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【対談】武田邦彦/科学的思考で読み解く環境問題の大ウソ

この記事では、月刊『ザ・フナイ』vol.203(2024年9月号)に掲載されている、武田邦彦氏と舩井勝仁氏による巻頭対談の一部を抜粋して公開いたします。



武田 邦彦(たけだ くにひこ)
1943年東京都生まれ。工学博士。東京大学教養学部基礎科学科卒業。その後、旭化成ウラン濃縮研究所所長、芝浦工業大学工学部教授、名古屋大学大学院教授を経て、中部大学教授。世界で初めて化学法によるウラン濃縮に成功し日本原子力学会平和利用特賞を受賞、内閣府原子力委員会および安全委員会専門委員などを歴任。原子力、環境問題をめぐる発言で注目されている。また高校教科書『新編現代文』(第一学習社)にエッセイ「愛用品の五原則」が掲載されなど文系の分野においても活躍中。

著書に『幸せになるためのサイエンス脳のつくり方』(ワニブックス)、『これからの日本に必要な「絡合力」』(ビオ・マガジン)、『武器としての理系思考』『「新型コロナ」「EV・脱炭素」「SDGs」の大ウソ』(ビジネス社)など多数。

舩井 勝仁 (ふない かつひと)
本誌主幹。1964年、大阪府生まれ。1988年、㈱船井総合研究所入社。1998年、同社常務取締役。2008年、㈱船井本社の社長に就任、「ミロクの世」を創る勉強会「にんげんクラブ」を中心に活動を続ける。2014年1月19日、父、舩井幸雄が永眠。父の志を継いで本誌の主幹となる。著書多数。

科学的思考で読み解く
環境問題の大ウソ


舩井 工学博士で、原子力や環境問題に関するご提言に定評のある武田邦彦先生にお話をうかがいます。大変失礼ながら、実は私は、武田先生はよくいらっしゃるタレント(が本業)の先生だろうと思っていました。きちんとご著書を拝読したら、武田先生のおっしゃっていることは、イデオロギーに固まらず、科学的根拠をもとにしておられるから極めてまともで、とても失礼ですが大変驚いてしまいました。さまざまな分野についてお詳しいのですね。

武田 勉強が好きなもので、いろいろと学ぶうち詳しくなりました。一応物理と原子力が専門ということになってはいますが、今や専門はあってないようなものです(笑)。ただ、考えが独特なので、驚かれるかもしれません。世間では奇人変人扱いですからね(笑)。

舩井 武田先生はご著書がものすごく多いですね。だいたい何冊くらい書いておられるのですか。

武田 自分でも数えきれないくらい書きました。原発の事故があった2011年には、1年で19冊出しました。あの頃は原発について、ビジネスパーソンにはビジネスパーソン向け、主婦には主婦向け、学生には学生向け、と世代や立場に応じてわかりやすく解説するための本が必要でした。それで求めに応じるまま書いていたら19冊にもなってしまった。

だけど当時、本当のことを伝えている人があまりにもいなかった。専門家という肩書の人はいくらも出てきましたが、そんな人たちも地方の自治体も、「危ない」「怖い」と言うばかりで、具体的なことは答えてくれない。ただただ人々の不安をあおるばかりでした。日本人、特に科学関係の人間の誠意がなくなった時代だと痛感させられましたよ。

舩井 最近、放射能汚染水の海洋投棄の問題に中国がかみついていました。この問題はどれくらい大きなものなのでしょうか。

武田 重要な問題です。まず結論として、放射線被曝ひばくは結局どの程度健康に影響があるかまだわかっていないのです。よほどわかりやすい甲状腺こうじょうせんがんなどだけは明らかに被曝のせいだとわかっても、他は直接的な因果関係はわからない。一つには、反応が非常に複雑で、個人によって発症がものすごく違うという基本的な問題点があること。

それに、どこまでを安全とするのかという国際的なルールもあいまいです。まず、本人が安全であるか、これは当然そうでしょう。それから、母親に遺伝子異常が生じたとして、それが子どもに遺伝するかどうかの計算と、孫まで伝わるかの計算のふたつあります。国際的には一応は孫まで安全と計算できてはじめて「安全」である、と線を引いています。

日本の法律はほぼそれに準拠しています。その視点で見ると、海洋投棄は完全に法律違反です。「薄めて流す」というのは、1980年ごろから禁止されています。薄めればOKになるのなら、なんでも流せてしまいますから。

舩井 実質的に流す量は変わらないのに、海水をくみ上げて薄めてから流せばいいだけですからね。

武田 そうです。高度成長期のころ、東京湾岸の各工場で出た廃水を薄めて流す業者が続出し、当たり前ですがそれによって東京湾がどんどん汚れてきた。工業廃水だけでなく、ちょっと汚い話ですが、汚穢おわい船、正式には「し尿処理船」によって、バキュームカーで集めた糞尿ふんにょうは海洋沖に捨てられていました。人口が増えるのに比例して当然汚穢の量も増える。それが海流によって、海岸に流れ着いて大変なことになってきた。最終的に、平成14年に海洋投棄、捨てるという行為そのものが全面禁止されました。

だから、薄めようが何をしようが捨てること自体、本来ダメなのです。薄めれば流してよい、というところまで戻ってしまえば、解釈によっては海洋投棄が何でもありになってしまいます。議論がややこしくなっているのは、苦言を呈しているのが中国であるために、政治的な憎しみであったり民族性であったりといったものが、科学的な議論に割り込んできているせいです。科学者が政治家と同じことを言う必要はまったくないし、むしろそんなことをしてはいけないのです。私もずっとテレビ番組に出演してきましたが、テレビは科学者に政治的や社会的な配慮を要求するのです。

科学的対応が未来を分けた公害対策

舩井 環境汚染とそれに対する対応に関しては、いつの時代も頭の痛い問題ですね。先生の本を読んで得た知識ですが、かつて「四日市ぜんそく」の三重県四日市市は操業を続けることによって、公害の出ない技術を開発し、今は四日市に行っても空気は非常にきれいですし、生産量も大幅に上がっています。一方「水俣病みなまたびょう」の熊本県の水俣は、操業をやめて、公害被害に遭った方への補償・賠償に終始し、技術改善は行わなかった。工業の存在自体が悪であるかのように扱って、衰退しました。

武田 科学者として第一にやらなくてはいけないことは、その病気を止めることです。そうしたらそれに伴って原因もわかる。それなのに、これはあらゆることについて言えることですが、責任追及が最優先になってしまうと身動きが取れなくなる。もちろん責任の所在を明らかにするのも大事なことではありますが、そこに本質があるわけではない。損害に対して金を出したからといって病気の人が治るわけでもありません。

舩井 日本のいいところは、技術力です。それを磨いて、根本的問題を解決する方向に向かったときはうまくいくのですね。それが、責任の追及を前面に出して、政府や企業に対してただ批判に向かってしまうときは、うまくいかない。

武田 そうですね。実は、科学的に言えば、厳密には水俣病の原因が水銀だったのかどうかすらまだわかっていないのです。途中で賠償問題が最重要になってしまい、うやむやになって、原因を最後まで詰めなかった。鹿児島大学などでも、水銀ではなかったのではないかというデータを出していた先生がいましたが、そういう人は、助教から教授に上がれなくなった。

そうやって、研究自体が実質禁止されてしまいました。そもそも、患者が出たときに厚生労働省の研究班が調査し、毒物の候補として挙げた4種の物質の中には、水銀は入っていなかったのです。だから、水俣病に関してはいろいろと問題が多い。途中で社会がかき回したために、科学的に見た真実がわからなくなってしまったのです。

舩井 一旦マスコミが空気を作ってしまうと、冷静な議論ができなくなってしまう問題は大きく根深いです。これは、日本特有のものなのでしょうか。

武田 どこもそうですよ。でも、報道・学問・医療がビジネス化しすぎているのは強く感じます。学者というものは本来、自分の職業の倫理を守り、真実を守る心がなくては、ゆがんでしまう。報道も、視聴率第一主義ではなく、真実を伝えることが第一であるべきはずのものです。私が某番組を降板させられましたとき、テレビ局の役員が来て「武田先生に問題にならないような言い方を伝授すればよかったですね」と言ってきた。私はあくまで本当のことしか言わないから、めてしまいました。

舩井 1970年代くらいの報道機関はかなり左翼寄りで、政府批判をするという役割が一応ありました。欧米でもそうですが、かつてのメディアというのは政府に対して警鐘を鳴らす役割があったのだと思います。でも、今の日本のメディアはそれも果たしていません。脅して売るマッチポンプになっている面も大いにあると思います。マーケティングにおいても、恐怖ビジネスは売れることが顕著にわかっています。

武田 恐怖ビジネスは、一種の健康被害をもたらす仕事です。毎日が暗くなれば、病気の罹患率りかんりつも上がる。だから、本当に問題がなければ「問題ない」とちゃんと言うことが正しいのです。だからこそ放射線の障害に関することなどは非常に難しい問題で、素人がちょっと聞きかじった程度の分析でわかる問題ではない。2011年当時「世界には放射線量がもともと高い地域がある」といった議論もありました。しかしそういう地域は、平均寿命が短かったり、歴史的に放射線に強い人の数が多かったりと前提条件が異なるので、一概に比較できるものではありません。

舩井 放射能に関してはわかっていないこともまだまだ多いのですね。ある程度までは、放射線も免疫力をつけるためにはプラスに作用する側面もあるけど、閾値いきちを超えてしまうと駄目なものと認識しています。

武田 そうですね。原子力発電の一番の問題は、被曝の本当の害がわからないことと地震に弱いことです。発電方法としては非常に優れている。「武田は原子力の研究をしているのに原発反対派なのか」と言われますが、そういうことではないのです。性能はいいけれど力が及ばないまま、フライングで実装されてしまったのがよくない。

舩井 震度6でダメになってしまうのは日本においては致命的ですね。いまの木造住宅の耐震基準の方がよほど高いなんて揶揄やゆされています。どうも日本は地震の活動期に入ったような気がしていて、前世紀と比べても、地震の頻度も震度も増えていると思います。原発設置場所の論争のときも、活断層があるから安全だとか安全じゃないとかといった議論がありましたが、あれはどうだったのでしょう。

武田 日本の地盤は全面が活断層なので、活断層云々うんぬんで判断するのはおかしいのです。静岡県御前崎市の浜岡原発なんかは、東海地震の深奥地ですよ。どうしてあんなところに立っているのかと言えば、お金の問題だけです。原発立地ともなれば、地域に山のようにお金が入る。かと言って、反対派も全然だめです。科学的根拠に基づいて反対しているわけではなく、ただイデオロギーで反対だと言っているだけ。反対派の集会に何度か行きましたが、どういう理由で反対しているのか聞いても、全部無茶苦茶な理由でした。ただ自己満足しているだけで、根拠もなにもない。

さらに原発には、社会的な問題もあります。原子力関係の施設の責任者は、一般の雇われ人がやっているのです。だから、自己保身のためにうそをつく。私も自分が責任者をやっているときに選択を迫られたことがあります。私の研究所で、職員がウランのタンクの中に落ちて腰をひどく打った。選択肢は二つ、タクシーを呼ぶか救急車を呼ぶかです。救急車を呼ぶと、迅速な治療を受けられますが、NHKと朝日新聞が来て大々的に事故を書き立ててスキャンダルにするから、そこで昇進の道は絶たれます。

そういうときのために、普段からタクシー会社とは仲良くしているんです。私はこういう性格だから、すぐに救急車を呼びましたが、隠蔽いんぺいする人もたくさんいます。どうしても天秤てんびんにかけてしまう気持ちもわかります。それまで一生懸命ごまをすって、昼も夜もなく必死に働いて、やっと所長にまでなったのに、従業員が一人うっかりしただけで人生が終わりになるんですから。

これを防ぐには、貴族を配属すべきですね。フランスは、原子力関係施設は貴族が運営しています。十分な生活費と土地と屋敷を与えられていれば、多少の失敗では揺らぎません。フランスの原発は、街の中に建っています。街中に原発を建てるには、長い歴史を通しての国民の信頼が必要です。だからこそ責任の取れる貴族は適任なのです。まあこれもフランスは地震がないからできることであって、今の日本の原発の耐震基準ではそもそも無理ですが。

▶日本独自の社会システム
▶人は比較でしか知覚できない
▶世界で唯一の利他的文化、日本
▶SDGsの嘘
▶核武装の真実
 へ続く……

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『武器としての理系思考』
[著]武田邦彦 / 2021年3月2日刊行
マスコミ、官僚、政治家、専門家……「既得権益者」のウソを看破せよ! 新型コロナから先の大戦まで日本の諸問題を徹底検証——【科学者の視点、理的な思考力】が身につく!

『「新型コロナ」
「EV・脱炭素」「SDGs」の大ウソ』

[著]武田邦彦 / 2022年4月1日刊行
日本人よ目を覚ませ!テレビや専門家たちが仕掛けた、コロナ騒動やSDGsの罠を工学博士の視点で一刀両断!【論理的な思考】=【国を守る力】

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知られざる日本の技術とざんねんな技術!古来、日本人同士はテレパシーで文明を築いていた!!「みんなで、ひとつの大きなことを成し遂げる」日本および日本人とは何か?

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