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小説

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翠煙の中に立ち篭める煙のような

翠煙の中に立ち篭める煙のような

カチリ。

置時計の秒針の音で幽遠な想像から今に戻ってきた。

なにを考えていたんだっけ―

戻ってきた意識を身体に貼り付けながら、吸いさしの煙草に火をつける。
だらりと落ちた思考の束を蒼惶として拾い集めようとする。

手が宙を切った。

そんなこと分かっていた。

痛い。

キリキリと痛む胸中に己の〝生〟を嫌でも実感せざるを得ない。

痛んだままの傷付いた片腕と海松色の声は、それごと誰かの泣き声

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朝東風は綽然と

朝東風は綽然と

仮にこの世界を超越したとして〝自分〟は限りなく永遠に自分であるのだ―。

(だから、人間は嫌いだ)

その思考を支えるそれはなんだろうか。
靄に包まれて鮮明に胡乱なそれは。

誰の為?なんの為?

笑顔の端に同居した博愛と惻隠は近づかずともはっきりと私の心に映って光を点したのだ。

風船のように軽く、吹けば飛ぶような言葉をシャボン玉のように沢山沢山吐き出す癖に。

荒野である浮世の上を梔子色の朝東

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忠誠と死神

白い花を雨が濡らす。
ゆっくりとした歩みを停止させてアイツはその薫りを楽しんでいる様子だ。花が好きなのかなあ?僕には分からない。

さて。そんな事はどうでもいいんだ。
僕は死神。アイツに死を齎す、死を司る神様。

死神はみんな大鎌を持っている。
土に埋まった死者が戻らないように首元に鎌を置いて起き上がったら首が切れるようにするため。
死神はみんな大鎌を持っている。
でも僕は持っていない。
他の死神

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摂氏1000℃

摂氏1000℃

ケーキを作りましょう。
あなたと二人でケーキを作りましょう。お店で買う方が何倍もいいと思うでしょう。それでもわたしはあなたとケーキを作る。

オーブンを予熱、バターは溶かしておく。
お菓子作りは繊細だから準備は必要。きちんと完成させたいもの。
卵と砂糖を混ぜ合わせる。
卵はわたし、砂糖はあなた。二人で交互に混ぜましょう。
薄力粉を振るい入れ、ゴムベラで混ぜる。バターとバニラエッセンスも加え

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