俺たちお江戸のクリエイター 映画『八犬伝』に見たクリエイター魂
『八犬伝』をTジョイ京都にて鑑賞。レイトショー。お客さんは誇張抜きで10人くらいだった。300人くらい入る箱なのに……。お陰で快適である。私としては。
M・ナイト・シャマランの『TRAP』とどっちを観ようか迷いながら、やはり、ここは、駐車場代が無料になるイオンモールに軍配が上がる。
河原町界隈のMOVIXはそれで600円とか飛ぶからな。
ジョシュ・ハートネット好きとしては見逃せなかったが……、然し、シャマランは、『サイン』、『ヴィレッジ』は大好きなのだが、『レディ・イン・ザ・ウォーター』、『エアベンダー』、『アフター・アース』がキツすぎて、久しいこと観ていない……。
で、『八犬伝』。私としてが、ガンガンに連載されていた、『里見☆八犬伝』の印象が強いが、調べると、なんかリブートしていた。漫画版は犬塚信乃が女の子なのである。かわいいね。
で、今作は、山田風太郎の小説が原作。
曲亭馬琴と葛飾北斎、二人の偉大なクリエイターの物語である。
馬琴が北斎に『南総里見八犬伝』の物語の筋を語りながら、滝沢家で起こる実人生を描いた『実』パート、『里見八犬伝』の物語を映像化した『虚』パートが交互に流れて進行する構成。
上映時間は2時間30分。な、長い!私は長い映画は嫌いだ。然し、けれども、今作においては、それほど長く感じなかった。
実パートが1時間半、虚パートが1時間くらいの体感。虚は実に影響されて、物語は変容を見せる。
『南総里見八犬伝』は28年間に渡る長きにおいてようやく完結した作品なので、まぁ、休止期間も含みつつ、『HUNTER×HUNTER』さながらである。
頑固で真面目な曲亭馬琴と、飄々として風来坊的な葛飾北斎、この二人のやりとりがいい。物語冒頭は40代と50代の二人が、いつしか70代、80代を迎えていく。馬琴は、基本的には王道的かつ、勧善懲悪、丁寧な筋運び、的な物を作り好む真面目型だが、然し、途中で、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』と『仮名手本忠臣蔵』の初演、二つを1本の作品として交互に見せる芝居を北斎と見に行き、衝撃と怒りを受ける。鶴屋南北に挨拶に伺う際、先に舞台の奈落を見せてもらい、そこにいた鶴屋南北と藝術論議を始めるのだが、そこが一番面白い。馬琴は実である忠臣蔵を虚である四谷怪談とまぜこぜにして愚弄していると怒るが、俺に言わせれば四谷怪談が実で忠臣蔵が虚でしかない、と、非常にモダンかつ前衛的な創作方針の違いを言われて、怒髪天を突くが如しの馬琴。
まぁ、確かに、『里見八犬伝』は少年漫画みたいだもんな……と思いつつ、ここのやりとりは本当に良かったね。
こういうことはよくあることだ。藝術に関する信仰であり信条において、どうしても相容れないことはある。
反対に、あ、この人理解している人だ、とお仲間を見つけることもあるわけだ。
で、虚と実、と、いえば、まぁ、車谷長吉を思い出す。
車谷長吉は、常々、小説には虚点が必要だ、とそう言う。彼は私小説家だ。つまりは、実人生を反映させて小説を書くわけだが、まぁ、大半は嘘なのだそうだが、然し、仮に少量でも、実に虚を交えることで、私小説は真実味を増す。これとは反対に、創作小説、これは完全なる虚、なわけであるが、この大いなる虚にも実点を交えることで、作品は深みを増す。私小説の場合、虚点がない作品は成立しないのだという。
つげ義春も、実にリアリティのある漫画を画くが、基本的には嘘なのだという。実と虚、虚と実、実に奥深いテーマである。
まぁ、私は、鶴屋南北さんの考えに賛同するタイプだが、娯楽小説としては、曲亭馬琴の方が正しいのだろう。
この四谷怪談初演のシーン、良かったなぁ。キレイだったなぁ。中村獅童が出ていたね、監督の曽利文彦とは『ピンポン』や『ICHI』でもお馴染みだね。
で、まぁ、最後には、両目が見えなくなる馬琴、私はここで、そういえば、鷹村の網膜剥離疑惑はどうなったんだ?と、あの、イーグル線以来気になっている話題を思い出した。今、『はじめの一歩』ではマーカス・ロザリオと間柴の世界線の最中だが、ロザリオって魅力ないキャラだなぁ。
で、そんな風に見えなくなった馬琴が、義娘のお路の助けに依る口述筆記でついに『南総里見八犬伝』を完結させる。
私は、このシーンで、最近読んだ車谷長吉の本、『癲狂院日乗』において、図書館で見た、盲目の人が奥さんに外国語の宗教関連研究の本を読んでもらう様を見て、学問はここまでしてやるものなのか、と衝撃を受けているシーンを思い出した。
藝術とは、学問とは、そこまでしてやるべきことなのである。
八犬士の1人、犬坂毛野を演じる板垣李光人さんはきれいかったなぁ。『どうする家康』でも初登場で女装していたが、今作も女装していて、綺麗な女性にしか見えないもんなぁ。きれいかったなぁ。
で、そんな犬坂さんを観ていて、白虎隊愛が蘇り、昔書いた、誰も読んでいない私の小説を思い出し、ここにアップしておく。
美少年、といえば、曲亭馬琴も美少年作品、『近世説美少年録』という作品を残している。中絶作品だが、まぁ、善い美少年VS悪い美少年という、ウルトラにホットな題材の作品だ。ま、私は読んだことないが、すごく興味はあるのだ。
最後にネタバレだが、ラストは死亡した馬琴を迎えに来る八犬士、という、まぁ、これはどうなんだろうと、いう感じだったが、何せ、微笑む馬琴の歯が白すぎて健康そのものに見えたナ。