マガジンのカバー画像

133
これまでに発表した詩をまとめています。
運営しているクリエイター

2021年9月の記事一覧

着物

他人が着せようとしてくる
あなたらしさなんてシャツも
自分らしくなんて靴下も
個性なんて下着も

全部誰かを
夢を希望を妄想を
願いを身勝手さを
妄信を
ただ無理矢理働かせて作ったもの

そんなものに腕を通したら
はいてつけてしまったら

あんまり暑くてくらくらして
あふれる汗のきらめき
その光を錯覚してしまう
錯覚させられてしまう

そうしていずれは
もっともっともっとって
自分からたくさん着込

もっとみる

目覚め

水の奥底で丸まっている
夢が吐き出した一つの小さなあぶくとして
浮かび
水面でぱちりと弾けて
そうして消えていくこと

汚染

眠りは救済に最も近い形式だと強く思いながら
眠り続けてふっと目が覚めたとき

夢のかけらとして胸底に残っているのは
ふたたびの睡眠に対する希求ではなく
安らかさを破られたことへの怒りでも憎しみでも
恐怖でも悲しみでもなく

まぶたを閉じ続けていたことへの
後悔ばかり

ヘドロ

汚れた川にすねを撫でさせ
冷たいよってその子は笑う

川面より濃く夕影が
剥き出しの太ももで輝いている

その子はくるくる回っては
水を蹴っては追いかける
閃くコウモリ追いかける

斜めにお尻を下ろしたまんま
こっちとあっちの境目で
ぶくっとぶくっと息をしている
薄くてやせたヘドロに逃げた

だけどその子の起こした揺れが
けがれの息を乱れさせ
なんだか酔って気持ち悪くて

顔を上げたらその子は笑い

もっとみる