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伊藤緑
2019年9月11日 13:53
目が合えば、スーツを着た女の人は足早に去っていった。雨足が強くなっていく。公園の芝は水を吸い、街灯の白い光で淡くきらめいていた。ベンチに腰掛けたまま上げていた顔を下ろしたら、胸がひざにくっついて。重たい頭。こみ上げてくる胃液。また吐いた。吐いて、雨に濡れた手の甲で口元を拭えば、肌がぬるり。口からアルコールが蒸発していくような気がした。 ちらつく。こずえの下に溶けていった黒い背中が。彼女の手に
2020年4月11日 22:01
農村公園の、桜の花唇がさらさら舞い落ちる、黒ずんだ木のベンチに腰かけて。背中を預け、塗装の剥げた、低いフェンスの向こうに横たわっている、町を見下ろすようにして。歌いました。人よりも少し、低い声で。水の波紋みたくどこまでも、まっすぐ遠くへ響くよう、思い描いて。音の名前だけで。ゆったりと、静かに、やわらかく。 口を動かしながら目を伏せたら、木漏れ日で濡れた、黒くて長い髪の毛先から、光が滴っていて
2020年4月6日 18:39
ちーちゃん。このメールを読むのが、仮に二度目なんだとしたら。そのときは、緊急事態宣言が出されて、不安と混乱がいっぱい広がって、それから少し時間が経って、たくさんの人が、亡くなったあとなんでしょうね。 この国の人たちがどうするのか、私には分からないけれど。どこかの街が、ううん、多くのところが、半ば強制的に封鎖されているのかもしれない。法律なんかを変えたり、作ったりして。今は要請が中心だけど、強