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父が死んだ日からの悲喜こもごも④/右往左往しながら幕が開く


大変おこがましいけれど、登場人物は父(橋爪功さん)、母(白石加代子さん)、姉(小泉今日子さん)、叔母(高畑淳子さん)、親戚の夫婦(北村有起哉さん、坂井真紀さん)、兄(大泉洋さん)、私(水野美紀さん)、追加キャスト・幼馴染(小野武彦さん)& 僧侶(田山涼成さん)の超豪華メンバーで変換&お送りしております。ドラマ脳で、ほんとすみません!


1、いざ、斎場へ

眠れないまま、通夜の日を迎えた。通夜・葬儀は葬儀社の斎場で執り行うことになっており、朝から手伝いも兼ねて家に親戚が集まり始めた。また都合でどちらにも参列できない人たちが、昼間に自宅へお別れを言いに来てくれた。

客人が途切れたところで、通夜振る舞いに出す酒類や必要な荷物を姉と車庫まで運んだ。そのまま夜は家族や遠方からの身内が斎場に泊まるため、それらの準備もしていかねばならない。あれこれ荷物を車に積んだ記憶まではあるけれど、細かなことはごっそり抜け落ちている。かなりテンパっていたのだと思う。

母はいよいよ弔辞のお願いを、父の幼馴染のCさんへ連絡。「そりゃー、ワシがせんとな!」と快く引き受けてくれたらしい。 オー!   マイ   ガーッ!!  神よ仏よ、どうか我々をお守りください。

とにかく、もう祈るしかない。

この日からしばらく猫3匹の世話ができないので、彼女らの食事のことは隣のおばちゃんに頼んだ。

2、テンパったら、ろくなことがない

早めに斎場に着いたものの、司会者による父に関する聞き取りと打ち合わせ、供花や振る舞いの配達対応、供花の並べ方(ここでまた揉める)、ご僧侶への挨拶、方々への個別の挨拶、そしてリハーサルなど、その多くが同時進行でバタバタだ。

何かをしている最中もすぐ誰かに呼び止められ、「あれはどうなっているのか?」「これはどうすればいいのか?」と尋ねられる。ちょっと立ち止まると、今度は「ボーッとしてんじゃないよ!」と怒り出す。もちろん、おかっぱ頭のあの子ではない。母である。いやいや、今何をしなければいけないのか頭を整理しているところだったのに。指揮をとる人間がいないと、ただウロウロするだけで悪循環である。

遺族側を経験するのは小学生の時以来で、困惑することばかり。まして盆と正月しか帰省せず、大人になって親族の集まりにも顔を出したことのない自分は、明らかに浮いた存在。さらに地元の人がやってくると、「あれが大人になった末の娘か。ほほぅ」みたいな目で見られているのもわかり、謎のプレッシャー(笑)。それでも、子どもの頃とてもやさしくしてくれた従叔母が駆けつけて、束の間泣きながら姉と私と哀しみを分かち合ってくれたのはうれしかった。

斎場では、母が慌て怒りながら私たちを呼ぶ声がたびたび響く。悪いことに、姉と二人で積んだはずの通夜振る舞い用の酒類がごっそりない。 しばらく考えていると、「ああ! 車に積むとき置き場所がなかったから、一旦農作業用の軽トラックの荷台に置いて、そのままだ!」と姉が思い出した。

まさかの本日二度目の  オー! マイ  ガーッ!!

やってしまった……。二人で愕然としているところに「ほんとに役立たずな子供ばかりで恥ずかしい!」とまたもや母の怒号が響き渡り、その場が微妙な空気に(汗)。それを察知した叔母が、「まあまあ、そんなに怒らんでも。やることがいっぱいあってバタバタしてるんだから」と言ったが母の怒りは収まらず、何かわめいているのを背中で聞きながら姉と私は外へ出た。

外の空気を吸って一瞬考えた。はて、今準備しているのは、一体何の儀式なんだっけ?  

あ、父の通夜だわ。

***

あまり時間がないので、歩いてすぐの酒屋へ(後で考えたら、店に連絡して持って来てもらえば済む事だったような)。すでにこのとき靴擦れしていて走る気すらなかったが、テンパっている母の声がまだ聞こえたので、仕方なく走った。そして大量の酒を買い込んで運んだ。だが結果的に酒は振る舞いの終盤で足りなくなり(どんだけ飲むのか見当がつかない……)、二回買いに走ることとなった。

3、お兄ちゃんが帰ってこない

ここまでで、大泉洋ちゃんもとい、お兄ちゃんの出番なし。予感的中! この段階になっても、彼は帰ってこなかったのだ。実は「駅で少し並んだら、乗車券買えるやろう」と思って当日駅に行ったら、ちょうど3連休(←本人曰く、ここが欠落していたらしい)だったために、朝イチの新幹線のチケットが取れなかったという。それを知り、今まで何かと我慢してきた冷静な姉が「もう! あのバカ息子ー! 夜のうちに手配しとけよ、チケットはーー!!」と、誰もいないところで怒りの雄叫びを上げていた。仕方ないよ、お兄ちゃんはマイペースだから……。

もう全員テンパってるぞ。ちょっと例えが違うかもしれないが……、映画『地獄でなぜ悪い』状態。皆が変なテンションだった。

***

兄は、通夜開始の20分前に着く予定となった。本当に綱渡りじゃないか。 だがこちらから「今どのあたり?」とは聞けない。彼は携帯電話を持っていないから(←本人曰く、持っていても使う機会がないらしい)。連絡取るの、不便すぎる!

「〇〇駅に着いたら、タクシーで間違わずに〇〇葬祭の斎場に来てよ」と、列車に乗る前電話をかけてきた彼に念押し。たぶん本人はそれほどヒヤヒヤしていないから、余計こっちはヒヤヒヤした。

そしてギリギリ10分前、喪服を来たお兄ちゃんが登場。遺族の並ぶ列にどうにか滑り込み、間もなく通夜がはじまった。


***

次回は、「お肌ツヤツヤのひみつ」「斎場に泊まるということ」などをお送りします。
このままだと、全6回で終わらないかもしれない……。


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