イギリス人にとってクリスマスとは?
クリスマスはカップルではなく家族で祝うもの
雪で道路が凍ってツルツルの日、道で年配女性に滑って骨が折れると困るから一緒に歩いていいかと聞かれた。
腕組して歩きながら女性は、クリスマスに遠方から、家族が無事来れるかどうかをずっと心配していた。
イギリスでは公共交通機関のストライキが、忙しい時期に狙って行われるから。
イギリスのクリスマスは、カップルのためではなく家族のため。バラバラに住む家族が一緒になる日だ。
クリスマスとその翌日の2日間は、ほぼ全部のお店が閉まるので、街はひっそりする。
あ、日本のお正月とそっくり?
お年玉みたいなものだって配られることがあるらしい。
その証拠に店にこの時期だけお年玉袋を見る。
ドアにかけられたクリスマスリースだって、日本のしめ飾りを思い出さずにいられない。
でも子供もいないイギリス人の親戚が楽しそうにクリスマスの飾り付けをしているのを見ると、日本で自分が楽しむためにお正月の飾りや準備をしたりするかな?思う。
旅行に行くたびクリスマスの飾りになりそうなお土産物を買ってきて、クリスマスに取り出してツリーに飾ったり、プレゼントを大人同士本人に内緒で、本人が好きそうなプレゼントを教えあって準備したり。
もちろん人によると思うけど、大勢の人が形ではなくてクリスマスを本当に楽しみにしているって言う感じ。
日本のお正月は大抵の人は習慣で、自分たちが楽しむためでないような。
そこが日本のお正月と違うかもしれない。
寒くて真っ暗な冬のイギリス
今日のニュースで難病の子供の治療をクリスマスにすることになったという地元の家族がインタビューに答えていた。
「クリスマスは暗闇に光を見出す季節です。
私たちにとって、今年のクリスマスはまさにそうなったのです」
私はキリスト教徒でもないので、日本より早い時期から、どこへ行こうが日本以上に徹底したクリスマス一色の飾り付け、音楽、テーマとなっているイギリスのクリスマスが苦痛だった。
ジングルベルとか聴くとゾッとするほどイヤで、何もお祝いすることない無宗教で子供もいない私は一体どうずりゃいいって言うのよ?って感じだった。
が、イギリスはこの時期、特に天気が悪く曇りか雨のどっちかしかなく、太陽を何日も見ないことも普通だ。
さらに島国だし日本と比べ地形の高低差が少ないこともあるのか、強風が吹き荒れる。
極め付けはクリスマス時期の日照時間は6時間ぐらいしかなく、日没が3時半。
2時過ぎ頃から、つまりお昼ご飯を食べ終わり1時間ちょっとでもう、薄暗くなったと感じる。
ある日、雨風の強く寒くて真っ暗な夕方、クリスマスマーケットの飾り付けと人混みで賑わっていつもと違う、不思議な、魔法のようなに華やかな街を目にして、
「さすがにこれくらいないとあんまり憂鬱だ!」と思った時、ハッとクリスマスの意味を理解した。
寒くて、暗いこの季節、クリスマスを祝って何とかやり過ごす。
そういう発想がクリスマスの背景にあったのか?とイギリス人家族に聞いたら「多分そうだと思う」と言っていた。
クリスマスツリーの輝きがどこまでも続く、夢のような街並み
日本人ってミーハーというかノリが軽いのかなあ?という気もする。
日本のクリスマスはあくまでも表面だけをなぞったような本質には関心ない、商業的なものだと思う。
そりゃイギリスはキリスト教の国だし、と日本人は思うかもしれないけど、実際にはもっと複雑だ。
教会に行く人は少数派なので、多くの教会が活動しなくなり、建物だけ全く別の目的に使われている。
信じられないかもしれないが、我が家からもっとも近い4つの教会のうち1つは建物内がなんとパブ(しかも複数のパブが集まったモール)になっているし、もう一つの教会は、小さい子供とその親の遊べるコミュニティースペースになっている。
移民の数が多いだけでなく、人権重視も日本と比べたら浸透しているため、キリスト教以外の宗教的な習慣も社会的に尊重する。
それでもイギリスでは伝統的に、クリスマスの宗教的な意味合いは強い。
図書館の書棚もこの時期クリスマスの本ばかりなので、1冊手に取った。
子供用の絵本※で、主人公の子供がウサギの「レタス」に聞かれて言う。
「クリスマスはおうちを(クリスマスツリーなどで明るく)飾る日で、
愛する人たちに会う日」
「クリスマスの意味」について、イギリス人家族に聞いても、同じことを言っていた。
近所の通りには出窓の前に大きなクリスマスツリーを飾っている家が多い。
「なぜ外に見えるように飾るの。自分たちのためのクリスマスツリーでは無いの?」
「クリスマスツリーは自分たちのためにでもあるけど、家を飾って外を歩く人にも見て欲しいから」
イギリス人家族はクリスマスツリーを子供の頃はとても楽しみにしていたと言う。
理由はやっぱり、家が明るくなるから。
お祭り!
イギリスには今、全国規模のお祭りらしいものはほとんどない。
クリスマスが一年の最大のイベントであり、お祭りなのだ。
そりゃ、地域によっては何かあるのかもしれない。
ただ少なくとも私がいるイギリス北東部で、日本のような町をあげてのお祭りイベントは、クリスマス以外にはない。
田舎のここも、普段閑散としている広場に12月だけはクリスマスマーケットが繰り広げられ、移動遊園地がやって来る。
すると、全く別の場所のように人で溢れる。
広場に設けられたステージで1日中、子供たちが入れ替わり立ち代わり讃美歌やクリスマスソングのヒット曲を歌う。
お祭りとお祝いのムードで、毎年この時期だけは盛り上がっているのだ。
浅草生まれの日本人の友達が、「私の一年はお祭りのためにある」と断言していたその期待感を、イギリス人のクリスマスへの心意気にも感じる。
クリスマスを祝う背景にある、誰かを思う気持ち
去年家族が大病になり、病状や治療方針への理解が難しく戸惑うことばかりで、精神的に参ってしまい地元患者会の紹介でNGOのカウンセリングを無料で受けさせてもらった。
クリスマスの日に、ドアを叩く人がいて出てみたらそのNGOのメンバーの1人からふくろを渡された。
中には、クリスマスカードと、様々なスキンケア用品やバス用品が入っていた。
誰かが自分たちのことを想ってくれていると言うことが、こんなに温かい励ましになるのだと感動した。
イギリス人にとってクリスマスがどんなものか?
よくわからないけどクリスマスって例えキリスト教でなくても、子供のいない大人でも「誰かを思う気持ち」が大切にされている、良いもの、暖かいものなんだなと理解し始めた。
以来、街のジングルベルも、人の話題や店や図書館のテーマも全てがクリスマス一色であっても、別に苦痛ではなくなった。
これまでクリスマスツリーを飾ったことがなかった。
花屋さんでクリスマスツリー用の本物の樅の木や、広場のクリスマスマーケット周辺で、色とりどりのガラスの玉や、銀色の松ぼっくりなどをたくさん買って、ツリーの飾り付けをした。
樅木の針のような葉っぱに刺されて、その晩は指先がチクチク痛んだ。
※Monday Stanley “Lettuce a Christmas Wish”
Harper Collins publisher 2021 October 28
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?