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DXとマーケティングその57:タッチポイントのモデル化

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングとの関係を考えてくシリーズの57回目です。

ここ数回は、最近発売された『コトラーのマーケティング5.0』におけるDXとその他のDX書籍での方法論とがどのように関わり合うのかを分析しています。

DXが全社的な取り組みであるとした場合、その実行のプロセスには、整合性や一貫性が求められます。各DXの方法論において、マーケティング5.0がどのように関係するのかを分析することで、それら方法論にマーケティング5.0の考えを組み込めるかどうかを評価でき、その評価に基づき、適切な方法論を作りだせる可能性があります。

分析の最終的なアウトプットは、各方法論をベースに、マーケティング5.0の要素を組み込んだ新たな方法論となります。以下は『DX実行戦略』の書籍の場合です。

今回のテーマでの連載の議論の流れとしては以下を考えています。
1.マーケティング5.0におけるDXを確認する(第40回の内容)
2.これまでの連載で扱っていたDX関連書籍である『DX実行戦略』『デザインド・フォー・デジタル』『DXナビゲーター』との関係を分析していくにあたり、準備を行う(第41回の内容)。
3.各DX関連書籍での「DXの定義」と比較を行い、共通点や異なる点を明らかにする(第42回の内容)。
 3.1.比較を行うにあたり、枠組みを定義する(今回の内容)。
4.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0でのDX」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。
5.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。

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これまでの記事

これまでの連載記事に関しては以下の記事から確認できます。

これまでの話:マーケティング5.0におけるDX

マーケティング5.0に関しての概要と、マーケティング5.0でのDXの位置付けに関しては過去の記事を参照してください。

これまでの話:比較のための枠組み

分析をしていくにあたり、マーケティング5.0の領域とDXの領域をつなぐ独自枠組みを定義しました。詳細は過去の記事を参照してください。

議論の地図

議論の流れで迷子になると思いますので(私もなっています)、どのような流れで議論を進めていこうとしているのかをここに整理しておきます。

マーケティング5.0の領域とDXの領域をつなげるあたり、共通の枠組みが必要だと考えました(過去の記事)。以下の図は、この枠組みにおいて、それぞれの領域でのDXの定義が、この枠組みの要素とどのように関係するのかを示したものです。DXの領域では『DX実行戦略』の定義をここでは使っています。

DXの領域では、定義上は、顧客と関係するようなものとはなっていませんが、実際は、顧客と無関係ではないと考えられます。というのも、ビジネスモデルが有効かどうかは顧客によって決まると考えられるためです。しかし、どのような顧客に対してなのか、という点で、DXの領域がどのように顧客を捉えているのかは分析しておく必要があると考えました。

したがって、デジタル対応顧客(デジタル化した顧客)とその顧客のニーズの定義がまずは必要と考えました。とっかかりとしては、『マーケティング5.0』での顧客の捉え方をベースにしています。

やろうとしていることは、以下となります。
1.デジタル化した顧客(デジタル対応顧客)とはどのような顧客なのかを定義する
2.その顧客のニーズとなるものを定義する
3.『DX実行戦略』といったDX書籍において、デジタル化した顧客がどのように扱われているのかを分析する

この分析結果は、最終的には『マーケティング5.0』と『DX実行戦略』の統合を検討する際に使われます。両領域での顧客の捉え方の違いが、整合性や一貫性を考え上で影響する可能性があるためです。

『マーケティング5.0』での記述をもとに、デジタル化した顧客かどうかを区別するための3つの基準を定義しました。

3つの基準とは以下です。
・どのような行動をするかどうかの基準
・どのような評価をするかどうかの基準
・行動するかどうかをどのように判断するのかの基準

ただしこれら3つの基準で十分なのかはわかりません。結局の所、デジタル化した顧客とは何であるかの定義が不明確なためです。

そこで、まずは、デジタル化した顧客とは何であるかを議論するための基盤となる枠組みを考えました。基本的には、3つの基準を含むような枠組みとして考えました。

この枠組みだけでは、デジタル化した顧客の定義をしたことにはなりませんが、この枠組みの要素を用いることで、デジタル化した顧客の定義を議論しやすくなると考えられます。

今回の話

これまでで、以下の図に示すような、デジタル対応顧客(デジタル化した顧客)を表現するための行動体験モデルを議論してきました。

図の左下の「デジタル行動」や「デジタル体験」がある顧客は、「デジタル対応顧客」と呼ぶとして考えてみよう、という議論になります。

今回は、上記のモデルをもとにして、デジタルの視点からタッチポイントを考えてみます。というのも、これまでに議論してきたように、デジタル顧客かどうかを判別するための基準の一つとして、タッチポイントが関わりそうだからです。

これまでの記事では『マーケティング5.0』での議論を参考に、デジタル顧客かどうかを判別するための基準を例として使い、上記のモデルの表現力を確認してきました。以下は、特に行動と体験に関わるとして考えている基準です。

1.顧客がデジタルに精通しているかどうか。
2.顧客がデジタルプラットフォームで取引しているかどうか。
3.顧客が製品・サービスを消費または使用するときデジタル・インタフェースで接しているかどうか。
4.顧客が行うカスタマー・ジャーニーが、全部または一部がオンラインで行われているかどうか。
5.顧客が、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ強化されたタッチポイントを体験しているかどうか。

そして、これらを「デジタル行動」と「デジタル体験」という上記のモデル要素で表現できるかを確かめてきました。しかし、4つ目と5つ目の項目は、他と少し抽象度が違うように思えます。

これまでの数回の記事では、4つ目の項目のカスタマージャーニーの意味合いを、行動体験モデルをもとにして考えました。

今回は、5つ目のタッチポイントである以下を考えます。
・顧客が、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ強化されたタッチポイントを体験しているかどうか。

明確にするポイントは以下となります。
・タッチポイントとは何か
・デジタル・テクノロジーによって置き換えられ強化されたタッチポイントとは何か
・タッチポイントを体験するとは何か

タッチポイント

まずは、タッチポイント(顧客との接点)とは何かを議論します。

『マーケティング5.0』では、タッチポイントの種類として次のようなものがあげられています。

CXは顧客が製品に触れる可能性のあるすべてのタッチポイント──ブランド・コミュニケーション、小売体験、販売員とのインタラクション、製品の使用、顧客サービス、他の顧客との会話──を包含している。

『マーケティング5.0』, pp.187-188

ここであげられているタッチポイントは以下です。
・ブランド・コミュニケーション
・小売体験
・販売員とのインタラクション
・製品の使用
・顧客サービス
・他の顧客との会話

『マーケティング5.0』では、タッチポイントの具体的な定義は恐らくされていないように見えましたが、『マーケティング4.0』では次のように定義されています。

タッチポイントは、「カスタマー・ジャーニー全体で顧客がブランドに関して行う、ブランドとの、また他の顧客との、オンラインおよびオフラインでの直接的、間接的インタラクション」と定義される。タッチポイントは、顧客が5Aのそれぞれの段階にいるときにとる実際の行動として表現される。たとえば、認知段階の顧客タッチポイントには、「製品について知る」があり、行動段階の顧客タッチポイントには、「製品を買う」「その製品を使う」「その製品を修理する」などがある。

『マーケティング4.0』, pp.216-217

ここではタッチポイントとは「カスタマー・ジャーニー全体で顧客がブランドに関して行う、ブランドとの、また他の顧客との、オンラインおよびオフラインでの直接的、間接的インタラクション」と定義されています。

この定義から特定できる要素となるものは以下です。
・カスタマージャーニー
・顧客
・ブランド
・他の顧客
・インタラクション
 ・オンライン、オフライン
 ・直接的、間接的

素直に読むと、タッチポイントは、インタラクションの一種であると呼べそうです。日本語では、相互作用ですが、片方からの働きかけに対し、その働きがされた側が反応するという意味合いかと思われます。

また、上記では、タッチポイントは、「実際の行動」ともされています。たとえば、「製品を買う」が挙げられています。ただ、これはインタラクションなのかどうかは、解釈が簡単ではないかもしれません。

ここでは、インタラクションの一種として行動があり、行動の一種としてタッチポイントがあると考えました。

概念的には、行動ではないインタラクションや、タッチポイントではない行動があるかもしれません。また、インタラクションは、行動の一種かもしれません。

なお、タッチポイントは、ブランドとのやり取りが発生する場所やチャネルのようなニュアンスで使われることがあります。たとえば、『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書』では、タッチポイントと似た言葉として「コンタクトポイント」が使われています。

コンタクトポイントとは:ターゲットとの接点のこと。コンタクトポイントには、商品そのもの、メディア、ネット、広告、店頭、社員、アフターサービスなどさまざまなものがある。

『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書』, p.291

これらのコンタクトポイントは、カスタマージャーニーの構成要素の一つとして描かれます。たとえば、同書では、あるカスタマージャーニーで出現するコンタクトポイントとして以下が出てきています。
<カスタマージャーニー例1>
・TVCM
・Instagram
・LINE@から通知が来る
・駅の看板広告
・電車広告
・トレインチャンネル
・音楽ストリーミングサービス内
・キュレーションサイト
・駅の看板広告
・コンビニの店頭
・ラジオ
・雑訴

<カスタマージャーニー例2>
・SNS
・Instagram
・口コミサイト
・キュレーションサイト
・ブランドサイト
・店頭
・店舗スタッフ
・店頭ポスター
・雑誌
・会員アプリ

これらのコンタクトポイントは次のようなプロセスで特定されたものです。
「ペルソナの行動(アクション)や感情が発生したときに考え得る、商品やブランドとの接点(コンタクトポイント)を書き出していく。」

つまり、コンタクトポイントは、行動自体を表すものではないと言えます。タッチポイントは、行動やインタラクションを表すものでした。

実際、タッチポイントをどのように捉えるのかに関しては、様々な視点があるようです[1]。
・タッチポイントとみなせる例は、ホテルのウェブサイト、ホテルのチェックイン、ホテルの評価サイトなど。
・タッチポイントとは、顧客とサービス提供者の間の相互作用やコミュニケーションのインスタンスである。
・タッチポイントとは、「顧客と組織との接触の瞬間」である。
・タッチポイントとは、相互作用やコミュニケーションを媒介する場所やチャネルである。たとえば、物理的な建物、ウェブサイト、プリントアウト、セルフサービス機、カスタマーアシスタント。

これらの視点をもとにすると、コンタクトポイントは、恐らくチャネルとして扱っていると思われます。

『マーケティング4.0』では、実際、タッチポイントとチャネルとを区別して議論しています。

チャネルはブランドが顧客とインタラクションをするために使うオンラインまたはオフラインの媒体手段であり、一般に、コミュニケーション・チャネルと販売チャネルの二種類のチャネルがある。コミュニケーション・チャネルには、テレビ、印刷メディア、ソーシャル・メディア、コンテンツ・ウェブサイト、コンタクト・センターなど、情報やコンテンツの伝達を容易にするあらゆるチャネルが含まれる。販売チャネルには、小売店、セールス部隊、eコマースのウェブサイト、電話販売の代理店、展示販売会など、取引を容易にするあらゆるチャネルが含まれる。ときには、コミュニケーション・チャネルと販売チャネルが、役割の明確な線引がなされないまま密接にリンクしていることもある。

『マーケティング4.0』, p.217

ここでは、「チャネルはブランドが顧客とインタラクションをするために使うオンラインまたはオフラインの媒体手段」であるとあります。タッチポイントは、インタラクションであるため、「チャネルはブランドが顧客と接点となるために使う」を言えるかもしれません。表現としては、微妙かもしれません。

チャネルの要素を、前述の図に追加しました。ここでは、コミュニケーションチャネル、販売チャネルそれぞれにオンラインとオフラインがあると仮定しています。

タッチポイントとチャネルの関係に関しては、次のような記述があります。

ひとつのタッチポイントが、複数のチャネルと結びついていることも考えられる。たとえば、印刷広告、オンライン・バナー広告、コンタクト・センター、セールスパーソンなど、顧客はさまざまな情報源から製品について知るかもしれない。また、ひとつのチャネルがさまざまなタッチポイントにサービスを提供することも考えられる。たとえば、コンタクト・センターは、顧客が製品ついて知るチャネルになったり、顧客が発注するチャネルになったりする。このようにタッチポイントの役割やチャネルが重複していることは、顧客が確実に、最初から最後までシームレスで一貫性のある経験をするうえで重要である。

『マーケティング4.0』, pp.217-220

『マーケティング4.0』では、次の図のように、5Aのカスタマージャーニーにマッピングする形で、タッチポイントとチャネルの具体例が示されています。ここでは自動車の購入をもとにされています。

『マーケティング4.0』, 図10-1 をもとに作成,pp.218-219

認知
<タッチポイント>
 ・広告でその自動車について知る
 <チャネル:コミュニケーション>
  ・バナー広告
  ・印刷広告

訴求
<タッチポイント>
 ・広告のCTA(行動喚起)をフォローアップする
 <チャネル:コミュニケーション>
  ・バナー広告
  ・印刷広告のQRコード
 <チャネル:販売>
  ・コンタクトセンター(※認知の間違いか?)

調査
<タッチポイント>
 ・別のブランド/モデルについて情報を得ようとする
 <チャネル:コミュニケーション>
 ・コンテンツサイト

・試乗の予定を組む
・試乗する
 <チャネル:販売>
  ・コンタクトセンター
  ・ショールームのセールスパーソン

行動
<タッチポイント>
 ・
自動車を先行予約する
 ・代金を支払う
 ・自動車を使う
 ・自動車を修理する
 <チャネル:販売>
  ・ショールーム
  ・修理工場
  ・販売員

推奨
<タッチポイント>
・その自動車を推奨する
 <チャネル:コミュニケーション>
  ・ソーシャルメディア

顧客体験モデルによる表現

では、タッチポイントを、顧客体験モデルの要素で表現できるかを確認していきます。以下に、顧客体験モデルを示します。

顧客体験モデルにおける「行動」要素(図の左下)の定義は以下です。
・行動:何らかの行動。たとえば製品を使用する、カスタマーサポートに電話をかけるなど。どのような行動をとるのかは、「動機」や「評価結果」の影響を受ける。

タッチポイントは、行動として表現されるため、この「行動」の要素で表現できそうです。前述の自動車の購入でのタッチポイントとなる行動は以下となります。
・広告でその自動車について知る
・広告のCTA(行動喚起)をフォローアップする
・別のブランド/モデルについて情報を得ようとする
・試乗の予定を組む
・試乗する
自動車を先行予約する
・代金を支払う
・自動車を使う
・自動車を修理する
・その自動車を推奨する

特に違和感のある要素はなさそうです。

ただし、認知段階における「知る」に関しては、顧客体験モデルでは、「知らされる」という要素で表現するとして、これまでの記事で議論しました。

続いて、チャネルを考えてみます。次のチャネルが具体例として挙げられていました。
<チャネル:コミュニケーション>
・バナー広告
・印刷広告
・印刷広告のQRコード 
・コンテンツサイト
・ソーシャルメディア

<チャネル:販売>
・コンタクトセンター
・ショールームのセールスパーソン
・ショールーム
・修理工場
・販売員

チャネルとは「ブランドが顧客とインタラクションをするために使うオンラインまたはオフラインの媒体手段」でした。行動との関係は、「~で」「~を使って」「~により」というものに対応するものと言えそうです。

たとえば以下のように表せると考えられます。
バナー広告により、その自動車について知る
コンテンツサイトを使って、別のブランド/モデルについて情報を得ようとする
修理工場で車を修理する
ソーシャルメディアでその車を推奨する

チャネルを踏まえた表現は、行動が行われる文脈や状況をより具体的に表現するといってもいいかもしれません。

では、「行動」要素とチャネルとをどのように関係づけて表現すれば良いでしょうか。

顧客体験モデルでは、「行動」要素の構成要素を定義していませんが、「行動」と「チャネル」の要素から構成されるとして、表現できるかもしれません。

参考として、「デジタル行動」に関しては、過去の記事で次の要素で構成されるとして議論しました。
 ・デジタルと関係がある物: スマホアプリ、ウェブアプリ
 ・それ関わりのある何らかの行動: 購入、入金、出金、振込、振替、送金、会話、学習、動画視聴、相談

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「デジタルと関係がある物」の要素が、チャネルに対応するのかもしれません。これらに関する点は、次回、デジタル化されたタッチポイントを議論する際に考察します。

まとめ

顧客がどのような手段による行動によってブランドと接点を持つ(タッチポイント)のかは、その顧客がデジタル化された顧客なのかどうかを判断するための基準の一つとなります。デジタルによる手段でブランドと接する顧客は、デジタル化された顧客と判断できそうです。

今回は、顧客とブランドとのタッチポイントを、行動体験モデルの要素で表現できるかどうかを確認しました。

結果としては、タッチポイントを、行動体験モデルにおける「行動」の要素により表現できそうでした。次回は、デジタル化されたタッチポイントの視点で議論します。続きはこちら


参考資料

[1] Asbjørn, Følstad, Knut, Kvale. Customer journeys: a systematic literature review, 2018

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