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サマーオンリーシャイニング

僕の名前は夏に輝くと書いて「夏輝」という。夏の朝に、輝くように生まれたという由来があると母から聞いた。かぐや姫と同じ発想である。そう考えると、月へ行くべきなのはアポロ11号でも前澤友作でもなく僕なのだと思う。行きたいとも思わないが。

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小学生の頃僕自身の名前は「夏に強い」という意味だと思っていた。ポケモン的にいうなら「夏タイプ」の人間。プロ野球でいうところの夏に打率を残す、長野久義のような存在を期待されているのだと。

これは逆説的に捉えると、夏にしか輝かないともいえる。サマーオンリーシャイニング。ならば夏輝という漢字の前に、「常」という漢字をいれて「常夏輝」にしてもらえれば1年中輝くことができそうだ。いや、そもそも赤道直下の気温が高い国に住めばいいのか。だが、その国は暑いのが日常であり四季がないのだから、気温が高いことを単純に夏と呼べるかは微妙である。

うーん。結局四季のある温帯の気候のもとで暮らし、夏を迎え入れるべきなのだろう。かといって僕は夏があまり好きではない。なんなら寒い冬よりも、花粉ピークの春よりも、寒暖差激しい秋よりも嫌いかもしれない。紫外線強めだし、熱くて汗かくし。もう不快極まりない。生きているだけでイライラする夏。夏が好きな人はちょっと変態チックだとさえ思う。


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僕は高校時代、弓道部に所属していたのだが、なぜか夏にしか結果が残せなかった。まさにサマーオンリーシャイニング。夏は面白いようによく的にあたる。弦音が良い。矢を放った瞬間に鳴る、弦の「ギュインッ」という鋭い音。そして放った矢を的がダイソンのごとく吸い込んでいく。大谷翔平が投げた球をキャッチャーが捕球したのかと思うくらい、的がキャッチャーミットのように爆発音をたてる。矢の速度も心なしか速く感じた。

このまま調子を維持できるといいのだけれど、夏が終わり、気温が下がってくると徐々に的にあたらなくなってしまう。秋ごろは自分が狙った場所から少し外れる。まあ誤差である。初冬はもう弓矢が言うことを聞かない。惜しいとかではなく明後日の方向へ飛んでいくのだ。さらに寒くなると身体が固まって全く弓を引ける状態ではなかった。

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真冬の練習試合で、身体が固まって弓が急に引けなくなったことがある。パニックだ。弓は高く打ち起こして、最初に三分の一ほど引くのだが、それでもう筋力の限界。いつもならそこから先はいとも簡単に引けるのだが、全く引ける気配がない。弦が鋼になったのかと思うほど重たい。結局4本中4本まともに引けず、的にも届かなかった。こんな経験は今まで一度もない。

何よりチームに迷惑をかけたため、やるせなさで涙目になった。「スランプですね」と、顧問の先生にドヤ顔で言われたが、試合前日までは普通に引けたんだよ。そしてこの翌日には何とも無かったように普通に引けるようになった。今でもあの状態がなぜ起こったのか全くわからない。とりあえず僕はT.M.Revolutionの西川貴教みたいに「冬のせい」にすることにしている。

不思議なことに、春になるとまた調子が戻ってくる。弦がギュインギュイン唸り、もっと気温が高くなると的がダイソンパワーを発動する。吸引力が四季を問わず変わらないといいのになあ。やはり僕はサマーオンリーシャイニング。「夏、終わらないで。」みたいな青春キャッチフレーズは僕のためにあるのだと思う。


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弓道は高校で引退し、今は弓を引いていない。だから、夏に輝く機会を失ったといえる。ただ、夏は気温のせいで食べ物が腐りやすく、大学1年の夏に誤ってそれを胃の中へ入れてしまった。弓道で輝いた高校生活の夏。大学入学後はトイレで口から輝くモノを出す夏を過ごしましたとさ。夏はこれからも僕が輝く季節であり続けるのであろう(トイレではごめんだ)。


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