入れて、漏れ出す前に10キロずつ程走っていく。
前の町で聞いた自転車屋さんに行ってみる。
「これ直せるのは、50キロくらい先の町かな、、、」
再び前輪にシャコシャコ空気をいれながら次の町を目指す。
しかし、、、
最初は空気が無くなるまで10km程もっていた前輪が、数キロしかもたなくなってきた。
シャコシャコシャコシャコ、、、
携帯用空気入れではなかなか空気圧が高まらない。
シャコシャコシャコ、、、
そんなことを繰り返すうちに、200メートルほどで空気が抜けて走れなくなってしまった。
かと言って本格的にパンク修理をする気力も残っていない。
あと数キロで着くはずだったので、自転車を押して雨の中を歩くことにしたのだ。
そんな時、対向車線を走ってきた軽トラックが停まり、中からメガネをかけたおとうさんが声をかけてくださった。
「自転車壊れたのかー!乗せていってやろうかー!」
「お願いします!」
自転車もガタガタで疲れていたこともあり、すぐに甘えることにした。
自転車屋さんまで乗せてもらい、荷台から自転車を降ろす。
やはり修理に時間がかかるらしく、直るのは翌日以降らしい。
「雨も降ってるから、うちに泊まってけ。な。遠慮しなくていいから。」
「さっき乗せてきたばっかりだろ?あんたすげぇな。」
と自転車屋さん。
以前、カヌーで北海道の沿岸を一周している青年を家に泊めたこともあるとおっしゃっていた。
温泉にまで連れていってもらい、帰りにお店でゴハンをいただく。
実は車で拾ってくださった時、一度私を後ろから追い越していたらしい。
その後、しばらく走ったが自転車を押していたので壊れていたんだろうと心配して引き返し、対向車線から声をかけてくださったらしい。
漁師のおとうさんは、体は大きく日に焼けているが、丸いメガネの奥にある瞳がとても優しい印象的だった。
つづく
みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。