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【第7〜10回】『一人称単数』『キオスク』『ザ・ロード』

こんにちは。
文学ラジオ空飛び猫たちです。
2020年にお送りした文学作品を紹介していきます。

硬派な文学作品を楽しもう!をコンセプトにしたラジオ番組です。毎週月曜日7時にpodcast等で配信しています。ラジオをきっかけに、文学作品に触れていただけると嬉しいです。

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【第7・8回】『一人称単数』(前編・後編)村上春樹著

【第7回 前編】〜信じた方がいい、それはなにしろ実際に起きたことなのだから〜
【第8回 後編】〜これは村上春樹の黒ビールです〜

あらすじ
「女のいない男たち」以来6年ぶりに発表される短篇小説集。「一人称単数」とは世界のひとかけらを切り取る「単眼」のことだ。しかしその切り口が増えていけばいくほど、「単眼」はきりなく絡み合った「複眼」となる。そしてそこでは、私はもう私でなくなり、僕はもう僕でなくなっていく。そして、そう、あなたはもうあなたでなくなっていく。そこで何が起こり、何が起こらなかったのか? 「一人称単数」の世界にようこそ。

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
村上春樹さんの短編は好きで、2、3年前の夏に読み返しました。村上春樹さんの小説は時間の経過やその時々の状況によって感想や捉え方が変わると思っていて、『一人称単数』も次回読んだときには違った印象を抱くのではないかと思っています。ちなみに今回自分の気持ちにリンクしたのは『クリーム』と『ウィズ・ザ・ビートルズ』でした。どちらも過去の懐古を強烈に感じました。
村上春樹さんを読んだことがない人には『一人称単数』より『東京奇譚集』の方がおすすめです。例えて言うなら、この『一人称単数』は村上春樹さんの小説の中でも黒ビールのような存在だと思います。普通のビールを味わいたいなら『東京奇譚集』のような小説を。苦味のある小説を読みたいなら『一人称単数』を。

ミエ
やはりどれも村上春樹さんらしい小説だと思いました。現実の世界と思っていたら実は夢の中だったとか、本当の出来事と思っていたことが本当の出来事ではなかったとか。そのようなフィクションとして描かれていることも主人公にとってはリアリティのある人生の一部で、人生を振り返ったときに残るのがそのようなフィクションの部分だったりします。リアリティを超えたフィクションを味わえるという点で、『一人称単数』は村上春樹さんらしさがあって魅力的だと思います。個人的には『チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ』が自分の過去と重なるところがあって一番好きでした。
村上春樹さんをあまり読まない人は、読む順番を変えていいと思います。『石のまくらに』から始まりますが、『ウィズ・ザ・ビートルズ』や『謝肉祭』から読んだ方が入りやすいと思います。

【第9回】『キオスク』ローベルト・ゼーターラー著 〜17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン〜

あらすじ
自然豊かな湖のほとりに母とふたりで暮らしていた少年フランツは、田舎を離れウィーンのキオスクで見習いとして働くことになった。はじめてのひとり暮らしと仕事、都会の喧噪に期待と不安を感じながらも、キオスクの店主から新聞、葉巻、お客のことなどを学んでいく。そんなある日、忘れ物を届けたことで常連客のジークムント・フロイト教授と懇意になり、フロイトから人生を楽しみ恋をするよう忠告される。さっそくおしゃれをしてプラーター遊園地にくりだしたフランツは、謎めいたボヘミアの女の子に出会い、すっかり心を奪われてしまう……。ナチスドイツに併合されていくオーストリアの様子と、そのなかで少年が思い、悩み、考え、行動する姿を、静謐に物語る。

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
青春小説で、田舎から上京してきた人には共感できる部分が多いと思います。主人公フランツは都会が呼吸しているように感じたというが、自分も東京に上京してきたときにはそう感じたのをよく覚えています。まっすぐ過ぎる主人公がいろんなことを学び、傷つき、諦めたりしながら成長していく過程には引き込まれました。戦争という理不尽な状況もあって、飲み込まれていく姿は悲痛でもありますが、応援したくなります。それとフロイトが登場する設定がいい。すごいフックになっています。
青春小説が好きな人には特におすすめですが、ハッピーエンドとは決して言えないです。前半は万人受けするタイプの小説だけど、途中から戦時中の話ということもあり辛いことが連続していくので、そういうのが苦手な人には合わないかもしれないです。

ミエ
初めて読んだのは2019年で、この一年で3回くらい読んでいます。推し本の読書会ではだいたい『キオスク』を紹介していました。フロイトに導かれて、大人となっていく主人公フランツの成長物語がすごく心に残っています。フロイトや周囲の人のサポートがあって、フランツは少年の殻を破り、信念を持った人間になります。でも、時代は1938年のウィーンで、信念を持った人間が生き延びるには厳しい時代でした。もし時代が違っていれば、フランツはすごく立派な人間になって幸せになっていたと思います。ついそんなことを考えてしまいました。それと小説を読み終えたら駅のキオスクに行って新聞を買いたくなりました。
自分に自信が持てないとか、勇気をもって自分の道を歩みたいとか、そういう人は『キオスク』を読んでほしいと思います。フランツがフロイトの言葉に導かれたように、フランツがあなたに勇気を与えてくれるかもしれません。

【第10回】『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー著 〜世界の終わりでどう生きるか〜

あらすじ
空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪(りゃくだつ)や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとして―。世界は本当に終わってしまったのか?現代文学の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長篇。ピュリッツァー賞受賞作。

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
今年のコロナ禍に読みましたが、ラストあたりボロボロに泣きました。本当読んでよかったと思えた小説です。終末の世界の話なので、とにかく暗く絶望的だけど、それゆえ人間の本質的な部分を描いています。暴力的な描写も多く、残酷なシーンや状況もありますが、その中でこの小説は親子の関係や愛を描いているので、なんだか救われたような気持ちになれました。
救いがあるとかないとか関係なく人間の愛情を描いた作品です。誰かを大切にしたいと思ったことがある人には必ず胸を打つと思いますので読んでほしいです。

ミエ
作者のマッカーシーの何もかもフラットに描く文章が好きで、この小説にはまりました。旅する親子は今日この一日を乗り越えれるのか、とすごい緊迫感を感じれます。あっさりと人は死んでいくし、都合のいいことなんて起きないし、本当にマッカーシーは容赦がないと思います。そんなサバイバルな世界で、タフに生きる父親と、必死についていく優しい少年に感銘を受けました。小説から生きる力をもらえたと思っています。
真剣に生きようと思っている人に読んでほしいです。マッカーシーは親子にすごく厳しい現実を突きつけてきます。その現実に親子は向き合い、生き延びようと必死に日々を過ごします。これほどの緊張感と、同時に希望もある小説はないと思います。マッカーシーの真剣さは並のレベルではないです。

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