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戦わない防犯法

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街の中で、こんなポスターやシールをよく見かけるようになりました。
相次ぐ手荒い犯罪への警戒心は必要ですが、最も安全なはずの自宅に居てさえ、気を抜けないのはやりきれない話です。
家まわりの防犯を心がけるのは重要ながら、私はどちらかといえば、外出中の危険が気になります。

もちろん年齢や性別、地域によっても危険性は違うでしょうが、誰しも思わぬ災難から無縁であるとは言い切れません。
たまたまその場に居合わせた、ただそれだけの理由で、人生が大きく変わってしまうことだってありえます。

それでも街を歩きながら見ていると、あまりに無防備な人が多いのに驚かされます。人混みの中でもお財布をポケットから露出させていたり、バッグは口が開いたまま、耳にイヤホンをし目は液晶画面に釘付けの人ともすれ違います。

それだけ日本はまだまだ安全だということかもしれませんが、もし私が悪人なら、狙うのはこんな人たちだ、と思ってしまいます。
奪われるのがお金や物だけならまだしもで、命にまで危険が及ぶ事態を想像するとぞっとします。


私にはさまざまな分野で尊敬する先生がおり、直接に存じ上げているなかで文字通り最強なのが、フィリピン人のマーシャルアーツの先生です。
格闘技好きの方には有名な、近接格闘技アーニス・エスクリマ、通称カリのマスターであり、フィリピン警察や米軍のトレーナーも担当する凄まじい人ですが、とても小柄な女性です。

今は日本を活動拠点とし、偶然にも私の自宅からそう遠くないスタジオで、一般向けにもカリを教えておられます。
好奇心から見学に行き、どうしても仕事の都合がつかなくなるまで、私も一年以上、先生から教えを受けました。

外出先での先生は、荷物は常に背中に背負い、護身用の長傘を携帯しています。
長さがある傘は相手と間合いがとれますし、先端部分の石突は攻撃に有効です。先生曰く「傘は差すものでなく刺すもの」だとか…。

「道でおじいさんや可愛らしい女の子とすれ違うとするでしょう。そんな時でも私は気を抜かないの。二人は武術の達人かもしれないし、凶器を持っているかもしれない。人を見た目で判断しては絶対にだめ」

先生は繰り返しこんな注意を口にしていましたが、これは決してオーバーな話ではありません。ごく普通に見える人が、どんな意図を隠し持っているか、外からはわからないのです。


そして、傷害事件とまでいかずとも、危ない目に遭いやすい人には、いくつかの特徴があるそうです。

注意力が散漫なこと、適切でない場や時間に一人でいること、姿勢が悪いこと。

三つ目は意外に思われるかもしれませんが、犯罪学の専門家の著書にも同じ記述がありました。
犯罪者が場当たり的にターゲットを選ぶ場合、なるべく“襲いやすそう”“抵抗されなさそう”な人を好むため、姿勢は重要なファクターです。

背中を丸め、視線を落としてうつむきがちに歩く人と、背筋を伸ばし、顔を上げまっすぐ前を見て歩く人。
犯罪者が引き寄せられるのは前者であり、避けるのは後者です。

これはどんな年齢・性別の人においても有効で、周囲をよく見、姿勢を正してほんの少し早足で歩くことで、犯罪者の網からすり抜けられるのだという説明でした。


常にリラックスし正しい姿勢を保つように、カリのクラスでも頻繁に指導されるのは、それがスムーズに次の行動へ移る助けになるからです。

気をつけていても危険に巻き込まれた時、まずすることは、とにかくそこから逃れること。
先生ほどの方でも、戦うよりは素早くその場を離れると話していました。相手とやり合う羽目に陥る時点で、大きな失策を犯しているのだとも。

これは文字での説明は困難ながら、危険から逃れる際も、自分の周辺の空間を360度意識すること、一定の状況に居着かないよう、身体を固めず正しい姿勢でいることは不可欠です。

できる限り危険には出会いたくありませんが、いざという時のため、備えは心身ともに必要であると最近とみに感じています。
みなさまも、どうぞご安全に。

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