散歩

あの古い
湿っぽい林道へと入ったら

水色の
小さい長靴の足音が
ふっと耳をかすめて

振り返ったら
影の底

かすかにきらめく木漏れ日の
心音はひどく甘ったるくて

その淡い
クリーム色に目を細めれば

葉擦れの流れに
髪を肉を
呑まれて呑まれて

緑の腐臭は

夏の底でまぶたを閉じた
レトリバーのあのにおいとは
まるで違っていて

濡れた朽葉が
靴底で鳴り鳴り

手のひらで汗を拭ったら
束となった髪につまずいて

あのだまになった体毛の
硬さと鋭さが
濃く濃く蒸発していき

飛びかかられて倒されて
笑顔でほっぺたを舐められたときの

毛のやわらかさと熱と
含んだ水の冷たさと

空気よりも湿った息と

お尻に食い込んだ石のあの硬さに
遠くから微笑まれて

うつむき

赤いリードの絡んでいない
二本の足を見つめながら

名前を呼べば返事はなくて

ただ甘く
くちびるを前歯でいじった

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