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清涼感と心地よさ/雨の日におすすめのドラマ『ペンションメッツァ』

久しぶりに何もない休日だ。前日までは、商業施設へ足を運んで「涼みウォーキング」でもするかと考えていたが、朝起きたら梅雨らしいザーザー降り。出かけるのが億劫になった。

ジメジメする部屋の掃除を終えて、アマプラを覗いたら、以前観たかったドラマが配信されているのを見つけた。


舞台は森に佇むペンション

主人公は、長野のカラマツ林の一軒家でペンションをひとり営むテンコ。演じるのは小林聡美さんだ。自然に囲まれた家で穏やかに暮らすテンコを見て、昔こんな風に暮らすのを夢見ていたことを懐かしく思い出した。

私は『赤毛のアン』に出てくるグリーンゲイブルズが好きで、若い頃はよくインテリア雑誌を読んでいた。あるとき、掲載されていた一軒の家に目が止まった。32歳で自分の家を建てた女性の記事。2階建てで2部屋しかない。しかし緑に包まれた木肌のやさしい佇まいと、ひとりで暮らすために建てた彼女の潔さに魅かれた。何十年も前なのに、開け放たれた家の写真を、今でも鮮明に覚えている。

心地よさの正体

ドラマは1話25分ほどで全7話。一日で全話観たが、夜更けになってもBGMのように繰り返し観てしまった。第1話を観たときは、自分が憧れた住まいと弾ける緑、野鳥の声に引き込まれて心地いいのだと思ったけれど、途中でテンコという人物が心地いいのだと気づいた。

毎回、ゲストを演じる俳優と小林さんのほぼふたり芝居。大きな事件は起こらない。小さな不満や身に起きたできごとを語るゲストを、テンコは静かに見守る。決して鋭く踏み込まず否定せず、一定の距離を保ちながら、ときに彼らの背中を押すのである。

ファンタジーに落とし込んだリアル

もっとも印象深いのは、第6話の「むかしの男」。テンコの元彼・コマちゃん(光石研さん)が突然やって来て、ふたりは昔話に花を咲かせながら過ごす。以前に視聴した方の感想を読んでこの回の展開は少し知っていたけれど、「また会えるかな?」「うん、気長に待ってる」というやり取りを観たら、改めてコマちゃんの人生を思って切なくなった。私が昔出会った人たちは、今、何をしているだろう。どこにいるだろうか。コマちゃんとテンコに、自分の人生を重ねた。

印象的なシーンはまだある

ほかの回でも、印象深いシーンがある。第2話「ひとりになりたい」では、石橋静河さんが演じるキャンパーのミツエが、突如ペンションに泊まることになる。リビングダイニングにテントを張ったシーンで、子どものころの小さなできごとがよみがえってきた。

わが家の冷蔵庫が壊れた、ある年の夏休み。新しい冷蔵庫の梱包の大きな段ボールを見たら、妄想癖のある私はたちまち「家」がつくりたくなった。そこで、兄(あのお兄ちゃん)と家の中に「自分の家」をつくった。当時のわが家は、昭和初期に建てられた木造の田の字型住宅。子ども部屋など皆無だった。ふたりとも「自分だけの空間」に憧れていたのだ。夏休みの間、暇さえあれば(暇だらけだったけど)その家で過ごした。ただし、段ボールの家はひとりしか入れないスペース。お兄ちゃんと毎日取り合いになったあの段ボールの家、結局最後どうしたんだっけ?

第3話「燃す」のゲスト・カメラマンのフキ(板谷由夏さん)のエピソードも興味深かった。仕事に対する思いが、少し自分と似ていたから。しかし、あんなに潔く成果を燃すことは私にはできないかも。今、自分の荷物の半分が過去の仕事の資料だ。今月、長年携わっていた仕事が諸事情でひとつ終わる。このドラマを観たタイミングといい、これを機に、これまでやってきた仕事の資料はすべて処分しようか。重たい荷物も、今までやってきたことも、いらない。そんな気持ちになった。

第4話「道半ば」では、伊藤健太郎さんが自転車で日本一周をする大学生を演じている。当時、この回は諸事情(いろいろありますよ、人生)で放送されなかった。ちょっと悩める若者をとてもナチュラルに演じていて、伊藤健太郎っていいなあと単純に思っちゃった。

テンコのような大人に憧れる

ちなみに、第1話は役所広司さん、第5話は山中崇さん、第7話は三浦透子さんがそれぞれメインで登場する。各回のストーリーはゲストが主人公であり、テンコは受け身で傍観者のような立場だが、全体を通して彼女自身の生き方が描かれている。軸はブレないけれど、常に考えている人。とどまらない人。ラストは風のようだった。

エンドロールには、フードスタイリストの飯島奈美さん、写真家の高橋ヨーコさんの名前があった。『かもめ食堂』と同じメンバーだ。大貫妙子さんのエンディング「空飛び猫」と渡辺シュンスケさんが手がけた劇伴がとてもいいので、サントラ盤はないのかと探したが無かった。残念。

エンディングはここで聴ける。歌詞がドラマとリンクしているのもいい。

小林聡美以外では成り立たない

小林聡美さんは、毎日きちんと暮らして飄々としている役が似合う。『かもめ食堂』『めがね』『パンとスープとねこ日和』『山のトムさん』など、これまでさまざまな出演作品を観てきたが、本人と役柄がここまで同化している人も珍しい。

出演作品の中で、もう一度観たいのはドラマ『すいか』。20年以上前のドラマだと気づいて、叫び声を上げてしまった(笑)。「ハピネス三茶」に住みたかったなあ。9月には、小泉今日子さんと共演するドラマ『団地のふたり』が始まる。原作は藤野千夜さんの小説。わが家はBSが映らないので、まずは来月発売となる文庫本を購入する予定だ。


どんな人にも物語がある。
雨の休日、そんなことを考えながら。


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