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ピンチ・苛立ち・異国の地

旅に失敗は付き物である。どれくらい付き物かといえば、ファストフードを食べた次の日にできるニキビくらい付き物だ。本当に甚だ迷惑。それを防ぐために人々は様々な工夫を施す。

ニキビができないように早寝早起きをしたり、詳しくは知らないけど、カープの栗林投手のストレートの如く、(糸を引くような)素晴らしいアクネコントロールを目指したりする。そもそもファストフードを食うなという話ですが。そんなことを言ったらそもそも旅行に行くなということになってしまうので、結局我々は様々な工夫をしなければならない。

その工夫の一つとして、インターネットで不安要素を調べまくることが挙げられる。この行為によって殆どの失敗を回避することができるのだが、当然「調べ漏れ」が出てしまう。僕たち人間はAI(人工知能)ではない。村上春樹だったら、「完璧な人間なんて存在しない。完璧な文章が存在しないようにね」的なことを言うだろうし、みつをだったら「人間だもの」と言うだろう。つまり何が言いたいかというと、「人間だからミスをする」ということです。

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僕はタイ、チェンマイの旅で極めて重大なミスをしてしまった。

チェンマイという、タイ第二の都市への旅は数ヶ月前から企てていた。祖母がバンコクからほど近いパタヤという街に住んでおり、タイに住む祖母と二人、一泊二日の旅をすることになった。僕が日本からタイに訪れる時期が偶々11月上旬。その頃タイではコムローイ祭(『塔の上のラプンツェル』で灯ランタンを天へ飛ばすシーンはこれ)やロイクラトン祭といった世界でも注目される祭が開催される頃だった(ラプンツェルは観たことないんですけど)。

その祭の中心地こそ、今回の旅の目的地、チェンマイ。祭りはタイ全土で行われているっぽいが、餅は餅屋的なマインドでどうせならチェンマイまで足を伸ばそうとなったのだ。

だが、パタヤからチェンマイまでの道のりは想像以上に長く、険しいものだった。距離にしておよそ800キロ。阿部寛(1.89m)何人分の距離ですかと。暇なので計算すると、阿部寛約42万人の身長を足した距離になるみたいだ。例えがおかしいが、最適な例え(東京から広島と同じくらいの距離)が思い浮かばなかった。致し方なし。

例に示したように、距離としてはかなりあるので、当然バスの乗車時間も長くなる。その時間、なんと12時間。小泉進次郎構文的に言わせれば、半日バスに乗るということだ。「12時間後の自分は何歳かな」と、思ったが、僕の誕生日は8月であるため、無論変わらず22歳のままだ。

遠すぎる。。

12時間座り続けるというのは本当に苦行そのものだった。乗車したバスのランクがファーストクラスということもあり、座面はソファーのように柔らかく、足も伸ばせて非常に快適なのだが、いかんせんフルフラットの180度で寝ることができない。最初はこの席なら12時間とか余裕だわ、と思っていたが本当の敵は時間ではなかった。

敵は、「揺れ」にあり!タイの道路は日本の道路と比べてしっかりと整備されていない。5秒に1回激しく縦に揺れる。揺れた途端にガタガタと煩わしい音を立てる。こんな状況下で熟睡できるはずがない。

しかも、10秒に一度くらいの頻度でバスが「プシュー」と音をあげる。その音が、高校時代、優秀すぎるが余りに人を鼻で笑う癖のある男の子を思い出させる。「プシュー」が彼の鼻息に聞こえてくるのである。彼とは仲良かったが、さすがに10秒に一度の高頻度で嘲笑されると腹が立ってくる(勝手にごめんね)。

おまけに、隣に座ったファランの寝息が非常に荒い。葛飾北斎の富嶽三十六景、東海道沖浪裏くらい荒いのだ。これではその寝息に飲み込まれ、窒息しそうである。

まあこれら外的要因は我慢すればいいのだが、後半戦、尾てい骨が悲鳴を上げているのは非常にキツかった。尾てい骨は人類の進化の過程で尻尾が無くなった名残であると聞いたことがあるが、そんな名残はいらねえと強く思った次第だ。なんならこのバスに乗っていればそのうち尻尾が生えて来るのではないかと思うくらい尾てい骨痛に苛まれた。

だが、この話の失敗とは長距離バスで尾てい骨が痛くなったことではない。

無事チェンマイへ到着した後の、ホテルチェックイン時のことである。

日本のホテルチェックインの際は保険証とか適当な証明書を提示して本人確認をするのだが、海外では本人確認の書類はパスポート一択になるみたいだ。少なくともタイではそうだった。外国へ入国する際、パスポートが必要になるため、一般的な海外旅行でパスポートを忘れるということはないが、なんと僕はパスポートを忘れたのである。

もちろん、タイへ入国する際にパスポートは持っていた。だが、タイ、パタヤの祖母の家に置いてきてしまったのだ。ワクチン接種証明書が携帯に入ってるし、身分証明的な障壁はまあ何とかなるだろうと思っていたが、いざチェックインをするとなんとかならなかった。

「泊めることはできない」

タイ人女性の従業員3人の方々から「外国人のチェックインにはパスポートが必要である」と熱弁されたのだ。

ワクチン接種証明証ではダメ。パスポートの旅券番号を偶々メモしてあったため、それを提示するも、パスポートの原本、あるいはコピーか写真でないと受け付けないと頑なだった。

それもそのはず、彼女たちの説明によれば外国人がパスポートを提示せずに宿泊をすれば警察がホテルに来るとか。このルールはこのホテルだけではなく、チェンマイ全てのホテル共通事項であると言われた。

写真フォルダーを探してもパスポートの写真はない。「見て見て!新しいパスポート作ったんだよねー!」とTwitterに呟くはずもないし、第一、盛れていない証明写真をわざわざ他人に見せたくもない。ネタ投稿としてInstagramのストーリーズに投稿した可能性もあるような気がしてきて、アーカイブ投稿を確認するもない。

ないものはない。パスポートを忘れた自分、写真撮影しなかった自分に苛立ちを覚えた。

しかし、僕はパスポートの写真をスマホで撮影した記憶だけはあった。日本へ入国する際に様々な手続きが必要なのだが、その手続きを早めに終わらそうと思い、パスポートの写真を撮影してデジタル庁に提出したのだ。

半分諦めかけたところで、Amazon photoに最後の希を託す。映画を観ることやAmazonプライムデーに参加することが目的で入会している僕の唯一のサブスクAmazon prime。プライム会員の特典で撮影した写真をクラウドに保存してくれるAmazon Photoをどうせだったら使おうと利用していた。

結論から言えば、そのAmazon Photoのクラウド上にパスポートの写真があったのである。かれこれ20分くらいチェックインカウンターに座ってようやく見つけたパスポート写真。自分で言うのもおかしいけど、僕の盛れていない証明写真に金ピカの後光が差しているように見えた。

ありがとうAmazon Photo。ありがとうAmazonプライム。一生Amazonプライム会員であり続けようと、このとき誓ったものである。

3人の従業員さんたちも一緒になって喜んでくれた。そのうち一人のおばさんの表情は忘れられない。満面の笑みでパチパチと手を叩いて「ナイス!グッジョブ!」と言ってくれた。僕は広島東洋カープが先制したときくらい喜んだし(あるいはそれ以上)、従業員の方もそんな感じだった。これぞ「微笑みの国」。いや、微笑みを通り越して「歓喜の国」である。

異国の地で会話もなんとかできる程度の間柄で、最高潮に喜んでくれたこと、本当に嬉しかった。従業員さん、コップンカー。言葉は通じなくても、感情は互いに通じる。海外旅行ならではの貴重な体験ができたと思う。まあ最初からパスポート持って来いという話なんですけど。

祖母も「よかったー!」と安堵と共に涙をこぼしていた。あのときは心配かけてごめんね。祖母に改めて伝えたい。

僕らが泊まったホテルは最高なホテルでした。彼女たちフロントスタッフもそうだけれど、エスニック且つラグジュアリーな部屋もまた良く、朝食も美味しかった。

僕がめっちゃ粘ったフロントの天井は阿部寛よりもずっと高い。

ちなみにこの旅の失敗談はまだあるので、この先気が向いたらまた書こうと思います。とにかくパスポートは海外で持ち歩くべきということですね。

下に泊まったホテルのウェブサイト掲載しておきます。チェンマイへ訪れた際は是非。


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