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イスラーム映画祭、好きなジャンルの映画をまとめて見られる機会

日本に、「イスラーム映画祭」という映画祭があることを知っている人は、どれだけいるのか、わからない。

実際、割合からすれば、それほど多くはないかも知れないが、会場の熱気は年々増しているような気がする。

「イスラーム映画祭」は、主として、アジアからアフリカに広がる「イスラム圏」の映画を上映する。東京の映画館ユーロスペースをはじめ、名古屋、神戸でも開催される。今年は東京で3月16日に始まり、22日まで開催される。

過去には、国際交流基金が「アラブ映画祭」というイベントを2004年から2008年まで毎年、東京で開催していた。だが、残念なことに、予算の問題もあったのか、廃止されてしまった。

だから、イスラム圏というか、中東に関係した映画をまとまった本数見ることができるという、ほぼ唯一の貴重な機会が、この「イスラーム映画祭」になっている。

主宰しているのは、藤本高之さん。「アラブ映画祭」と異なるのは、文字通り手弁当で開催している点だ。

2018年4月15日に、東京・下北沢の本屋B&Bで開催された「イスラームとイスラーム映画の魅力」と題したトークイベントに出演した藤本さんは、イスラム世界に関心を抱いたきっかけをこう話している。

 「20歳代後半に沢木耕太郎の『深夜特急』に憧れてアジアを横断し、イスタンブールを通り、東欧、北欧まで1年3か月かけて旅した。その時、イスラ-ムに親近感を抱いた。高校の先生が『イスラ-ムはすごい』と言ったのを覚えていた。短剣にも装飾がある。西洋の合理性と違う世界があると思った」

同時に、藤本さんは映画も大好きで、さまざまな模索の末に「イスラーム映画祭」にたどり着いた。

「2年間、渋谷の映画館アップリンクのワークショップに通った。それがきっかけで北欧映画祭を開催したが、違うことをやりたいと、イスラーム映画祭を始めた。作品のセレクトは勘。自分のバランス感覚でやっている。埋もれてしまったいい映画に光を当てたいと思っている」

そう語った藤本さんは、今年、中東のイエメンという国に焦点を当てた。

イエメン関連としては、イエメン人のハディージャ・アル・サラーミー監督の「わたしはヌジューム、10歳で離婚した」「イエメン:子どもたちと戦争」と、英国人のドキュメンタリー「気乗りのしない革命家」の3作品が上映された。

「わたしはヌジューム、10歳で離婚した」については、以前に試写会をみて書いたこの記事を参考にしてもらえれば。

本番の映画祭では、あとの2本、「気乗りのしない革命家」と「イエメン:子どもたちと戦争」を鑑賞。この2作を①②の順で2本立て連続上映としたのは、鑑賞者の側からすると、お得感が高いし、イエメン情勢の理解を助けるという意味でも、とてもいいアイデアだった思う。

「気乗りのしない革命家」は、チュニジアで始まった「アラブの春」が波及する形で始まった反政府抗議行動の実相が描かれている作品だったし、「イエメン:子どもたちと戦争」は、2015年に始まったサウジアラビアのイエメン空爆で受けたイエメン国民の状況の貴重なレポートになっている。2011年以降のイエメンを、時系列を追って知ることができる貴重な機会だった。

その、「気乗りのしない革命家」。反政府運動に懐疑的な、観光業者の男性カイスの心の機微をイギリス人監督が細やかに切り取った。私が2013年〜16年まで過ごしたエジプトでもそうだったが、観光業に従事している人々は概して(もちろんすべてとは言わないが)、国の安定を重視する。国の安全が確保されないと、外国人観光客は来てくれない。民主化を求めて、通りにテント村を作って抗議する人々を、「営業妨害」ぐらいにみなす人もいる。

ショーン・マカリスター監督は、そんなカイスの心情に一定の理解をしながらも、カイスをしつようにテント村に連れ出す。政府側が抗議の民衆に発砲するなど、事態が混迷化。状況の悪化とともにカイスの心情も次第に変化していく。

映画を見終えてみると、「気乗りのしない革命家」という、やや曖昧なタイトルは、イギリス人らしい皮肉がきいていているともいえ、じつに秀逸だと思った。

「イエメン:子どもたちと戦争」は、この日、一つ前に上映された「わたしはヌジューム、10歳で離婚した」のハディージャ・アル・サラーミー監督が、イエメン人の子供の視線からイエメン戦争をレポートした作品。

SNSで紛争下のイエメンの女性たちの写真を発信して、「MISS WAR」と呼ばれている女性ネスマや、イエメン人男性ラッパーを子どもたちが紹介している。スマホからのメッセージを通じて、欧州連合にサウジアラビアへの武器禁輸を訴える、という取り組みが、いかにも今の情報伝達方法だった。

映画に登場するラッパーは、マジーディ・ジヤーディという人らしい。youtubeには、TEDイベントに登場した時の映像もあった。


上映後には、アフリカ・ジブチに逃れたイエメン難民の支援を行う名古屋の国際NPO「アイキャン」の藤目春子さんのプレゼンテーションも行われ、イエメンについて考える材料がこれでもかと示された。

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