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ネガティブ人間に沁みる登場人物たちの心の動き/ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』第2話~第6話

初回で、つらいリアルな主人公たちの暮らしぶりに咽び泣いたが、その後彼女らの買った宝くじが3,000万円の高額当選。「ご都合主義」論争が沸き立ちそうな展開に、ちょっと不安になったのが先月上旬。

ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』のことである。
(以下、ドラマの内容を含みます)

大金を得ても何かが違う?

3人で山分けして1人1,000万円。この金額は絶妙なラインを突いている気がした。1,000万円が突然手に入ったら、そりゃうれしいに決まっている。私ならまず、今年頭に車検で25万円もかかったオンボロ車と、オンボロパソコン、オンボロ洗濯機、オンボロドライヤー、オンボロスマホ、オンボロカメラ、オンボロプリンターを全て買い替える。そして国民年金を年払いする。そんなことをしていたら、あっという間に残金700万円。1年働かなかったら、さらに半分減る。ちょっと楽して暮らしたら、3年でなくなる額だ。

不安視していた若葉の母親がお金をたかりに来た時点で、「これまでつらい人生を送ってきた3人が、1人1,000万円で人生やり直して幸せになるのは無理ではないか」と思われた。それはサチも同様で、母・邦子が車イスになっても何もしてくれなかった父(尾美としのりさん! 『あまちゃん』ではあんなに家族大好きパパなのに)が、金のにおいを嗅ぎつけてきて、またもや視聴者の心を不安に陥れた。そして、高い買い物をしても空しさが募るだけの翔子。孤独を解消することはできないままだった。

友と出会って”諦めの人生”から抜け出す

「自分に奇跡みたいなことなんて起こるわけがない」。

そんな風に人生を諦めてきた3人を見ていると、「友達の家にはサンタクロースが来るけど、自分の家には来ないんだ」と思っていた自分と重なる。

宝くじが当たった後、3人の気持ちは少しずつ変化していく。例えばサチ。これまで無縁だと思っていたカフェに入ることができた。連絡が途絶えた翔子を心配して、彼女の住む街まで深夜に自転車を漕いだ。ヤングケアラーになって以来、憐れに思われたくないために親友と絶縁したサチを考えると、あり得ない行動だ。来てくれたサチを見て、「自分は1人じゃない」と喜びと安堵を覚える翔子。1,000万円を守るために、コツコツ貯めた92万円が入った通帳を母親に手渡した若葉も、これまでとは違う。自分には守りたいもの、実現したいことができたのだ。そのためなら92万円は惜しくない。東京まで出てきたのも、新たな一歩のためだから。

主人公たちを見守る”みね”という人

サチの「カフェを開きたい」という夢に、翔子と若葉は乗っかった。3人は、そこにみねを引き入れる。ああ、みねくん……。「女の人たちが楽しそうにしているのを見ているのが幸せ」と、穏やかに控えめに語ったみねくん。子どもの頃から「女と男、どっちなんだよ」とからかわれ、社会人になっても周囲に馴染めないみねくん。バスツアーで、サチら3人が仲良くなっていく様子を幸せそうに見つめていたみねくん。

「あいつ、ちょっと変わってるよね」と言われながら生きてきた自分を3人が信頼し、3,000万円の管理を任せるくだりが泣けた。おどおど戸惑いながら、でも内心は爆発しそうなぐらい嬉しくてたまらないみねを演じた岡山天音さん。いつもは「やっぱり天音くんが犯人?」「ここで天音くんが裏切る、みたいな展開?」と思わせる役が多いけれど、今回の天音(呼び捨て)は違う! 天使である。

3人の夢と共に進む、富士子と邦子

サチらは、理想のカフェにセンスの塊なんか求めていない。「そういうの、私たちに合わないから」「もっと敷居の低い、富士子や邦子のような元乙女たちも入りやすいカフェに」と、カフェプロデューサーの賢太に伝える。彼女たちの夢に、みねと賢太、そして富士子と邦子も加わり、カフェのオープンに向けて進んでいく。どうかこのまま上手くいってほしい。

第6話では、昔の暮らしへの執着に踏ん切りをつけ、若葉と一緒に東京に出てきた富士子が、邦子に語るシーンが特に印象的だった。「仕事も見つからないし、東京でどう生きていいか分からない」と珍しくふさぎ込む富士子。「車イスの邦子の力になることで、自分の存在意義を見出そうとしている。自分のために邦子を利用しているのだ」と、邦子に謝るのだ。富士子は、自分に嘘偽りなく生きてきたのだろう。娘があんな風に育ったことをも受け止めながら。仲良くなった邦子に対し、誠実でありたいと思ったのかもしれない。やさしく朗らかな邦子とは、いい意味で凸凹コンビになりそうだ。

つらい日々と日曜日のラジオの意味

印象的なシーンはもう一つ。3人を巡り合わせたラジオが、日曜日に放送されていることが明かされたくだりだ。ドラマ名の伏線回収。なぜラジオを聴きはじめたのか、みんなが語りはじめる。そして、若葉が学校で書いた「日曜の夜に死にたくならない人は幸せな人だ」という詩。「もっと楽しいことを書け」と低評価した先生に対して、猛抗議した富士子。ここに至るまでの主人公たちの生きづらさが、ドドドッと押し寄せてくる。けれど、今は邦子のつくるカレーがあり、富士子が居り、同じ夢を追う友達とそれを見守るみねがいる。夢を手助けしてくれる賢太もいる。

たとえサチの父親や若葉の母親が登場しても、きっと今の彼女たちなら対処できる。いや、ここはいっそのこと、鼓田ミナレのラジオ番組(最終回早すぎる……泣)で公開説教でもしてもらえば、一気に解決する気がしないでもないが。

登場人物たちに、完全に感情移入。だから皆が幸せに笑う姿を見届けたい。Mrs. GREEN APPLEの歌う主題歌「ケセラセラ」も好き。劇伴も好き。映画のような映像も好き。少しずつ変化していく彼女らを表現しているエンディングも好き。

どうか、全員が幸せになれますように。


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