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ひとめで伝わるカバーを作る! 〜『健康断食』ができるまで〜【本の表の裏ばなし】

「本の顔」と言ってもいいほど大切な「表紙」。今回は、『健康断食』を題材に、ブックデザイナー目線で、こだわりや注目ポイントを熱く語ります。

こんにちは!文響社デザイナーの森下陽介です。
今回僕が担当したのは、『医者が教える 健康断食』(ジェイソン・ファン/ジミー・ムーア著)のカバー・帯デザインです。

「断食?よくある健康本か?」と原稿を読んでびっくり! 著者が集めた膨大なデータと被験者の体験談は本当に大量で、そこから導き出される断食メソッドの説得力が、もうすごいんですよ!

ちょうどその時、長期間続けているダイエットの成果がなかなか出ていなかったこともあり、読了後すぐに断食を実践したほどでした(今ではすっかり習慣になっております笑)。

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断食の魅力や素晴らしさをガツンと伝えてくれる『健康断食』!本書のカバーデザインが、どのように出来上がったのか。各ポイントに沿って解説します。

何を軸に伝えよう?

まずはカバーのラフデザインです。この本のカバーには、どんな切り口が考えられるでしょうか? 僕は4つのアプローチを考えました。

① 「断食」というメインテーマをクローズアップする。
② 『医者が教える』という独自性を強調する。
③ レシピが載っていて実践的だということをアピールする。
④ 健康促進やダイエット効果など、断食の効能を推す。

①もっともシンプルな考え方ですね。

②著者自身が医師であり、長年の研究によるデータがいくつも載っていて、非常に説得力があります。ここをPRするのも有効かもしれません。

③この本の後半には断食中におすすめの食事レシピが載っています。これも大きな特徴です。「え?断食中でも美味しく食べられるメニューがあるの?」と、この部分を素敵だと感じる人もいるでしょう。

④健康書に多い方法です。ダイエット本ならすっきりと引き締まったウェスト、健康本なら快活な笑顔、などを表紙にして、読者にその本から得られる効能に価値を感じてもらうというものです。

「ふ〜む…。どれも出来そうだけど、どうしよう…?」

こういうとき僕は、それぞれのパターンで簡単なラフ(画像参照)を作り、編集者と検討するという方法をとります。

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どの方向性で進めるのがふさわしいかは、本の内容を熟知し、より俯瞰して捉えている編集者の意見がやはり頼りになります。また、カバーや表紙はそれ単体での良し悪しを評価することにはあまり意味がなく、必ず内容を踏まえての方向性の判断が必要です。

だからこそ僕は、カバーをデザイナーの独断で作り上げたり、逆に編集者に任せきりにするのではなく、関わるメンバー皆の『本に対する価値観』を一致させることを大切にしています。

今回も数度の話し合いにより、「『健康断食』というワードを覚えてもらいたい」「ダイエットや美容に限った話ではないので、いかにも女性向けというビジュアルは避けたい」など、編集側の要望も知ることができ、結果①と②のアプローチで案を詰めてみることになりました。

ビジュアルの決め手は「分かりやすさ」

さて。打ち合わせの結果、カバーのアプローチは『①断食というテーマを伝える』『②医者が教えるという独自性を伝える』という2つのパターンを同時に検討してみることになりました。ここからはもう少し作り込んでビジュアル案を出してみます。

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最終的にデザインとして決定したのは、空のお皿の上に、『健康断食』の4文字が乗るシンプルなビジュアルです。①のアプローチのもっともストレートな回答と言えるかもしれません。問診票や聴診器を使用した②のアプローチのビジュアル案と最後まで争いましたが、やはり「何についての本なのか、一目でわかる」という点が決め手になりました。

雰囲気は書体でガラリと変わる

この頃、ビジュアルの選定と同時進行で書体の検討も進んでいました。タイトルの書体も大きなポイントです。

同じ「健康断食」というタイトルでも、書体が違うだけで受ける印象は大きく変わります。

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一番左は「G2サンセリフ」という書体です。太いだけでなくメリハリの効いたシルエットをしているので、見る側に与えるインパクトが強く、掲載されている情報の物量感や、主張の強さを感じさせる効果もあります。

中央は「ヒラギノ明朝」。ガラリと雰囲気が変わりました。タイトルのインパクトは少し弱まりますが、その分情報に対する信頼感や、細部までデータが行き届いている感じがします。反面、冷たさやちょっと難しそうな印象を与える懸念もあります。

一番右は「A1ゴシック」。少し滲んだようなあしらいがあり、独特の温かみがあります。こちらは「優しさ」や「親しみやすさ」を与えてくれます。しかし情報の信頼感という面では少し弱いかもしれません。

今回はカバーのビジュアルが白基調ですっきりとしていて、太い書体が映えること。そして背幅が約3㎝(!)もある、なかなかボリューミーな本になることを考えて、左の「G2サンセリフ」を採用することにしました。

帯もアプローチのパターンから考える

新刊書籍には欠かせない『帯』を作る際にも、必要なのはアプローチの方法と情報の優先順位です。推したいポイントがいくつかあるので、どれをメインで構成するのか整理しました。

①「Amazonでの評価が★4.7」という、インパクトのある数字
②「やせるだけじゃない」という本書が伝えたいメッセージ
③ 著者が医師であるというアドバンテージの部分と、断食の効能

一番大切な情報は①〜③のうちどれでしょう? それぞれのパターンで帯のラフを作って検討した結果、②を一番に押していくことになりました。

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これもカバーのビジュアルの時と同じく、最もシンプルに分かりやすく伝えられるメッセージは何か?という部分を考えた結果です。数字や細かな効能の羅列に比べて『やせるだけじゃない!』というフレーズの持つメッセージ性の強さは明らかですよね。

カバー作りはいつももどかしい

こうして『①シンプルなビジュアル』『②力強い書体』『③キーフレーズを載せた帯』という、潔いまでにストレートなアプローチの本書カバーは完成しました。

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ビジュアルや書体、帯といった個々のオブジェクトは単体で作られているわけではなく、全体でひとつの目的を叶えるためにある。そんなデザインの基本を改めて認識した案件でした。

本のカバーを作る時にはいつも、もどかしい気持ちを覚えます。中身を読んでもらえればきっと伝わるたくさんの魅力。それを限られた紙面のスペースにぎゅっと凝縮したいのに、上手くできずに悩んだり迷ったり、自信をなくしたり…。

それでも何回もの試行錯誤や頼りになる編集者との話し合いの中で、納得のいく方向性が見えたときには、達成感や喜びもあるものです。何より、そうやって作りあげた本が読者の方の手元に届くこと。それがとても幸せです。

今回は少し真面目な話になりましたが、こだわりと喜びがほんの少しでも伝われば、とっても嬉しいです。ご興味のある方は是非読んでみてください。私も断食つづけますよ〜!

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プロフィール

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森下陽介 Twitter:@morishita_book
文響社デザイナー。埼玉県の山の中出身。武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科卒。在学中にエディトリアルデザインを専攻し、卒業後は出版社で企業の社内報製作を中心に紙面デザインの経験を積む。文響社へ転職後は、うんこドリルシリーズや書籍のデザインを担当。学ぶことだらけの毎日の中で、多くの人に楽しんでもらえる本づくりを模索中。