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【映画と法律】『ゲットアウト』

 本作で登場した強制脳移植手術に関して,法的な観点(日本法に基づく)から思いついたことをつらつらと書いていきます。
 なお,微塵も実益のない検討です。

1 刑事
  主人公の彼女の家族(彼女家族)が行っていた強制脳移植手術(本件手術)に対して何らかの犯罪が成立することは一般人の感覚からも明らかと思われる。では,具体的にどのような罪が成立するのか。
 ⑴ 殺人罪
  結論からいうと,本件手術には殺人罪は成立しないと考えられる。
  その理由は,①強制脳移植手術を受けた対象者(本作におけるアフリカ系アメリカ人ら)の状態が「死亡」とはいえず,また②彼女家族にそもそも「対象者を死なせる意図」(殺意)がないためである。*なお,彼女家族に殺意がないことから,殺人未遂罪も成立しない。

  この結論に対しては,「他人の脳を移植され,体を奪われたようなものなのだから,死んだようなものじゃないか」という批判もあるかもしれない。しかし,原則的には「心臓死」(脳死を含まない。)が死亡の基準であり,本件手術を受けた対象者の心臓が動いている以上,対象者の術後の状態はやはり「死亡」とはいえない。また,死亡を意図しない手術である以上,彼女家族には殺意もないというほかない(むしろ,対象者の身体の生存が本件手術の前提であることからも殺意がないことは明らかである。)。

   
 ⑵ 傷害罪・傷害致死罪
  治療目的などの正当な目的もなく,意志に反して他人の体を手術を施した場合には傷害罪が成立する。本件手術にも当然に傷害罪が成立する。
  また,本作終盤では,体のコントロールを一時的に取り戻した対象者が自殺するというシーンがあったが,その場合には傷害罪ではなく傷害致死罪が成立しうる。
  本件手術は対象者の人格・尊厳・身体の自由を著しく害するものであり,対象者が将来を悲観して自殺することは当然に想定されることである。したがって,「本件手術を行ったために対象者が自殺してしまったのである」という因果関係があるして,対象者が自殺した場合には「傷害致死罪」が成立する可能性がある。

2 民事
 ⑴ 対象者による請求
  本件手術が不法行為であることは明らかである。したがって,本件手術の対象者が,彼女家族に対して当然に損害賠償請求をすることができる。
  *ただし,体を奪われたような状態の対象者が権利行使することは事実上不可能ではないかという懸念がある。
 ⑵ 親族による請求
  本件手術の結果,対象者の親族において対象者の治療費などの支出や精神的苦痛がある場合は,損害賠償請求が可能と考えられる。
  また,対象者が彼女家族に対して損害賠償請求をしないまま死亡した場合は,対象者の家族が対象者の(損害賠償請求する)権利を相続するものと考えられる。
 ⑶ 彼女家族側からの反論
  ⑴,⑵の請求が本件手術からかなり時間が経ってから行われた場合,彼女家族から「消滅時効」が完成しているとの反論がなされうる。
  この反論に対しては,「権利を行使できなかったのだから,時効期間はまだスタートしていない」,「対象者らによる権利行使を困難にする状況を作っていた彼女家族が消滅時効を主張するのは,権利の濫用であって許されない」といった再反論をすることになるものと考えられる。

3 結論
 こんな手術はダメゼッタイ。

 以上,しょうもない検討でした。

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