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父が死んだ日からの悲喜こもごも②/急げ、明日は通夜だ

大変おこがましいけれど、引き続き、登場人物は父(橋爪功さん)、母(白石加代子さん)、姉(小泉今日子さん)、叔母(高畑淳子さん)、兄(大泉洋さん)、私(水野美紀さん)、追加キャストで親戚の夫婦(北村有起哉さん、坂井真紀さん)の超豪華メンバーで変換&お送りしております。ドラマ脳で、ほんとすみません!

1、無言の帰宅後もトラブル続き

慌ただしく家に戻った母らは、方々の身内に電話。しかし田舎というのはやっかいなもので、同じ親等の親戚でも兄弟で仲たがい中など諸問題を抱えていることが多々ある。例えば、こちらは分家のAさん・Bさん兄弟の両方に連絡したいが、兄弟2人は何十年と絶縁中。しかも母によると、その分家の長・Aさんへまず連絡するのが筋だから、Bさんに直接連絡できないというのだ。

「両方に、別々に電話したらダメなの?」と、病院から戻った私。

「なぜあいつのところに電話したんだ?」とAさんが言ってくるだろうとは、母の予想。また「あいつは来るのか?」「あいつが行くなら俺は出席しない」と言われるのが目に見えており、両人が揃っての出席はないという。身内の葬儀なのに?  信じられなかったが、そういうものだと説明された。

そうなると本家のわが家も立場上困るらしく(それもよく意味がわからなかった)、別の分家からAさんに連絡してもらい、そこからAさんが自分の一族に連絡という、ややこしい段取りを踏むことに。本当は、父と仲良しだったBさんにもぜひ葬儀に出席してもらいたかったが、案の定Bさんには一切連絡が届かず、彼が父の死を知ったのはそれから随分経ってからだったそうだ。

やれやれ、いつの時代の話なんだ。わが家の庭に、金田一耕助(石坂バージョン? 古谷バージョン? 吉岡バージョン?というおふざけは置いといて……)がふらっと来てそうな展開。遺産は、手入れが大変な山以外何もないけれど。

故人ファーストって難しいんだな。

一方、病院から葬儀社のスタッフ数人に運ばれてきた父は、南の縁側から座敷へあげられることになった。「段があるから気を付けて」と、縁側から手をのばした親戚。ところが、下から運んできた葬儀社スタッフの手から担架が滑り落ちるという事態が発生!

危うくドリフのコントになるところだった。びっくりさせないでほしい(苦笑)。

背後にいた誰かが、咄嗟に手を出して担架を片方キャッチし、なんとか父は地面に滑り落ちることなく座敷へと運ばれた。

2、遺影の写真を探せ! そして戒名問題

通夜、葬儀の日程にはいろいろなことが考慮される。まずはお寺さんへ連絡して、いつも盆や法事の際にお世話になっているご住職のスケジュールを確認。葬儀社や親戚と相談の結果、翌日通夜、翌々日葬儀と初七日を執り行うことになった。その他祭壇、棺、霊柩車、司会者、費用、通夜振る舞い、おとき(わが家では、葬儀前の食事のことをこう呼んでいた)、精進落としの手配……、夜のうちにやらなければならないことが山積みだ。

私と姉は遺影探しに没頭。「もっとちゃんとしたのを撮っておけばよかった」と思いながら、昔のやら最近のやら写真を引っ張り出してきて手分けして探す。いい写真を見つけたら、遺影のバックの色や背広の色はどうするかを決めて葬儀社にバトンタッチ。

母は親戚と、戒名を付けてもらう際の金額の相談。

「一体、いくら包むのが正しいのか?」

これがまた、宗派や地域性、ランクによって異なるかもしれないが、はっきり決まっていないから困る。例えば、過去にいくら寄付したかなど、その辺りも絡んでくるからだ。祖父が亡くなったときとは状況も違うので、母らは頭を抱えていた。

さらに隣保班の人たちが到着。当日の役割分担の相談がはじまった。うちの田舎ではかなり高齢化が進んでおり、葬儀の際に高齢の方々を引っ張り出すのは遠慮したいと、家族葬で済ませる家が増えている。わが家も「近所の人に葬儀を加勢してもらうのは気の毒だし、自分が死んだら家族葬にしてほしい」と父が生前言っていたのだけれど、父の具合が良くない頃その話をすると、親戚や父の友人に「お別れがないのは寂しすぎる」と説得されたらしい。

父の意に反していたが、みんながきちんとお別れできて(分家のBさんは例外だけど)良かったなと今は思っている。


と、ここで肝心なことを忘れていた。

喪主と弔辞問題。

誰がやるの? 誰に頼むの!?


3、開いた口がふさがらない

そんなこんなで、父が死んだ夜は遅くまで色々な人が入り乱れてバタバタしていた。ドラマみたいに、涙を流しながら、しんみりする時間など到底ない。母がテンパって、病院からさっさと家に帰ってしまったのも仕方ない(いや、仕方なくないよな)。

しかしふと座敷で眠っている父を見ると、おかしなことに気づいた。

口が開いている。

想像してみてほしい。横たわった父の口がポカーンと開いているのだ。

硬直前に、きちんと口を閉じたはず。なのに、開いちゃってる!  仕方ないので、誰かが少し強めにまた口を閉じる。しばらくすると、また開く。また閉じる。この繰り返し。あの手この手で閉じてみるけれど……。

本当にドリフのコントみたいになってきた。

そのうち「最後は胃ろうだったから、ごはん食べさせろって思ってるんじゃないの?」と母が言い出した。そして「おにぎりでも入れてやろか」と続けた。

確かに。頑固で即決タイプの父だから、「口から米粒食べさせろっ!」という強い意志が結果こうさせたのかもしれない。

ドタバタしていたその場が、一瞬だけ和んだ。

だけど、通夜・葬儀のときも口が開いたままになってるってことだよね、これは……。

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次回は、「喪主を務めるのは誰だ」「弔辞するする問題」などをお送りする予定です。



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