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【大阪中之島美術館】展覧会図録ができるまで【デザ恋】

みなさんこんにちは、バイスリーの水田です。
新年度を迎え、私はとうとう入社3年目に突入しました。時の流れは早い……。

今回は、直近のお仕事についてご紹介します。

現在、大阪中之島美術館では開館1周年記念展『デザインに恋するアート♡アートに嫉妬するデザインが行われており、メインビジュアルやグッズなどはバイスリーが担当しています。

会期を迎えた今、案件を振り返りつつ展覧会の魅力も発信できたらと思います。


美術館とのお仕事

この案件が本格的に始動したのは、2022年11月頃。
これは、私はもちろんのことバイスリーにとっても重大なものでした。

なぜなら、本展覧会のコンセプトが戦後日本のデザイン史・アート史を俯瞰するような意義深いものであるからです。またオープン時から大きな話題を呼んだ大阪中之島美術館との初めてのお仕事ということで、大きなプレッシャーもありました。

当初はどのような展覧会になるのか想像し難く、実感もあまり湧きませんでしたが、普段よりいっそう気合が入っていました。


私の役割

今回、私はデザイナーというよりディレクター的な役割で動く場面が多くありました。具体的な仕事内容は、スケジュールの仮組みや校閲・校正、展示作品の情報整理など。それらを含め全体の状況も把握しておく必要があるため、日々の進捗確認は欠かせません。
ひとつ計画が崩れると全てに支障が出かねないので、デザイナーの仕事とはまた違った責任感があり、とても気が引き締まりました。


図録ができるまで

先述した通り、本展覧会のメインビジュアルやグッズはバイスリーが担当しています。今回の記事では、その中でも図録に焦点を当ててお話していこうと思います。

– 展覧会の体験をそのままに

本展覧会は、はじめからデザインとアートを区別するのではなく、その境界や“重なりしろ”を鑑賞者に考えてもらうという意図があります。そのため図録も展覧会の意図になぞらえて、鑑賞者自身が自由に組み替え可能なリングファイル形式を採用しています。

会場以外でも展覧会の体験を味わえ、また人それぞれの解釈によって変化する図録なのです。

作品解説はもちろん、年表やステッカー、展示マップやルーズリーフなど豪華なセット。作品解説は大阪中之島美術館の学芸員さん、年表は日本デザイン振興会の矢島進二さんが執筆されているので、読み物として充実した内容となっており勉強にもなります。
また、実際の会場では時代ごとに作品が並んでいるとは一概に言えないので、年表と展示マップを見比べてみるのも面白いかもしれません。そこで生まれた新たな解釈や気付きがあれば、ぜひルーズリーフに綴ってみてください。
ステッカーはメインビジュアルをコマ上に切り分けたものになっているので、好きなところに貼って自分だけのストーリーを作ることもできます。

この図録の完成には、一般的な冊子を作ることとはまた違った大変さがありました。内容物は紙の種類・厚さ・サイズなど全てバラバラで、リングファイルの形状や最適な紙の選定、収容枚数など一から検証が必要だったためです。

– 仕様が決まるまで

「リングファイル形式の図録をつくる」という方向性が決まり、検証の日々がスタートしました。まずは市販のリングファイルや業者さんからのサンプルを複数集め、最適な形状を模索しました。

ファイルが透明か不透明か、素材によってかなり印象が変わります。また、リングだけでもサイズ・形状の異なるものを6種類用意しました。
内容物の数によってはファイルの形が崩れてしまう懸念があったため、開閉部にはゴム留めを付けることになりました。

打ち合わせを重ねていくごとに、*モックは完成形に近づいていきます。
実際の形になっていく過程って、わくわくしますよね。

*モック - 実物に似せて作られる模型を意味する「モックアップ」の省略形。

– 印刷も他人事ではない

仕様もデザインも決まり、入稿も完了したのでお仕事はおしまい!……ではありません。
当然ですが、図録に掲載する展示作品の「写真」は、目で見た「作品本来の印象」に近づけなければいけません。とはいえデータ上で色調整を行ったとしても、モニター上の色味と、インキをのせて刷られる色を一致させるのはとても難しい……。
*簡易校正も行いますが、実際の印刷とは条件が異なるので再現性は低く、全ての信頼を置くのは要注意です。

ここで発生するのが、「印刷立ち合い」です。
印刷所に行き、現場で出力の確認をすることを指します。データ上では数値で色を確認できますが、現場で頼りになるのは自分の目だけ。*オフセット印刷ではインキの量によって色味を調整するので、的確な指示が必要とされるのです。

今回の場合は展示作品の数だけページがあり、また印刷スケジュールは既に組まれた状態なので時間が押さないよう素早い判断も重要になります。重大案件で初の印刷立ち合いという、ましてやもともと色に関する判断が苦手な自分に遂行できるのか……一気に不安と責任感が押し寄せてきました。

*簡易校正 - 本印刷とは異なる印刷機、紙、インクで刷る色校正のこと。
*オフセット印刷 - 版を用いる印刷方法。

– いざ、立ち合いへ

私が立ち合いに行ったのは、5日間のうち4日間。
初日は上司と2人で立ち合い、印刷の流れや指示方法などを一通り教えてもらいつつ一緒に確認作業を行いました。

印刷オペレーターの方と何度かやりとりを重ね、色味の調整が完了し問題ないと判断できたら、その証明として校正紙に自分のサインを書きます。そこから一気に数千部と刷られるので、失敗は許されない作業。毎度、サインを書く時は緊張感に溢れていました。

印刷所で簡易校正と実際の刷り上がりを見比べている様子。
意外と、白やグレーなど無彩色の色味調整がとても難しい。

初の印刷立ち合いを4日間連続で、しかもほぼ一人でこなし、常に緊張感はありましたが、自分にとってとても良い経験を得られました。

立ち合いを重ねていく中で、どの色に何の調整をしてやればいいか少しずつコツを掴むことができ、最初は不安ばかりでしたがだんだんと印刷のおもしろさに気付くこともできました。ただそれは、これまでデザイナーとして「印刷」に対する関心が薄かったとも言えるので反省点でもあります。
今回の印刷立ち合いを通して、紙の選定や印刷方法までデザインの一要素として捉えることで表現方法はより広がるんだと、身をもって感じることができました。


まだ未完成の図録

この図録は、大阪中之島美術館のミュージアムショップdot to dot today』にて販売中です。

しかし、この図録はまだ未完成の状態です。
本展覧会は「デザインとアートの“重なりしろ”を見つけていく小さな旅」であり、自分だけの図録、すなわち旅のしおりを作ることで初めて完成するのです。十人十色なしおりが完成することを楽しみに、また嬉しく思います。


本展覧会の楽しみ方

私はゴールデンウィーク前に展覧会へ行ったのですが、老若男女・国籍問わず既に様々な方にお越しいただいているようで嬉しく思います。
この章では、まだ展覧会へ行けていない・行こうか迷っている、という人に向けて3つのポイントをご紹介!

– 友達と行くと倍楽しい!

本展覧会は入場前に*ハンドアウトが配られ、そこには「この作品はデザインか・
アートか」を記入できるスペースが設けられています。観賞後、自分なりの解釈を友人と共有し合えば、新しい視点や違った価値観が生まれるかもしれません。

会場には直感的に操作できる電子デバイスが設置してあり、そこでも展示作品をデザインか・アートかに振り分けることができます。こちらで入力したデータは会場の上映スペースにて統計が取られ、みんなの解釈をのぞき見できるような仕組みになっているので、もちろん一人でも楽しめます。

*ハンドアウト – 事前資料。展覧会で配布されるものには、展示作品がリスト化されまとめられているものが多い。

– 写真が撮れる!

美術館だからカメラは禁止……と思いきや、なんとお気に入りの作品を写真に残せちゃうんです。
実際に私は名和晃平氏のガラス作品を何カットも撮ってしまいました。

名和晃平氏の《PixCell-Sheep》。
遠くから見るのと近くで見るのとでは印象が変わる、おもしろい作品。

SNSにもアップ可能なので、あなたのお気に入り作品を教えてください。
※撮影不可の作品もあるので、会場の指示に従うこと。

– このハンドアウト、実は……

入場前に配られたハンドアウトには、謎の穴が2つ空いています。なんだか、どこかに挟んで保存できそうな……。

観賞後、あなたならどうしますか?



今回は図録に焦点を当ててお話しましたが、次回は他のグッズも紹介できればと思います。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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