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安全配慮義務とは? 【令和2年5月版】

雇用契約に付随する義務として,使用者として労働者の生命,身体及び健康を危険から保護するように配慮すべき安全配慮義務を負い,それに違反した場合には,安全配慮義務違反の債務不履行とともに不法行為を構成するというべきである。

安全配慮義務の具体的内容として,労働時間を適切に管理し,労働時間,休憩時間,休日,休憩場所等について適正な労働条件を確保し,労働者の年齢,健康状態等に応じて従事する業務時間及び作業内容の軽減等適切な措置を採るべき義務を負っている。

第1 心理的負荷による精神障害の認定基準とは?

精神障害の業務起因性に関する判断基準として,精神医学,心理学,法律学等の専門家によって構成される専門検討会が平成23年11月8日に取りまとめた精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書を踏まえて厚生労働省が発出した平成23年12月26日付け基発1226号厚生労働省労働基準局長通達にて「心理的負荷による精神障害の認定基準」について定め、令和2年5月29日付け基発0529第1号厚生労働省労働基準局長通達にて、別表1「業務による心理的負荷評価表」が改められた。(令和2年6月施行)

第2 認定要件

①対象となる精神障害(国際疾病分類第10回修正版(以下ICD-10という。)第5章精神および行動の障害に定める障害)を発病していること,

②対象となる精神障害の発病前概ね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,

③業務以外の心理的負荷や個体側要因により対象となる精神障害を発病したとは認められないこと

これらのいずれの要件も満たす場合,当該精神障害を労働基準法施行規則別表第1の2 第9号に該当する業務上の疾病として取り扱うこととしている。

労働基準法施行規則別表第一の二
九 人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病

第3 認定要件に関する基本的な考え方

対象疾病の発病に至る原因の考え方は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、心理的負荷が非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さくても破綻が生ずるとする「ストレス-脆弱性理論」に依拠している。

このため、心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件としては、対象疾病の発病の有無、発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があることに加え、当該対象疾病の発病の前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められることを掲げている。

この場合の強い心理的負荷とは、精神障害を発病した労働者がその出来事及
び出来事後の状況が持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されるものであり、「同種の労働者」とは職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいう。

さらに、これらの要件が認められた場合であっても、明らかに業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したと認められる場合には、業務起因性が否定されるため、認定要件を上記第2のとおり定めた。

第4 認定要件の具体的判断

1.発病の有無等の判断
対象疾病の発病の有無、発病時期及び疾患名は、「ICD-10 精神および
行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン」(以下「診断ガイドライン」という。)に基づき、主治医の意見書や診療録等の関係資料、請求人や関係者からの聴取内容、その他の情報から得られた認定事実により、医学的に判断される。特に発病時期については特定が難しい場合があるが、そのような場合にもできる限り時期の範囲を絞り込んだ医学意見を求め判断する。

なお、強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病の兆候と理
解し得る言動があるものの、どの段階で診断基準を満たしたのかの特定が困難な場合には、出来事の後に発病したものと取り扱う。

精神障害の治療歴のない事案については、主治医意見や診療録等が得られず発病の有無の判断も困難となるが、この場合にはうつ病エピソードのように症状に周囲が気づきにくい精神障害もあることに留意しつつ関係者からの聴取内容等を医学的に慎重に検討し、診断ガイドラインに示されている診断基準を満たす事実が認められる場合又は種々の状況から診断基準を満たすと医学的に推定される場合には、当該疾患名の精神障害が発病したものとして取り扱う。

2.業務による心理的負荷の強度の判断
上記第2の認定要件のうち、2の「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」とは、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に業務による出来事があり、当該出来事及びその後の状況による心理的負荷が、客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であると認められることをいう。

このため、業務による心理的負荷の強度の判断に当たっては、精神障害発病前おおむね6か月の間に、対象疾病の発病に関与したと考えられる業務によるどのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握し、それらによる心理的負荷の強度はどの程度であるかについて、別表1「業務による心理的負荷評価表」(以下「別表1」という。)を指標として「強」、「中」、「弱」の三段階に区分する。

なお、別表1においては、業務による強い心理的負荷が認められるものを心理的負荷の総合評価が「強」と表記し、業務による強い心理的負荷が認められないものを「中」又は「弱」と表記している。「弱」は日常的に経験するものであって一般的に弱い心理的負荷しか認められないもの、「中」は経験の頻度は様々であって「弱」よりは心理的負荷があるものの強い心理的負荷とは認められないものをいう。

具体的には次のとおり判断し、総合評価が「強」と判断される場合には、上
記第2の②の認定要件を満たすものとする。

(1)「特別な出来事」に該当する出来事がある場合
発病前おおむね6か月の間に、別表1の「特別な出来事」に該当する業務による出来事が認められた場合には、心理的負荷の総合評価を「強」と判断する。

(2)「特別な出来事」に該当する出来事がない場合
「特別な出来事」に該当する出来事がない場合は、以下の手順により心理的負荷の総合評価を行い、「強」、「中」又は「弱」に評価する。

ア 「具体的出来事」への当てはめ
発病前おおむね6か月の間に認められた業務による出来事が、別表1の「具体的出来事」のどれに該当するかを判断する。ただし、実際の出来事が別表1の「具体的出来事」に合致しない場合には、どの「具体的出来事」に近いかを類推して評価する。
なお、別表1では、「具体的出来事」ごとにその平均的な心理的負荷の強度を、強い方から「Ⅲ」、「Ⅱ」、「Ⅰ」として示している。

イ 出来事ごとの心理的負荷の総合評価
(ア)該当する「具体的出来事」に示された具体例の内容に、認定した「出来事」や「出来事後の状況」についての事実関係が合致する場合には、その強度で評価する。
(イ)事実関係が具体例に合致しない場合には、「具体的出来事」ごとに示している「心理的負荷の総合評価の視点」及び「総合評価における共通事項」に基づき、具体例も参考としつつ個々の事案ごとに評価する。
なお、「心理的負荷の総合評価の視点」及び具体例は、次の考え方に基づいて示しており、この考え方は個々の事案の判断においても適用すべきものである。また、具体例はあくまでも例示であるので、具体例の「強」の欄で示したもの以外は「強」と判断しないというものではない。
a 類型①「事故や災害の体験」は、出来事自体の心理的負荷の強弱を特に重視した評価としている。
b 類型①以外の出来事については、「出来事」と「出来事後の状況」の両者を軽重の別なく評価しており、総合評価を「強」と判断するのは次のような場合である。
(a)出来事自体の心理的負荷が強く、その後に当該出来事に関する本人の対応を伴っている場合
(b)出来事自体の心理的負荷としては「中」程度であっても、その後に当該出来事に関する本人の特に困難な対応を伴っている場合
c 上記bのほか、いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、繰り返される出来事を一体のものとして評価し、また、「その継続する状況」は、心理的負荷が強まるものとしている。

(3)出来事が複数ある場合の全体評価
対象疾病の発病に関与する業務による出来事が複数ある場合の心理的負荷の程度は、次のように全体的に評価する。
ア 上記(1)及び(2)によりそれぞれの出来事について総合評価を行い、いずれかの出来事が「強」の評価となる場合は、業務による心理的負荷を「強」と判断する。
イ いずれの出来事でも単独では「強」の評価とならない場合には、それらの複数の出来事について、関連して生じているのか、関連なく生じているのかを判断した上で、
① 出来事が関連して生じている場合には、その全体を一つの出来事として評価することとし、原則として最初の出来事を「具体的出来事」として別表1に当てはめ、関連して生じた各出来事は出来事後の状況とみなす方法により、その全体評価を行う。
具体的には、「中」である出来事があり、それに関連する別の出来事(それ単独では「中」の評価)が生じた場合には、後発の出来事は先発の出来事の出来事後の状況とみなし、当該後発の出来事の内容、程度により「強」又は「中」として全体を評価する。
② 一つの出来事のほかに、それとは関連しない他の出来事が生じている場合には、主としてそれらの出来事の数、各出来事の内容(心理的負荷の強弱)、各出来事の時間的な近接の程度を元に、その全体的な心理的負荷を評価する。
具体的には、単独の出来事の心理的負荷が「中」である出来事が複数生じている場合には、全体評価は「中」又は「強」となる。また、「中」の出来事が一つあるほかには「弱」の出来事しかない場合には原則として全体評価も「中」であり、「弱」の出来事が複数生じている場合には原則として全体評価も「弱」となる。

(4)時間外労働時間数の評価
別表1には、時間外労働時間数(週40時間を超える労働時間数をいう。以下同じ。)を指標とする基準を次のとおり示しているので、長時間労働が認められる場合にはこれにより判断する。
なお、業務による強い心理的負荷は、長時間労働だけでなく、仕事の失敗、役割・地位の変化や対人関係等、様々な出来事及びその後の状況によっても生じることから、この時間外労働時間数の基準に至らない場合にも、時間数のみにとらわれることなく、上記(1)から(3)により心理的負荷の強度を適切に判断する。
ア 極度の長時間労働による評価
極度の長時間労働は、心身の極度の疲弊、消耗を来し、うつ病等の原因となることから、発病日から起算した直前の1か月間におおむね160時間を超える時間外労働を行った場合等には、当該極度の長時間労働に従事したことのみで心理的負荷の総合評価を「強」とする。
イ 長時間労働の「出来事」としての評価
長時間労働以外に特段の出来事が存在しない場合には、長時間労働それ自体を「出来事」とし、新たに設けた「1か月に80時間以上の時間外労働を行った(項目16)」という「具体的出来事」に当てはめて心理的負荷を評価する。
項目16の平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」であるが、発病日から起算した直前の2か月間に1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合等には、心理的負荷の総合評価を「強」とする。項目16では、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(項目15)」と異なり、労働時間数がそれ以前と比べて増加していることは必要な条件ではない。
なお、他の出来事がある場合には、時間外労働の状況は下記ウによる総合評価において評価されることから、原則として項目16では評価しない。
ただし、項目16で「強」と判断できる場合には、他に出来事が存在しても、この項目でも評価し、全体評価を「強」とする。
ウ 恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価
出来事に対処するために生じた長時間労働は、心身の疲労を増加させ、ストレス対応能力を低下させる要因となることや、長時間労働が続く中で発生した出来事の心理的負荷はより強くなることから、出来事自体の心理的負荷と恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)を関連させて総合評価を行う。
具体的には、「中」程度と判断される出来事の後に恒常的な長時間労働が認められる場合等には、心理的負荷の総合評価を「強」とする。
なお、出来事の前の恒常的な長時間労働の評価期間は、発病前おおむね6か月の間とする。

(5)出来事の評価の留意事項
業務による心理的負荷の評価に当たっては、次の点に留意する。
① 業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者が、その傷病によって生じた強い苦痛や社会復帰が困難な状況を原因として対象疾病を発病したと判断される場合には、当該苦痛等の原因となった傷病が生じた時期は発病の6か月よりも前であったとしても、発病前おおむね6か月の間に生じた苦痛等が、ときに強い心理的負荷となることにかんがみ、特に当該苦痛等を出来事(「(重度の)病気やケガをした(項目1)」)とみなすこと。
② いじめやセクシュアルハラスメントのように、出来事が繰り返されるものについては、発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為を評価の対象とすること。
③ 生死にかかわる業務上のケガをした、強姦に遭った等の特に強い心理的負荷となる出来事を体験した者は、その直後に無感覚等の心的まひや解離等の心理的反応が生じる場合があり、このため、医療機関への受診時期が当該出来事から6か月よりも後になることもある。その場合には、当該解離性の反応が生じた時期が発病時期となるため、当該発病時期の前おおむね6か月の間の出来事を評価すること。
④ 本人が主張する出来事の発生時期は発病の6か月より前である場合であっても、発病前おおむね6か月の間における出来事の有無等についても調査し、例えば当該期間における業務内容の変化や新たな業務指示等が認められるときは、これを出来事として発病前おおむね6か月の間の心理的負荷を評価すること。

3.業務以外の心理的負荷及び個体側要因の判断
上記第2の認定要件のうち、③の「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」とは、次の①又は②の場合をいう。
① 業務以外の心理的負荷及び個体側要因が認められない場合
② 業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められるものの、業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合

(1)業務以外の心理的負荷の判断
ア 業務以外の心理的負荷の強度については、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、対象疾病の発病に関与したと考えられる業務以外の出来事の有無を確認し、出来事が一つ以上確認できた場合は、それらの出来事の心理的負荷の強度について、別表2「業務以外の心理的負荷評価表」を指標として、心理的負荷の強度を「Ⅲ」、「Ⅱ」又は「Ⅰ」に区分する。
イ 出来事が確認できなかった場合には、上記①に該当するものと取り扱う。
ウ 強度が「Ⅱ」又は「Ⅰ」の出来事しか認められない場合は、原則として上記②に該当するものと取り扱う。
エ 「Ⅲ」に該当する業務以外の出来事のうち心理的負荷が特に強いものがある場合や、「Ⅲ」に該当する業務以外の出来事が複数ある場合等については、それらの内容等を詳細に調査の上、それが発病の原因であると判断することの医学的な妥当性を慎重に検討して、上記②に該当するか否かを判断する。

(2)個体側要因の評価
本人の個体側要因については、その有無とその内容について確認し、個体側要因の存在が確認できた場合には、それが発病の原因であると判断することの医学的な妥当性を慎重に検討して、上記②に該当するか否かを判断する。
業務による強い心理的負荷が認められる事案であって個体側要因によって発病したことが医学的に見て明らかな場合としては、例えば、就業年齢前の若年期から精神障害の発病と寛解を繰り返しており、請求に係る精神障害がその一連の病態である場合や、重度のアルコール依存状況がある場合等がある。

第5 精神障害の悪化の業務起因性

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