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特別企画③:秋の夜長に見たい クリント・イーストウッド出演映画3選『ダーティハリー』『許されざる者』『クライ・マッチョ』



祝93歳!ハリウッドの伝説 クリント・イーストウッド


クリント・イーストウッドは、私の好きな俳優であり、好きな映画監督です。

未来の映画史には20~21世紀で最も偉大なフィルムメーカーとして、クリント・イーストウッドの名が記憶されることになると思います。

なにしろ、『ダーティハリー』と『ガントレット』で刑事映画のスタイルを作り、『ペイルライダー』と『許されざる者』で西部劇のスタイルを作り、『ハートブレーク・リッジ』と『父親たちの星条旗』で戦争映画のスタイルを作ったのだから。
こられの作品は、その後に登場する映画に多大な影響を与えた古典といえるでしょう。

私はクリント・イーストウッドからアメリカについてたくさんのことを教えてもらいました。

開拓時代におけるキリスト教伝道活動のタフさについて知ったのは『ペイルライダー』です。『許されざる者』では黒人カウボーイがいたことを知りました。

最近のクリント・イーストウッドが演じる男性主人公はレイシストでセクシストなのですが、情にほだされて、最後には有色人種や女性を守る側に回ってしまう話が多いように思います。
『グラン・トリノ』『ミリオン・ダラー・ベイビー』『運び屋』『クライ・マッチョ』はそういう話でした。

イーストウッドは現在アメリカのかかえる分断の問題を根はレイシストでセクシストなのですが深いところではいい人という葛藤を抱えた人物を造形することによって、白人男性の口に出せない不適切な本音を物語レベルにおいて和解させようとしているのだと思います。

アメリカのことだけでなく、戦後70年間日本人のほとんどの記憶から忘れ去られようとしていた硫黄島の死者たちのことを『硫黄島からの手紙』で教えてもらいました。日本の兵士たちがアメリカ軍と戦って死ぬ映画で、その日本人兵士たちのたたずまいの描き方の精密さが日本の観客たちを感動させました。

このコラム書いて一つの計画が出来ました。

クリント・イーストウッドの出演作&監督作を全部見ようと思います。
調べると膨大な数があり、名作・傑作・凡作・怪作・珍作など様々のものがあり、楽しみでたまりません。

近いうちに全作品を見るつもりではあるのだけど今回は、イーストウッドの主演作から、特にもう一度見るのを楽しみにしている3作品を紹介します。


➀『ダーティハリー』 1971年公開

ハリー・キャラハン


ドン・シーゲル監督による大ヒット作。
彼の当たり役となり、シリーズ化され『ダーティハリー5』まで作られます。

イーストウッドが演じるハリー・キャラハン刑事は被害者より加害者を守るような新法や偽善的な社会の変化に逆らい、暴力的な手段も辞さずに信念と正義を貫きます。70年代という急速な社会の変革が起こっていた時代の矛盾に逆らう、時代遅れで孤独なヒーローです。

法律が尊重されるあまり、無差別殺人でさえ簡単に釈放されてしまう現状。ハリーは組織と規律に背を向けて独断で悪を始末します。

クライマックスで彼の怒り満ちた44マグナム弾が放たれます。すべてが終わった後、警察バッチを投げ捨てるシーンが印象的です。この時点では、シリーズ化する予定はなかったのでしょう。

また、アンドリュー・ロビンソンが演じる悪役・スコルピオが素晴らしいです。金を要求するが決して金目当ての犯行というわけでもなさそうだし、「歪んだ現代社会が生んだ悪」なんて安っぽさもない。

とにかく人を殺すだけ。そこにプライドもこだわりも人間味もないので、ただただ純粋な「悪」を演じます。

純粋なる悪のスコルピオはひたすら自由に、追うハリーは法に縛られひたすら不自由に、この対立構造が作品を面白くしています。


②『許されざる者』 1992年公開


クリント・イーストウッドが師と仰ぐドン・シーゲルとセルジオ・レオーネに捧げた西部劇。監督と主演共にクリント・イーストウッドです。

カウボーイは人種障壁が低い職業なので、そこに他の仕事に就けない解放奴隷の黒人たちやアジアからの移民たちが参入したのは当然のことです。

けれどもハリウッド映画はフロンティアの開拓に白人以外の人種が関与したということを認めませんでした。
この映画では、モーガン・フリーマンが黒人のカウボーイを演じています。

西部劇であるならば、『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』に見られる、ガンアクションを期待してしまいますが、この映画の中ではみんなよく弾をはずします。当時の拳銃は雨が降っていると打てないことを教えてくれます。『夕陽のガンマン』でイーストウッドは雨の中で華麗なガンアクションを決めていたような記憶があります。

西部劇では、容赦ない暴力が炸裂する非情の世界が展開しますが、この映画では人の命を殺めるって事がどれだけの事がリアルに描かれます。
「殺してしまったよ」と大騒ぎするシーンがあります。

従来の西部劇の概念を覆した内容です。リアルさを溜めに溜めて溜めた挙句にカタルシス展開持って行くところが、映画だなと唸らせます。

悪徳保安官役のジーン・ハックマンは素晴らしく、クリント・イーストウッドとの夢の対決のような作品でもあります。

ウィリアム・"ビル"・マニー


③『クライ・マッチョ』 2021年公開

マイク・マイロ  かつてはロデオ界のスターだった


監督・主演クリント・イーストウッドの最新作。

90歳を過ぎたクリント・イーストウッドが演じるマイクと14歳のエドゥアルド・ミネットが演じたラフォのふたりがメキシコ向かって旅をする物語です。

メキシコに入り、車を走らせている横を、数頭の馬が平行して走っているシーンがすごく気に入っています。

老人と少年の関係構築のストリーなのですが、馬と車が媒介となっています。車が故障したり、盗まれたりするので、何度か車を乗り換えます。少年は時々、車を運転したがるのですが、未成年なのでマイクはそれを許しません。

代わりに、馬の乗り方は教えてやると言います。90歳を過ぎたイーストウッドの乗馬シーンを見ることが出来ます。馬が似合う。そんなことはわかりきっているのですが、すごく様になっていて、馬とともに生きてきた男の姿に感動します。

乗馬シーン以外にもイーストウッドの過去の作品を彷彿シーンが多数あります。

少年の交流は『グラン・トリノ』で見られたものであり、誘拐犯と少年の逃避行は『パーフェクト ワールド』と同じです。マイクが警官に追われ、麻薬所持を疑われるシーンは『運び屋』を連想させます。
マイクがうたた寝(帽子をかぶったまま眠る姿)は『荒野の用心棒』を匂わせます。イーストウッドのフィルモグラフィーにもなっています。

「マッチョであることは大したことではない。」

穏やかなラストシーンは、『夕陽のガンマン』『ダーティハリー』とタフガイを演じてきた男のラストシーンとも重なって温かな余韻を残します。

(text by NARDAM)


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