【宇宙からの一見さん】 #逆噴射小説大賞2019
「おい、徳さん、ニュースみたかい?」
金物屋が転がり込んできた
「あの真っ黒な雲、なんだいあれ」
「不気味な雲だね、ありゃ、雲じゃないって話だろ?みたよ、ニュース。なんでも宇宙からなんか来たって」
大きく黒い入道雲状のものが、この台東区に向かっている。世界中が固唾を飲んで見守る中、徳さんは朝仕入れてきた小魚をピシピシと捌き、夜の営業に備えている
「やばいってさ、小肌やってる場合じゃないだろうよ、逃げなきゃ」
「バッキャロウめ、今やんなきゃどんどん弱っちまうだろう、こいつのいいのを仕込まなきゃ営業になんねぇの。逃げたきゃお前逃げとけよ」
徳さんには確信がある。長年の経験から、店に入る客、通り過ぎる人、その区別は簡単につく。あの宇宙船はこの店に来る。その確信がある
雲がもうすぐ近くにきている
「徳さんわりぃ、もうダメだ、そこまできてる、うわっ、雲、割れた!あれが円盤かい?」
「おでましさぁ、宇宙人さま、めんどくせぇ登場だ」
金物屋は自転車をギチャギチャ鳴らしながら逃げていった。町はパニックだ
「へんっ」
煙、焦げる匂い、機械音、それとともに円盤は店の前に着陸し、扉が開く
「派手な客ってのは、一見じゃ嫌われるもんさね」
風が落ち着き、円盤の中からスーツに身を包んだ男が現れた
「お久しぶりでございます」
「おうよ、誰だいあんた」
「やはり記憶にはありませんか。突然の訪問、お許しください」
「もう少し静かに来てくんねぇかな。外見てみろ、世界中のカメラがうちの店囲んでるよ、客層変わりそうだぜ、なぁ、細々と地元でやってたのによ」
「失礼いたしました」
「なんの用?寿司くいにきたってわけじゃあるめぇ、まだ開店時間じゃないんだ」
「王が、あなたのお父様がお呼びです。」
「はぁ?うちの親父なら3年前ころっと逝っちまったよ」
「あなたの、本当のお父様が、お呼びです」
「とんだトンパチやろうが来たもんだ、小肌仕込んだらな、話はそれからだ」
(続く)