0円で焼肉を食べられる理由
縄文人も他人が捕獲した肉が一番美味く感じただろうし、明治時代の文明開花期だって「人の金で食う牛鍋は美味い」と散切り頭の若者たちがこぞって口にしていたはずだ。
これは、この世界に「肉食」といった概念がなくならない限り、永遠に続く普遍的なものである。
とはいえ、人の金で食うのはいささか引け目を感じるのが常である。なんとかして人の金以外で無料にして肉を喰らう方法はないものか。
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梅雨が明け、いよいよ夏本番となる季節になった。今年で23歳になるとはいえ、僕は未だに夏にめっぽう弱い。名前に「夏」がついていても、夏生まれでも弱いものは弱い。
実は今年の夏はへばらないぞ!と密かに意気込んでいて体力をつけるためにも毎日8000歩以上は歩くようにしている。ただ、大学院の講義がオンラインの日や予定がアルバイトだけの日というのは太陽が沈んだ時点で5000歩ほど足りていない場合が多く、足りない歩数を埋めるべく、夜な夜なウォーキングをしているのだ。
いくら治安の良い日本だからといって、やはり暗闇を歩くのは人間の生理的現象なのか恐怖心を持つものである。だから、なるべく明るい繁華街をウォーキングコースに設定している。
まあ、繁華街というほど輝いていない片田舎なのだが、散歩コースには松屋もあるしマクドナルドもあるし焼肉きんぐもあるのだ。
その焼肉きんぐの前を歩いていたときである。大きな看板に、これでもかと強調して文字が書かれていた。
なんとこの店では小学生なら半額、幼稚園児なら無料で肉を食えるというのだ。
無論、僕はその対象外であるため憤りを感じてならないのだが、僕だってきっとそのサービスを受けたことはあるだろう。
しかし、僕が小学生のときに一人で入店できる度胸はなかったし、幼稚園児のときは10分も一人でいることはできなかったはずだ。
つまり、僕は今無料で肉を食うことはできないし、また過去に遡っても一人ではできなかったのである。
なんとも悔しい。個人戦で駄目なら団体戦でどうか。僕の大学院の友人にワタナベという人間がいるのだが、彼はとてつもない大男なのだ。贔屓にしている球団も読売巨人だし、身長は188センチ、肩幅は奈良の大仏くらい広く、31.0センチの靴を履いている。前世はビックフットか何かだったのだろう。
そんな彼は小学1年生の時点で身長は130センチを超えていたらしく、既に23.0センチの靴を履いていたようだ。
当時のワタナベがどのような人間だったかは分からないが、今の彼は理路整然としていて大人の中の大人だ。彼は口を開けば敬語しか使わない。僕が嫌われているとかではなく、誰に対しても敬語なのである。おそらく、家族に対しても敬語であると思う。
実際に上記のような口調なのかは定かではないが、それほど丁寧なのである。
これは御母上からの厳しい教育があったに違いないし、幼稚園児のときに23.0センチの靴を履いていれば、その頃から一人で焼肉に行くことは容易だろう。
もちろん、「一人焼肉」というのは大人でもハードルが高いのだが、ワタナベは「一人ディズニー」を実行するような人間である。この世界のディズニー好きは、大きく二種類に分けられる。ニワカか、ガチか。彼は当然後者の人間で、ハードル高き「一人ディズニー」はお手のものである。
これは見方を変えれば「一人焼肉」なんて彼からしたら「一人ユニクロ」くらいのハードルと然程変わらないのだろう。
ディズニーで思い出した。ワタナベはディズニーランドへ無料で入園可能な3歳のときに(当然家族と)赴き、「小人チケット」でないことをキャストに疑われたようだ。
つまり、3歳以下は入場料が無料のディズニーランドにおいて、彼は成熟しすぎているせいか3歳で既に5,6歳であると思われていたということである。夢と魔法の国において嘘なんて概念は存在しないのに、だ。
3歳で既に5,6歳ほどの落ち着きを放っているのなら、5歳で一人焼肉は不可能ではないはずだ。いや、可能か不可能かを考えることはもっとも野暮なことで、実は既に5歳にして一人無料焼肉に行っていたかもしれない。
そう考えると確かに、大人っぽいませた子どもというのは実に手のかからない者である。
ちなみに5歳にして一人焼肉をしていたかについての真意は……
であるようだ。念の為、「小人価格」で一人ディズニーをしたことがあるか聞いてみた。
やはりこの男、ただ者ではない。しかも、一人で入園しても動じずにシングルライダーとして一人ディズニーを謳歌している。僕が小6のときに一人で謳歌していたものなんて、派手な瞬足の靴を履いて「トモダチコレクション」(略してトモコレ)というDSのゲームで有名人(福山雅治とか)を作成していたことくらいだろう。
僕がコーナーで差をつけるべく瞬足の靴を履いて福山雅治に餌付けしていたとき、ワタナベは既に一人ディズニーである。彼は成長著しいから、おそらく小6で瞬足を履くことはできなかっただろうが、いくら僕がコーナーで差をつけようと、一人ディズニーに行かれたら差はつかぬ。
もしも小学生に戻れたら何する?と言われたら迷わず言いたい。
さすれば、僕は破格で肉を食べてディズニーに行けるし、コーナーでも差をつけられるし、架空の世界で福山雅治とも友達になれるのだ。こんな幸せな小学生は世界に誰一人存在しないだろう。
【追記】
タイトルの0円焼肉は不可能でしたね。ていうか、「コーナーで差をつける」ってみんな瞬足履いていたら差はつかなくない?やはり、小学生は周りと差をつけるべく、一人ディズニーに行くべき。
「押すなよ!理論」に則って、ここでは「サポートするな!」と記述します。履き違えないでくださいね!!!!