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2020年8月の記事一覧

なぜ

 ただふっと
 白い壁に背を預け

 遠くで鳴くカラスや
 近くで叫ぶ蝉の声を

 聴きつつ天井から
 青い窓へと飛び移ってゆく目玉を

 そっと追いかければ

 話しかけてくる者の
 やわらかな声

 その吐息には
 澄んだ「なぜ」以外の
 いかなる色彩も染みておらず

 どれだけ答えようとも
 声の枯れることはない

散歩

あの古い
湿っぽい林道へと入ったら

水色の
小さい長靴の足音が
ふっと耳をかすめて

振り返ったら
影の底

かすかにきらめく木漏れ日の
心音はひどく甘ったるくて

その淡い
クリーム色に目を細めれば

葉擦れの流れに
髪を肉を
呑まれて呑まれて

緑の腐臭は

夏の底でまぶたを閉じた
レトリバーのあのにおいとは
まるで違っていて

濡れた朽葉が
靴底で鳴り鳴り

手のひらで汗を拭ったら
束とな

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夜涼み

 足首に絡む銀の砂の

 上澄みのぬくもりと
 底のほうの冷たさに

 そっと目を伏せれば

 丘の下のほうで
 うつむくひまわりが

 月影を浴びて燃えていて

 逃げゆく虫の声が
 肺へともぐり込んでくる

 風は冷たく生ぬるく

 仰向けば
 星々の青い息が

 ふくらんではしぼんで

 ふっと振り返れば
 背後を流れる細い川の

 白くて澄んだきらめきが

 のどを深く鳴らしながら
 手招

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還りたい

 この手に首に
 巻きつけられた細くて青い

 食い込む縄の力強さに

 ぐいぐい引き寄せられるまま
 連れてこられたその先で

 知恵と知識と
 意味と理由を呑まされて

 むせれば髪を掴まれて
 こぼすな生きろとささやかれ

 ともに見たブヨブヨに対しては
 きれいだろうと微笑まれ

 無言でいればあごを掴まれ
 首をかすかにでも横へと振れば

 絞められ蹴られ

 ありがとうをぶら下げていな

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夏の窓

 モザイク窓の黄緑を
 ほおを赤らめた淡青が食み

 ギザギザ肺がいつまでも長く
 息を吐いては吐き出して

 鉄柵のベージュから垂れた光を
 カラスが一羽飲んでゆき

 そっと窓を開いたら
 さっきの黒が東屋の上で

 熱気
 そのくちばしでくわえていて

 はねるその身を
 窓の熱に手ぇ重ねて見ていたら

 緑と大気の
 絡む汗のにおいに

 なんだかひどくめまいがして
 土とアスファルトの舌

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