忠誠と死神


白い花を雨が濡らす。
ゆっくりとした歩みを停止させてアイツはその薫りを楽しんでいる様子だ。花が好きなのかなあ?僕には分からない。


さて。そんな事はどうでもいいんだ。
僕は死神。アイツに死を齎す、死を司る神様。


死神はみんな大鎌を持っている。
土に埋まった死者が戻らないように首元に鎌を置いて起き上がったら首が切れるようにするため。
死神はみんな大鎌を持っている。
でも僕は持っていない。
他の死神は僕に言った。臆病者だって。そんな事は分かってるよ。でも嫌なんだ。


僕は、ぼくはアイツの命を奪わなきゃいけない。
大鎌なんて使いたくない。
綺麗な花や水を使いたいな。なんていじけて見せる。
意味なんてないけれど。

そんな僕の気持ちなんて知らずに、アイツはカードで遊んでいる。まあ姿は見えてないから当たり前だけど。


なんのカードだろう?
覗いてみる。あ――僕だ。13番?なんだろう。


アイツは死神が怖くないのかな?
僕が人間だったら怖くて仕方ないのに。ん、いや、怖くはないけど…


アイツ、怖くないのかぁ。死神が好きだったりして。
そう思ったらこんな僕でも頑張れるかも。
でも今日は嫌だな、明日にしよう。
少し眠ってから。気を取り直してから!




日付が変わった。
や、やるぞ。僕は一人前の死神になるんだ。
大鎌なんてなくても魂を抜けるのにな。
アイツが眠っている間に済ませよう…




やった!できた、これで僕は一人前!
アイツは眠っているままみたい!大鎌なんて要らないよ!
死神界に行ってみんなに自慢してやろう!
僕は人間界を飛び立った。



最後にアイツの枕元に見えた赤い花で出来た花束。
あれはなんだろう。
そういえば死神のカードを見てアイツ喜んでいたな。
不思議な人間だなあ。でも死神が好きなら僕はいい事をしたんだよね。良かったあ。

根を張り、枝に赤い花を咲かせた木が臆病な死神が通り過ぎた風で雨水を落とす。
その雫が下を歩く女性の顔に乗り、頬を伝って流れた。

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