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それぞれの母の思い/大河ドラマ『光る君へ』第29回

(以下、ドラマの内容を含みます)

冒頭、家族だんらんのシーンで渾身の顔芸をする宣孝。それに対して、「今の、新しいですわね。もう一度お見せくださいませ」とねだるまひろ。宣孝の一瞬「えっ……」と戸惑った顔が、妙にリアルで可笑しい。穏やかな日々を想像させる。

もう誰が本当の父親かなんて、どうだっていい。そんな気分になっていたのに、あっという間の別れに呆然。それも、一通の手紙だけで。妾のつらいところでもある。やっと夫婦らしくなってきたところでの退場。元気なころの宣孝だけを覚えておいてほしいという北の方のことばに、私も、派手好きで世渡り上手な宣孝は人生を謳歌して、颯爽と去って行ったのだと思うことにした。

宋人を帰国させることができなかった為時が職を失い、宣孝もいない。窮地に立たされたまひろたちに手を差し伸べたのは、道長だった。百舌彦が主人の代わりに伝言するシーンは、じっとしていられないぐらいドキドキした(笑)。がんばれ、百舌彦! みんなパリに向かって旗を振ってるけど、私は家で百舌彦に向かって旗を振ってたよ!

それにしても、為時が断る理由などなかろうに。つくづく生真面目な男だ。まひろには守らねばならない娘がいる。大事な収入源を断っている場合ではない。

今週も、バッチバチの明子vs倫子。息子同士の舞対決。ねっとり明子の勝ち誇った顔がこわかった。しかし倫子は、入内した彰子の世話で正直それどころではないのかも。道長との間にも、何やら冷たい空気が流れている。2人の母は、子どものことで頭がいっぱいなのだ。それはまひろも同じこと。

彰子は彰子で、定子の忘れ形見である敦康親王を育てることに。といっても、彰子はこの頃まだ12歳ぐらい? 誰にも心を開かず抑揚のない彰子に近づいて、あれよあれよと懐く親王。お、おお!? 『源氏物語』の光源氏と藤壺の関係になぞらえたシチュエーションになっている。

具合の悪かった詮子が、四十歳を祝う儀式の場で倒れた。「薬は飲まない」という呪い。円融天皇が毒を盛られたあのときから、飲まないと決めていたのか。政治の道具となり、帝から愛されることのなかった詮子の苦しみと孤独は、とうとう最期までなくなることはなかった。自分の子の好きなものも分からない。その息子には、「こうなったのはあなたのせい」と責められた。儀式では微笑みあってはいたけれど、雪融けとまではいかぬまま。思えば兄弟の中でもっとも兼家に似ているのは彼女だった。道長にとっては素直に話せる頼れる姉。2人が姉弟として話しているシーンは、2年前の縁側で話す政子と義時によく重なった。

道長は、三郎の顔で詮子のそばから離れない。とどめなくつたう涙から、仲のよかった姉を失った悲しみと寂しさの大きさが分かる。もう詮子に頼ることはできない。この先、まひろ以外に心を開ける相手のいない彼は、孤独をまといながら政務を果たしていくのかもしれない。まあ、道綱はいるけども……(以下、省略)。伊周には呪詛され(詮子の死はこれが原因かも)、清少納言にもあんなに嫌われて。そして『枕草子』という強い光に悩まされることになるのか。

宣孝と詮子、ドラマの前半を彩った人たちが、今回またこの世を去った。そして道長にとっての光、いよいよ『源氏物語』誕生が近づいている。予告では、今週末からみんな髭メンに変化。時の経過を感じさせる。8月11日(日)は放送休止らしいので、また「え、この状態で2週間待たされるの、イヤーーーーーッ」という展開だけはやめてほしいのだが、さてどうなるか。

ところで、伊周と隆家の
「なぜこんなことになったのだ……。お前が院に矢を放ったからであろう」
「そこに戻る?(笑)」
という会話にツボり、いまだに何度も思い出して笑っている。

伊周、いい加減大人になりなよ……と言いたいけど、彼はこの先どうなるんだっけ?

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