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冬の朝、ホワイトチョコレート




冬の朝は
水のにおいがする

海みたいなシアンブルーの空
光る雲にはグレイッシュブルーの翳り

冷たく新しい空気が
わたしに息をするようにと
風で語りかけてくる

熱いコーヒーと
ホワイトチョコレートをひとかけら


息ができる
こんなにも深く


こういう気持ちを忘れてた

こういう気持ちが大事なんだということを
いの間にか忘れてた



わたしはその朝
長いあいだ閉め忘れていた扉を
そっと手のひらで押しました

もうあの冬の吹雪が
入り込むことのないように



来る日も来る日も
目が覚めることに怯えてた

それは麻酔のような朝の連なり


窓から差し込む朝の光に焼かれると
身体が灰になっていくようだった

はやく暗闇にもどらなくちゃと
目も耳も口も閉ざし毛布をかぶって
じっと自分の思考に耐えるだけ

泣こうと思って泣いて
怒ろうと思って怒って
笑おうと思って笑ってた

それはとてもぎこちなく
不自然な感情だった



でも もう気が済んだ

もう充分だ
誰にそうだと認められなくとも


そんなにつらいのなら
苦しいのなら
もう受け入れてしまいたい

心の器を大きく広げて
あるがままを受け入れたら
ただここにあるというだけで
満たされるなにかがあった

あなたは大丈夫
わたしも大丈夫

自分はいなくならないから

自分が永遠にいなくならないということは
この世界も永遠になくならないということ


それを地獄だと思ってた
その永遠ゆえに
いつだって幸せになれたのに

透明な空気 青い風 白い光
シンクの輝き 水の冷たさ
そしてホワイトチョコレートをひとかけら

それはあなたの心を守るもの

胸の奥のほうにある
大きなポケットに詰めこんで
朝の散歩に出かけよう

まっすぐ前を見て
歩いていこう








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